第13話 煽り

 ボクとラクシュンは、蓮華白夜の作戦会議室に来ていた。

 空気がピリピリとしている。

 充電器置いといたら5分でフル充電できそうな、そんな空気だ。

 おそらく。戦略的に超重要な会議になるのだろう。

 ──現状。蓮華白夜とゆる集の連合軍は主に日本の北半分を領地にしている。そのなかでも安全な領地として、ホクトウ地方およびその北一帯。そして戦場となっている、トウカン地方の北。それ以外はすべて、覇国天武の領地になっている。全国をおおよそ二分している状態だ。

 トウカン地方で戦線は、押したり引いたりを繰り返している。

 そんな現状を変える一手を打ち出す。そのための会議になるのだろう。

 ピリピリとした空気のなか、最初に口を開いたのは、からすさんだった。


「今日集まって貰ったのは他でもない。現状を打破するための作戦について、みなの意見を聞きたい。考えられる方針は2つ。1つ目は、チュウキ地方の関所を攻略しての侵略。2つ目はトウカン地方の敵勢力の殲滅。この2つについて、どちらが良いか聞かせてくれ」


 それに動いたのは、シンさんだった。


「トウカン地方の敵戦力の殲滅を進言します。トウカン地方には首都城があります。首都城の確保は成員の士気を高めると共に、敵の士気を大幅に下げます。また、トウカン地方から敵を追い出せば、再度関所を攻略して、トウカン地方に侵入するのは、ほぼ無理です。逆にこちらは安全な領地を大幅に広げることができます。一方、チュウキ地方への侵略は時間がかかります。その間に、トウカン地方の戦線を押し上げられ、押し出されてしまっては、再度の攻略は困難です。トウカン地方に戦力を投入すべきです」

「なるほど。言いたいことは分かった。他に意見はないかな」


 誰もなにも言わなかった。

 反論のしようがないほど、筋の通った話だった。

 全員の意見が一致した。

 そう思っていた。

 でも。

 からすさんの一言で、すべてが変わる。


「では、ラクシュン。ゆる集の軍師としての、君の意見を聞きたい」


 ラクシュンは一度、からすさんを見た。

 からすさんは頷いた。

 軍師は小さくため息をついて、言った。


「大筋では同意します。トウカン地方の攻略は最優先です。でも、もし私が兵を出すなら、チュウキ地方へ向かわせます」


 全員の視線がラクシュンに集まる。

 それから、シンさんの声がした。


「興味深い意見ですね。ぜひ根拠を聞かせてください」


 ラクシュンは「だから嫌だったのに」というように口をへの字に曲げた。それから、避難めいた視線をからすさんに向ける。

 からすさんは笑顔で返した。


「聞かせてくれないか。その理由を。ゆる集の軍師には、何が見えているのかを」

「別に、たいした話ではありません。今の話がすべてです。トウカン地方、チュウキ地方。2つの選択肢があるのに、全員トウカン地方を選びました。だから相手も、同じくトウカン地方に兵を割くでしょう」


 ラクシュンは一度言葉を切った。

 それに、我慢できなくなったシンさんが口を挟む。


「──だから、チュウキ地方を攻める、と? 旨味も少ないのに?」

「旨味ってなんですか?」


 ラクシュンの鋭い言葉に、シンさんは一瞬怯んだ。

 それでもすぐに、言葉を返す。


「戦略的価値よ。仮にチュウキ地方に進軍したとして、確かに敵の重要拠点への圧力にはなるかもしれない。でもそれで優位はほとんど拡大しない。以上にトウカン地方を手にいれれば、士気は上がるし、安全な領地が増える。トウカン地方の戦略的価値は大きい。そんなの誰だってわかるでしょう」

「そう。誰だってわかります。それを踏まえて言っているわけですが」


 ラクシュンがシンさんの言葉にイライラしてるのは分かった。

 まぁ、いつものこと、か。

 そう思ったのが良くなかった。

 いつも動物形状アニマルフォームの2頭身でいたラクシュンが、8頭身の人間形状ヒューマンフォームに切り替えた。その長い足をテーブルの上に乗せる。その足はシンさんの方を向いていた。


