大図書館の少女とスローライフ ~過去改変の能力は辺境の図書館に珍奇な来客を増やしますか?~

憂木 秋平

第1話 辺境の図書館

 人の記憶に触れることが出来れば、その人の過去の記憶から世界を改変することができるチート能力を手に、俺、雪下修は異世界に転生した。


 記憶に触れるというのは、過去の記憶を強烈に思い出したような人の頭に触れるということだ。そうすることで、その記憶の中に潜り、その出来事に干渉することで、過去を改変できる。


 …しかし、そんなチート能力を持って、転生したは良いのだが、ここは一体どこだろうか。


 視界に入るものが、ほとんど雪しかない、一面白の世界。人どころか、動物や植物すら見当たらない。これでは、俺の能力を生かすことなんて、出来やしない。


 唯一、雪以外のものがあるとすれば、前方に見える、大きな館のような建物のみ。


 そのため、俺は、先程からその館に向けて歩き続けているのだが、一向に近づいているような気がしない。


 白しか存在しない世界で、距離感覚がおかしくなってしまっているのだろうか。


 そんな事を思いながら、どれだけの時間を歩いただろうか。


 降りしきる雪が、頭や肩に積もり、寒さで手の感覚がなくなってきた頃、ようやく、その館に到着した。


 一刻も早く、体を温めたかった俺は、ノックをすることも忘れ、館の扉を開けた。


「あら、いらっしゃい。」


 俺が、館に入るなり、そう言って声をかけてくれたのは、綺麗な銀髪をした少女だった。透き通るような声をしていて、全体的に色素の薄い感じがする。


 俺は、そんな彼女に、ここが何処なのかとか、あなたは誰なのか、何ていう質問をするよりも前に、ただ体を温めたいという気持ちを優先して口を開いた。


「あの、何か体を温められるものってない?」


「ええ、あるわよ。今、持ってくるわね。」


 そう言って、彼女は、奥にある扉の中に入っていき、温かい紅茶と毛布を持ってきてくれた。


「ありがとう。」


「別に良いわよ、気にしなくて。これも仕事だもの。」


 仕事とは何だろうか。体が温まってきて、ようやく冷静に物事を考えられるようになって、はじめて、周囲の景色が目に入った。


 一面の本。


 天井まで続くような巨大な本棚に、本がぎっしりと詰まっていた。そして、さらに驚くべきことに、この空間には本棚以外のものが存在しなかった。


 そんな圧倒されるような光景を目にして、俺は彼女に対して、自然と口を開いていた。


「……ここって、図書館なのか?」


「ええ、そうよ、ここは辺境の大図書館リブルレア。そして、私はこの図書館の司書、ラミ。あなたも、自分の記憶を物語にするためにここに来たのかしら?」

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