第3話 記憶の世界
ラミが、その呪文のような言葉を言い終わると同時に、彼女の指先に淡い光が灯った。ラミは、それを猫のような人物に近づけながら言った。
「頭に、物語にしたい記憶を強く思い浮かべて。間違って、別の事を考えては駄目よ。」
興味本位だった。
自分の能力の記憶に触れるというのは、まさにこういう場面のことを指しているのではないかと思ったのかもしれない。
俺は、自然と、淡い光の灯ったラミの指先に、自分の指をくっつけた。
その瞬間、視界が真っ白になった。
しばらく時間が経つと、視界が開けていき、辺りは、先程までいた図書館ではなく、町中になっていた。当然、雪も降っていなければ、寒くもない。
「これは一体……?」
横から、呟くような声がした。その声の主を見ると、ラミが呆然とした表情で、立ち尽くしていた。
俺が見つめていたのに気づいたのだろう、ラミは、俺の方を見ると、さらに不審そうな顔をした。
「どうして、私とあなたが、こんな場所に立っているか、あなたに分かるかしら?」
「……申し訳ないんだけど、俺のせいかもしれない。」
「どういうこと?」
俺は、ラミに自分の能力の事と、先程、ラミが記憶を本に移している最中に、自分の指をラミにかざしてしまった事を話した。
「……そういうことだったのね。まさか、あなたがこんな大魔法を使えるほどの魔法使いだったなんて。」
ラミは、納得とも驚愕とも言えないような表情で考え込んでいた。
俺は、とりあえず、この世界から抜け出す方法を探るために、辺りを見渡した。
すると、図書館に来ていた猫のような人物が歩いているのが見えた。
なるほど、つまりこの世界は、この猫のような人物の思い描いた記憶の世界というわけだ。ならば、この世界を脱出する鍵も、あの猫のような人物が握っていると考えていいだろう。
俺は、そのような考えをラミに伝えて、猫のような人物の後をつけて歩き始めた。ラミも、素直に俺の考えを肯定して、ついてきてくれた。
しばらく歩いたところで、急に猫のような人物が、誰かに話しかけられた。
話しかけていたのは、柄の悪そうな三人組だった。猫のような人物を囲むようにすると、そのまま路地裏の人目につかない場所まで連れて行った。俺たちは、それに隠れてついていき、様子を伺った。
話し声が聞こえてくる。
「お前、いい腕輪をつけてるじゃねえか。俺たちにくれよ。」
「止めてくれ、これは僕のおじいちゃんの形見の腕輪なんだ。」
「大人しく渡してくれれば、痛い目に遭うことはないぜ。」
「頼むから、これだけは見逃してくれないか?お金なら、払っても良いから。」
何やら、物騒な会話が聞こえてくる。
そんな会話を、俺と一緒に聞いていたラミが小さな声で囁くように言った。
「…おそらく、これが彼の保管したい記憶じゃないかしら。」
なるほど、だとすれば、この後の展開は大体予想がつくな、と思っていると、まさに、その予想通りの展開が目の前で起きようとしていた。
大図書館の少女とスローライフ ~過去改変の能力は辺境の図書館に珍奇な来客を増やしますか?~ 憂木 秋平 @yuki-shuuhei
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