第3話 暴漢
「シュー、急げ急げ!」
急ぐスティーブに続いてシュージは店の裏口から外に出る。裏路地は朝というのに薄暗く湿った独特の臭いを放っていた。シュージは一足先に出ていたスティーブに尋ねる。
「スティーブ、どっちだ?」
「こっちだ!こっちに来てくれ!」
そう言い、走り出すスティーブ。シュージも黙ってその後に続く。そのまま幾つかの路地を曲がるとスティーブはある路地の角で止まった。シュージが静かにスティーブの後ろに張り付くとスティーブは小声で路地の先を指差した。
「この路地だ……」
シュージがスティーブの頭の上からこっそりと路地を覗くとそこには、
「グヘヘ……」
「ヴェッヘッヘッ……」
「ヒヒ……ヒヒ……」
下卑た笑い声を上げる如何にも真っ当ではない三人の姿。そして、
「ムーッ!?ムーッ!?」
男の一人に口を塞がれ、声無く呻く少女の姿があった。そんな少女の様子を横目に男達は嬉しそうに話し始める。
「あっ、兄貴!この子可愛いね!」
三人の中で一番小柄な男が嬉しそうに声を上げる。
「あぁ、中々の上玉だな。健康状態も良さそうだし、このまま売りさばくにしろ、中身を個別に売るにしてもそれなりの稼ぎになりそうだぜ。」
小柄の言葉に答えたのは一番大きな巨漢の男だった。
「おいおい、そのまま売っちまうのかよ?ヘッヘッヘッ、その前にちょっと味見しようぜ。それが捕まえた俺達の特権ってやつだ。」
最後に残っていた中肉中背の男が少女に向かって手を怪しく動かす。中肉中背の言葉に巨漢もいやらしい表情を浮かべる。
「お前も好きだな。まぁ、俺もそれには同感だがよ。」
「兄貴、兄貴~。俺も!俺も!」
小柄が巨漢のズボンを引っ張って催促をする。
「ムーッ!?ムーッ!?」
目の前で行われる悍ましい会話に少女は更に必死に声を上げようとする。しかし、塞がれた口から洩れる音の大きさは先ほどと然程変わらなかった。
どれだけ活気に溢れた街も少し陰に入ればこのような輩が存在する。それは古今東西を問わず街というものの宿命である。その事はシュージ自身痛いほど分かっている事ではあったが、幼気な少女が被害に遭うのを見過ごす選択は彼の中には無かった。
「楽しそうに話している所悪いが、その子をこちらに渡してもらおうか。」
路地に入りながらシュージは男達に向かって声を掛ける。突然現れたシュージの言葉に巨漢が不愉快そうに顔を歪めながらシュージを見る。
「あぁ~!?何だお前!こいつは俺達の獲物だ!お零れが欲しかったら余所に行きやがれ!」
うっとおしそうにシュージを見ながら巨漢は害虫を手で追い払う様にシュージに向かって手を動かす。巨漢の返しにシュージは小さく溜め息を吐く。
「フゥ……残念だが言葉の意味が分からなかった様だ。仕方がない。今度はお前にも分かる様に言ってやろう。怪我を、する前に、その子を、置いて、今すぐ、失せろ。」
シュージが男達を挑発する様にわざと言葉を短く区切って伝えると、さすがに男達も馬鹿にされていると気付いた様で、
「あぁん!?舐めてんのか、手前!?」
怒りに駆られた巨漢がシュージに詰め寄る。頭一つは大きい巨漢の言葉にもシュージは慌てる様子も無く、
「舐めてなどはいない。俺はお前達に忠告しているだけだ。」
冷徹ともいえる視線でシュージは巨漢を見る。見る者が見ればシュージが纏う気配に寒気を感じたのだろうが、残念な事に巨漢はその様な機微を持ち合わせていなかった。
「あぁそうかい!だったらお前をぶっ殺してお前の中身も売ってやるよ!」
頭に血が上った巨漢が右腕を上げて振り下ろす。すると、巨漢の腕から巨大な刃が飛び出した。
「機械化(サイバネ)……タワーのクズか……」
変化した腕を見てシュージが呟く。巨漢は刃を見せびらかす様に高く掲げて、
「へっ、そういう事だ。相手を見ずに喧嘩売った自分の馬鹿さ加減に気付いたか?」
薄笑いを浮かべる。銀色に鈍く輝く巨大な刃を目にして、
「武器を出されたからには仕方ない。教えてやろう。選択を間違えたのは俺じゃない。お前達だ。」
そう言うとシュージは巨漢を指差した。そして静かに戦闘態勢へと体の重心を移動させる。シュージの言葉に巨漢は呆れかえった様に天を仰ぎ、
「分かったよ。手前の様な馬鹿には何を言っても無駄だという事がな!とっとと死にやがれ!」
言い終えると同時に右腕を勢いよく振り下ろした。巨漢の動きを見て、シュージは巨漢の腕の動きに合わせて自身の右腕を伸ばす。その行動に、
「馬鹿が!生身で機械化した腕が止められるかよ!」
嘲笑する巨漢。そのままお互いの腕がかち合う。その光景を見ていたほとんどの者が次の瞬間に哀れに千切れ飛ぶシュージの腕を想像した。しかし、
ガッキィッ!
強烈な金属的が路地裏に響く。それは巨漢の腕をシュージの腕が受け止めた音だった。
「はぁ!?俺の腕を受け止めたぁ!?」
目の前の事実に巨漢が間の抜けた声を上げる。
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