輪郭
時間が秒で過ぎる、という言葉をたまに耳にする。時間は1秒ごとに進んでいるのだから当たり前だろ、と人知れぬ会話にツッコミを入れるのが癖になっていたが、このひとときだけは間違いなく"時間が秒で過ぎた"。
「そういえば、この前行ったホテルで盗難事件があったらしいよ」
「え、まじ?」
「お風呂に入っている間に部屋に入ったらしい。ほら、あそこ壁薄かったじゃん?だから、音でシャワー浴びてるとかがわかるのよ。」
1週間ほど前、渋谷のラブホ街で1番安いホテルに行った。お金がなかったわけではなく、週末でどこも空いてなかったのだ。おまけに壁が薄いから隣の音が耳障りで、全然気が入りきらなかった。
「いい迷惑だったよ。あの薄さ」
「新鮮でよかったけどね、私は」
あれを新鮮と感じられるポジティブさは持っていない。人は自分が持っていないものを持っている人に惹かれるらしい。
「家着いたわ」
「15分早いな~」
「ありがとう。またかける。いつでも出る準備しておいてね」
「うん。わかった。待ってるよ。それじゃあ、―――」
俺は、電話を発明したアレキサンダー・グラハムに感謝しなければならない。でもそれなら、携帯電話を発明したマーティン・クーパーか。いや、電話をしてくれた
そして、最後に英理は言った。
「それじゃあ、奥さんによろしくね」
玄関まで漂う魚臭で晩御飯がわかる。最近は
「おかえり、遅かったね」
「ただいま、玄関まで魚の匂いがすごいよ」
洗面所付近では、微かな固形石鹸から漂う香りを感じることができた。
「仕方ないでしょ、
「そりゃあ臭うな。てか、飯食ってきた」
「待って、連絡入れる約束は?」
寝室に入ろうとしていた愛歩が驚いた顔で振り返る。
「携帯の充電が切れてたんだよ、ごめん」
「...次はないよ」
声のトーンを落として
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます