第14話 関所

 手をあまく組んで親指と親指を並べて擦り回す。

 そんな指遊びでも、落ち着かず、ため息をついて空を見上げた。

 そこには星が煌めいている。



「──ねぇ、ラクシュン」

「なんでしょうか?」

「本当に5人で関所攻略って、できるかな?」

「別に、ゆる集で城の攻略なんてお手のもの、だったじゃないですか」

「その時は前盟主のシシさんがいて6人だった上に、城のレベルはマックスでも6だったから。でも今回は5人のうえに、関所のレベルは7だよ」

「よかったじゃないですか。前盟主を越えれますよ」

「別に、越えたいわけではないんだけど」

「いいえ。これは大切なことです。前盟主よりも大きなことをすることで、盟主の方が、前盟主よりも統制力が上であると、証明できます」

「それって、大切?」

「ええ、とっても。自分の能力を100%出せる盟主についていくのと、120%で動ける盟主についていくの、どっちについていきたいですか?」

「120%の方」

「それが答えです」

「──でも、それがボクにできるかな」

「なんですかそれ? 無自覚系男子ですか?」


 ラクシュンは冗談めかして言った。


「正直、全く自信がなくて──」

「マジか。マジなのか」

「マジです」

「あ~。ではお聞きしますが。盟主はいままで、盟主だけの力で問題を解決してきましたか?」

「いや。みんなのおかげで」

「それが答えですよ。盟主がやるわけじゃないんです。やるのは全員です」

「──確かに!」

「良い機会なんで言っちゃいますね。前盟主は有能でした。指示も的確で、戦闘能力も高く、カリスマがありました。それが前盟主の強さでもあり。

 ──まぁ、限界でもありました。みんな、安心してついていっちゃいますから。それに比べて、盟主はクズです」

「──そうだけど、もうちょっと、言い方が」

「でも、それが盟主の強さであり、才能です。今のゆる集は、常に背水の陣なんです。だからみんな必死になります。言われたことを忠実にこなす戦いと、常に失う危険性リスクがある戦い。どちらが個々の力を発揮できると思いますか?」

「それは、もちろん。後者です」

「そうですよね。戦いにおいて兵が一番能力を発揮できるのは、死兵になったときです。そして、盟主の仕事は兵を死兵にすることです。つまり、今のゆる集にとって、盟主が盟主であることで、一番力が出せているんですよ。頑張るのは盟主じゃありません。一人ひとりです。だから『できるかな?』なんて寝ぼけたこと言ってないで、自分の仕事を全力でこなしてください。あとは適当に、全員を信じてください。──OK?」

「──確かに、そうだね。わかった。ありがとう」

「いいんですよ。それじゃあ、気合い入れて関所をぶち開けましょう」

「わかった」


 やることをやる。

 それだけだ。

 ボクは頬を叩いて気合いをいれた。


「ラクシュン。ありがとう」

「これが私の仕事ですから」


 ──ありがとう。

 心のなかでそう言って。

 同盟チャットに書き込みをする。


テルル:みんな、準備はいい?

ふく:おー

アル:いくぞー

速水:٩( 'ω')و٩('ω' )وガンバロー♪

テルル:それじゃあ

テルル:全軍、突撃ー!


 号令と共に、矛盾コンビが関所に突っ込んだ。

 関所に配置されているNPC20体を、次々に撃破していく。やっぱりこの2人の強さは飛び抜けている。いや。個々の強さじゃない。連携だ。相乗効果シナジーが強いんだ。

 NPC相手に、まるで手玉をとるようにさばいてしまった。


ふう:終わったよ~

アル:攻城班よろしく!

テルル:了解!

テルル:覇国の警戒をお願い

 

 さて、ここからが本番だ。

 ボク、ラクシュン、速水さんの3人で攻城に向かう。

 そこに、覇国天武の同盟員が現れる。


「やっぱり、来ますよね」


 向こうもしっかり、こっちの動きを読んできていた。

 でも、それは望むところ。あの時は関所を奪われた。その借りを、今返す。


テルル:ふうっち、アルル

テルル:よろしく!

ふう:も・ち・ろ・んっ!

