第15話 3人麻雀


桐生:はーい。今日も朝練しまーす

桐生:部室に集合です



 ゲーム内連絡で、また凪先輩に呼び出された。もはや、呼んだらいつでも使える、フリー素材くらいに思われてそうだ。

 凪先輩はゲームが強いから、色々勉強になって楽しい。でも、朝にいきなり呼び出しをするのはちょっと勘弁してほしい。せめて前日とかに連絡をくれれば、すごくありがたいのに。そんなことを思いながら、身支度をして朝食もそこそこに部室に行った。


 部室の扉を開けると、中には二人いた。

 凪先輩と、真心先輩だ。


「なにやってるんですか?」

「「ゲーム」」

「……すみません。聞き方が悪かったです。なんで真心先輩がここに?」

「凪に呼び出されたの。3人麻雀サンマーするから来いって」

「心中お察しします」

「貴方も大変ね。変なのに目をつけられて」

「何いってんだよ。お前、輝呼ぶっていったら、結構ウキウキだったじゃん」

「バカ言わないでっ。仕方なく来てるんだから」

「へぇ。オレより先に来てたヤツが、仕方なくねぇ」

「うっさい!」


 ボクは何を見せられているんだろう。

 先輩達が、仲良く喧嘩してても、ボクにはなんの得もないのに。


「そんなことより、やるならとっとと始めましょう。途中で打ちきりになったら興ざめです」

「そうだな、そうしようぜ」

「ところで、麻雀牌って部室に置いてるんですか? ボク、見たことないですけど」

「ないよ。どんな理由であれ、ギャンブルの印象が強い麻雀が見つかったら即レッドカードだから。そんなん置いとけないだろ、って」

「じゃあ、そうするんです」

「スマホあんだろ」


 なるほど。どこぞの麻雀アプリを使えば、牌がなくても遊べるのか。


「オレは麻雀牌をつまみたい派なんだけどね」

「じゃあ今度どっかに集まってやりましょうよ。紗儚も呼んで」

「あ。それいいな」


 何だかんだあるけど。先輩2人、仲がいいんだなぁ。

 そう思いながら、アプリを起動して、麻雀を始めた。


 内容は。

 ──めちゃくちゃだった。


 凪先輩の親からの先制リーチ。即座に和了あがって、リーチ、一発、ツモ、ドラ4、裏4。リーチはすべてを凪ぎ払う。麻雀の原点にして終点。麻雀に難しいことはいらない。4面子、1雀頭をそろえて、ツモって裏を乗せるだけの簡単なゲームです。

 次局、凪先輩はドラの「北」をカンした。さらに新ドラを「北」に乗せる奇行を行った上で、ツモ、三暗刻、ドラ8で三倍満。最後はダブルリーチ、ツモ、小三元、混一、北で三倍満で全員飛んで一回戦が終わった。ボクは座って、眺めているだけだった。置物の方が、絵面としてマシだったかもしれない。

 二回戦目は、真心先輩が凪先輩とバチバチに戦っていた。凪先輩が、親の真心先輩に三元牌をすべて鳴かせ、大三元を確定させた上で、リーチをかけた。でも今度は、一発で当たり牌をつかんでしまい、真心先輩に放銃。48000点払いで終了した。ボクが「親の大三元確定させるなんて、どんな手配ですか」と冗談めかして言ったら、手配を見せくれた。国士無双十三面待ちのフリテンリーチだった。本人曰く「絶対勝てると思った」そうだ。

 ボクは確信した。この人はゲームをさせたら人間じゃなくなる。みんなが作った常識を、を、空気を、読まない。

 三回戦目は、ボクの番。にはならなかった。ラス親の真心先輩がピンフのみを4回上がって終わった。


「あー。楽しかった」


 凪先輩が、良い笑顔でそういった。

 そりゃあんだけ大暴れしたら楽しいだろうよ。

 その言葉は、心のなかに留めた。


「そうね、またやりましょうね」


 真心先輩。この面子で3人麻雀サンマーは、もう絶対やりませんよ。

 その言葉は、心のなかに留めた。


§


 放課後。

 ふくっち、アルルと平和な三人麻雀サンマーを楽しんでいると、部室の扉がノックされた。内心ドキドキしながら、扉を開けるとそこにいたのは紗儚先輩だった。


「輝君。話があるんだけど、このあと時間取れるかな?」

「はいっ。大丈夫ですっ! 場所、移した方がいいですか」

「そうね。ちょっと二人だけで話をしたいから」

「わかりました、すぐ準備します」

「ありがとう。福良さんと有城さん、新堂君をお借りしますね」

「はいは~い」

「盟主がんばってね」


 そういって、二人は快く送り出してくれた。


「あんまり人が来ない方が良いですよね。ちょっと遠いんですけど、良い喫茶店があるんで。そこにいきましょう」


 紗儚先輩から、話があるって、なんだろう。

 ──麻雀かな。まぁ、それは違うか。

 なんだろう。

 ちょっと怖い。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る