町の中央にある瑠璃ヶ丘駅の正面から、真っすぐ北に伸びる瑠璃ヶ丘商店街。杉の幹のような大通りの両脇に、枝のように細い路が複数伸びており、大通りの高いアーチ天井には隙間なくすりガラスが嵌められている。大通りにはカフェ、魚屋、肉屋、八百屋、床屋、居酒屋など大衆向けの店舗が並んでおり、アーチ天井のない小路の方には刃物屋、古書店、骨董屋、アトリエなど、普段はだれが利用しているのかわからないような店が軒を連ねている。     

「――あら、希春ちゃん! もしかして、今日から高校生?」

 そんな商店街の北側の入口、〈瑠璃ヶ丘商店街〉と書かれた、コバルトブルーのタイル装飾が美しいアーチ看板をくぐったところで、慈愛に満ちた女性の声が希春の鼓膜に届く。

声の方に視線を移すと、〈昭和三十五年創業 だんご宝船堂ほうせんどう〉と書かれた年季の入った看板と利用客のための小さな木のベンチ。暖簾(のれん)とショーケースだけの簡素な店舗の中では、一人の優しそうな老婆が、団子が陳列されているショーケースの奥で手を振っている。

「おはよう、おばあちゃん」と言いながら希春はスカートの裾をチョンと持ち上げる。

「えへへ、そうなんだ! 今日入学式なの」

 〈だんご宝船堂〉の店主、外(ほか)薗(ぞの)美代子(みよこ)は希春をじっくり眺めると相好を崩す。

「はぁ、時が経つのは早いねぇ。希春ちゃん、この前までこんなに小さな小学生だったのにねぇ」

 団子屋の店主は、希春には見えない豆粒のようなものを親指と人差し指でつまむような仕草をしながら言う。

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