アル:こっちは預かる


 2人が敵を足止めしている間に、関所の耐久値をガンガン減らしていく。

 攻城値はボクとラクシュンが250。速水さんが500。関所の耐久値は70000。

 単純計算で70回攻撃すればいい。邪魔が入らなければ5分くらいで終わる計算だ。矛盾コンビに、その5分を託した。

 敵も人数がいる訳じゃない。全部で5人。でも、なかなか強そうだ。NPCを20体相手にした後の体力では、2人ともかなり厳しそうだった。アルルは3分耐えたが脱落した。ほどなく、ふくっちも倒されてしまった。

 矛盾コンビは3人倒していた。

 敵は、残り2体だ。

 残り耐久値は11000。

 敵は目の前。

 ボクは攻城をやめて、敵と向かい合った。


「ラクシュン!」

「了解です!」


 ラクシュンは強化バフをかけてくれた。

 素早さ、スタミナ、防御。これで十分だ。

 あとは撹乱して時間を稼ぐ。

 ラクシュンと速水さんの2人なら、あと1分ちょっとで耐久値を0にできる。できるだけ、長引かせるっ!

 そう思っていた矢先に、速水さんを狙い撃ちにされた。2人が一斉に、速水さんにおそいかかる。最初に襲いかかった敵を、横から殴り付けた。だが、無理な体勢での攻撃がたたり、そのまま腕を捕まってしまう。

 できうる限りの早さで、相手に攻撃を叩き込んだ。

 お互い全力のダメージレース。

 それに、ボクは勝った。

 でも。

 ボクは間に合わなかった。

 そんなボクの代わりに。

 ラクシュンが速水さんに前に立った。

 腕を顔の前でクロスさせている。全力で受ける気だ。


 ──!


 空気が肺から出ていく。

 声にならなかった音は、自分の耳に入る前に。

 ──ラクシュンに強化バフのエフェクトが入った。


     ……防御と体力。50%強化バフ

 

 攻撃を受けたラクシュンは吹き飛んだ。

 関所の壁にぶつかり、それでも立ち上がった。

 何が起こったのか。それよりも先に、最後の一匹に向かって突っ込む。


     ……素早さと攻撃力。50%強化バフ


 ボクのスピードが上がる。敵の攻撃をかわし、カウンターで渾身の拳を、相手の顔面に叩き込んだ。

 そうして、敵を倒してから、ラクシュンに駆け寄った。


「ラクシュン! 大丈夫?」

「ええ。大丈夫です。むちゃくちゃ不快ですけどね」

「不快って?」


 ラクシュンは、ボクの後ろを指差した。

 そこには、8頭身のレッサーパンダが、シンさんが立っていた。


「ずいぶん、むちゃくちゃをするんだね。ゆる集って、無謀な人しかいないの? 本当に感謝しなさいよ。私が来てなかったら、みんなやられてたじゃない」

「ありがとうございます。でも、トウカン地方の方は」

「今から行くわよ。少し遅刻するかも、だけど。ココは主城のすぐ近くだから。心配で様子見をしてた。それで助けに来られたの」

「本当に、ありがとうございます」

「テルルの気持ちは分かったから。でも私は、どこぞの軍師さんも助けたんだけどなぁ~」


 ラクシュンを見た。焼きたてのお餅みたいな頬っぺたになっている。眉に深いシワを刻みながら、苦虫を噛み潰すような顔をして、ラクシュンは言った。


「──どうも、アリガトウ……ござい……まし──たっ!」

「えっ? ごめんなさい。聞こえませんでした。もう一回言って貰えますか?」

「──!」


 ラクシュンに発言禁止のペナルティが入った。

 それを見て、シンさんは満足そうだった。

 こうして、関所攻略は、ボクのため息で終わった。


 チュウキ地方への進軍は効果てきめんだった。

 覇国天武はチュウキ地方とトウカン地方を同時に攻められ、決断を迫られた。そうして、チュウキ地方を選んだ。チュウキ地方の進軍を止め、最終的に関所まで押し返した。一方で、蓮華白夜はトウカン地方の覇国天武の拠点はすべて破壊した。


 戦況が動いた。

 劣勢だった蓮華白夜が、五分五分以上まで、押し戻した。

 作戦は、大成功だった。


 もう少しだ。

 あとも、もう一押し。

 それで、この全国を二分した戦いに決着がつく。

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