第17話 決戦

 今回の目標の首都城は、トウカン地方のほぼ中心部にある。

 ボクとラクシュンは、その首都城を遠くに見て、それから目の前の要塞郡に視線を移した。覇国天武の要塞群。それはまるで1つの街のように、隙間なく一面に広がっている。


「これを全部破壊するのは、結構な骨だね」

「そうでしょうか? 200人規模の攻撃ですよ、気を抜いたら一瞬です」

「そんなに一瞬?」

「ええ。なかなかの規模ではありますが、それでも、です。オセロと一緒です」

「オセロと一緒ねぇ。ってことは、こちらも同じく、一瞬でひっくり返されるかもしれないってこと?」

「もちろんです」


 なるほど。

 こちらはオフェンス側。目の前に広がるすべての要塞の破壊する。

 相手はディフェンス側。要塞郡を防衛し、なおかつ、こちらの要塞群を更地にする。

 やるか、やられるか。

 重要な局面だ。


「ラクシュンが見るに、勝算はどのくらいあるの?」

「気になりますか?」

「うん。気になる」


 軍師は唇を尖らせた。

 理由は分からないが、あまり言いたくないみたいだ。でも溜め息をついてから、教えてくれた。


「8割勝ちます」

「そんなに?」

「はい。士気が違いますから。集団戦闘でもっとも大切なのは士気です。だから一流の将は、戦の前にげきを飛ばすんですよ。士気が高まれば、あとは集団心理で押し潰せます。士気の点で圧倒的に有利なんですよ。

 こちらは、勝ってこの場にたっています。相手は負けてこの場に押し込まれました。しかもこちらを関所まで押し込んだ、優勢な状態からです。

 仮に、1対1の戦いなら、まだわかりませんが、集団戦となれば、この差は絶望的です。恐らく、時間はかかるでしょう。それでも、長くて3日です。実に。実につまらない戦いです」

「こっちの負け筋はないの?」

「良い心構こころがまえです。どんなときでも、負け筋を頭に入れておくのは大切です」


 それから軍師はいたずらげに笑って、こちらをみた。


「ありますけど、聞きますか?」

「なんか怖いね。一応、聞いておきたい」

「明確な負け筋が、ひとつ考えられます。ゆる集の裏切りですよ」

「それは、ないかな」

「はい。つまりは、そういうことです」


 軍師は、遠くにある首都城を見て言った。


「負けることのない、戦いなんですよ」


§


 戦いが始まった。

 いくつもの戦いが起こり、戦線の押し引きが繰り返される。戦線は連合側が、わずかに押し上げた。

 ──それしかできなかった。

 ラクシュンは勝率8割と言ったが、あぐらをかけるほどの差はないように感じた。


 深夜、蓮華白夜の会議室に、ボクとラクシュンは呼ばれた。

 蓮華白夜専用チャットルーム。

 そこには、からすさん、桐生さん、シンさんの3人がいた。


「急に来てもらってすまない」


 からすさんは、そう言ってはじめた。


「今回はテルにお願いがあってきてもらった」

「お願い、ですか?」

「ああ、いま重要な局面であることは、承知している。だが、体調が優れないくてな。申し訳ないが、以後の指揮全般を桐生に任せることにした。シンと桐生にはすでに話はしてある」

「それはしかたないですね。ご自愛ください」

「そこでだ。テルルに、桐生のサポートを頼みたい。桐生は頼れるヤツだが、最初からなんでもできるわけじゃない。荷が重いことだってあるだろう。だからこそゆる集盟主のテルルにお願いしたいんだ」

「桐生さんは人望もありますし、盟主の素質もある方だと思っています。ボクができることなんて、なにもないと思いますが」

「そうでもないさ。こいつだって人間だ。頼りの1つや2つ。欲しいときだってある」


 そう言われて、ボクは少し前のボクを思い出した。

 ラクシュンがいたから、なんとかここにいられた。

 もし桐生さんがそういう状態になったら、力になってあげたいと思う。ボクがそうしてもらったように。


「わかりました。どの程度お力になれるかはわかりませんが、微力を尽くします」

「それを聞けて安心した。桐生からなにか言っておくことはあるか?」

「なんか知らんが、そういうことになった。短い間だと思うが、よろしくな」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

「話は以上だ、夜遅くに悪かったな。各員に敵の攻撃に備えて守備部隊の配置を忘れないように伝えてくれ」

「わかりました。お疲れさまです」


 そういって、ログアウトしようとした時だった。


「──テルっ」

「? なんでしょうか?」

「明日の朝。部室に来られるか」

「──やっと、前日に誘ってくれましたね」

「そんなに!? もしかして朝に言われるの、嫌だった?」

「普通はそうですよ」

「わるい。迷惑かけてた」

「大丈夫です。先輩のことですから。それでは明日、──よろしくお願いします」


 なんだろう。

 少しは、認めて貰えたのだろうか。

 ほんの些細ささいな変化だったけれども、ボクにとっては嬉しかった。

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