第2話 一人の客人
ラミと名乗った少女は、よく分からないことを言った。記憶を物語にするとは、どういうことだろうか?
「いや、別に俺は目的があって、ここに来た訳じゃないんだ。ただ、迷って、ここに辿り着いただけで…。」
「そうだったの。」
ラミは、そのことに興味があるわけではなさそうで、特に言及してこなかった。俺にとっては、ありがたいことだ。もし、どこから来たのかなんていう質問をされれば、答えることが出来ないからだ。
「それで、記憶を物語にするっていうのはどういうことなんだ?」
「そのままの意味よ。私の能力であなたの記憶を抜き出して、本に物語として収めるの。この図書館にある本の半分くらいは、誰かの記憶の物語ね。」
なるほど、つまり、この図書館は、記憶を保管する場所でもあるわけだ。大切な思い出や、重要な情報を持った記憶を保管して欲しいという人は意外と多いのかもしれない。
そんな風に、この図書館の意義を考えていると、入り口の扉が開いた音がした。
「いらっしゃい。今日は、お客さんの多い日ね。」
ラミが、俺にしたのと同じように、応対する。入ってきたのは、二足歩行で歩く猫のような人物だった。獣人というのだろうが、見た目は、ほとんど猫に近いように見えた。
そんな猫のような人物が、頭に積もった雪を払いながら、ラミに声をかける。
「ここで、僕の記憶を保管してくれるって聞いたんだけど……。」
「ええ、もちろん、できるわよ。それじゃあ、そこの椅子に座っていてくれる?」
そう言われた、猫のような人物は、まっすぐに椅子に向かって歩いて行き、どっかりと腰を下ろすと、何かを考え込むように目を閉じた。
ラミは、大きな本を持って、その猫のような人物と向かい合うように位置された、椅子に腰掛けた。
「一応、確認しておくけれど、本に保管された記憶は、あなたから抜け落ちることになるけど、大丈夫かしら?」
「ああ、そのために来たんだ。もちろん、大丈夫だとも。」
「……そう、それなら良かったわ。」
ラミはそう言うと、少しだけ寂しそうな顔をした。
それにしても、保管する記憶がなくなるというのは、考えてみれば当たり前の事ではあるが、衝撃を受けた。そして、この猫のような人物が、そのために来た、と言ったことから、本に記憶を保管したいというよりは、自分の記憶を消すことを目的として、ここを訪れる人がいるのだということを理解した。
そんな風に、この図書館の別の側面について考えていると、ラミが、何か呪文のような言葉を紡ぎはじめた。何を言っているのかは、全く分からなかった。
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