「大同盟の参謀ともあろう方が、そんなこともわからんのですかねぇ?」


 ラクシュンが煽った。

 それもかなりお行儀の悪いヤツで。

 これは、どう考えてもヤバイやつだ。

 大事になる前に、止めないと。


 ボクは「ラクシュン!」止めに入った。

 ラクシュンは「失礼しました」しおらしく謝り、足をしまった。それから動物形状アニマルフォームに戻った。

 そんな様子を見て、からすさんは。


「シン。なにか言いたいことは?」

「──! ──!」


 公序良俗に反する発言は横線表示になる。さらに発言者はペナルティとしてしばらくの間、発言権を取り上げられる。それが適応されたらしかった。シンさんはしばらく発言できなくなった。

 からすさんはため息をついた。それから、冷徹に続けた。


「シンがもう少し冷静でいられれば、私はなんの躊躇いもなく君に厳しい言葉をむけられたんだがね」

「心中お察しします」


 ラクシュン。そこは反省とか、謝罪の言葉が出てくるところじゃないかな。からすさんも、そういう意図で言ったと思うよ。

 それに、その言葉は、シンさんからしたら完全に煽りだよ。

 そのくらいにしとこうよ?


「──ラクシュン。私は盟主だ。同盟員をないがしろにされるのは好きではないんだ。それが同盟戦の理由になることぐらい。君はわかっているだろう。私も、出来た人間ではないのでね。あとは、わかってくれるかな」


 言葉こそ、静かで丁寧だったが、凄みがあった。

 何があっても、大同盟の盟主を怒らせてはいけない。

 ラクシュンに視線を向けると、「すみません。気をつけます」と小声で言っていた。


「──さて、ラクシュン。もう少し詳しく教えてくれないか?」

「わかりました。先程も言ったようにトウカン地方に兵を向けることはします。ですがその効果を最大化するために、最初にチュウキ地方を少人数で攻めます。相手は、チュウキ地方に注意を向けているはずですから、対応してくるでしょう。ですが、その規模感を正確に把握するには、時間がかかります。相手が兵を少なく出せばそのまま進軍。多く出せばトウカン地方では数的優位に立てます」

「なるほど。チュウキ地方は注目を引き付けるため。そうして指揮が混乱している間に本命に手をかける、と」

「その通りです」

「では、そのチュウキ地方に当たるメンバーは?」


 あー。

 この流れはもう、あれだ。

 2人ともわかって言ってるヤツだ。


「──ゆる集。ゆる集で関所を開けて、ゆる集で、進軍します」


 そうだよね。

 完全にその流れだったよね。

 でもさ。ゆる集全員で、たった5人だよ。

 5人で関所を開けるって言った?

 相手の精鋭部隊でも20人必要だったところだよ?

 無理じゃない?

 そう思ったのは、からすさんも一緒だったようだ。


「できるのか?」

「できます」


 ラクシュンの力強い断言。それから。


「ね、盟主」


 こっちへ特大の爆弾を渡してきた。


「できぃ──……まぁ──す」 


 言っちゃった。

 言っちゃった?

 大丈夫? 大丈夫かな?

 確認するようにラクシュンを見た。

 満面の笑顔でうんうん頷いている。

 まぁ、そうだよね。

 できるかどうかじゃない。やるかやらないかだ。

 本当かな? できなかったら。。。


「というわけで、ゆる集でチュウキ地方の関所を開けて進みます。からす盟主にお聞きしたいのですが、我々5人を止めるために、何人必要だと見積もりますか?」

「関所を開けたあとの消耗を加味して、20人だろうな」


 そんなに!?

 大きすぎる期待は負担でしか無いのだけれど。


「では敵は180人でトウカン地方を守ることになりますね。宰相の桐生さんはどうでしょう敵の人数が180人だったなら、トウカン地方から駆逐できませんか?」

「余裕だね」

「というわけで、私はチュウキ地方の進軍を上奏します」

「──分かった」


 からすさんはそういうと、命令を下した。


「では、ゆる集はチュウキ地方の関所をあけ進行を。蓮華白夜は機を見てトウカン地方の敵勢力の殲滅を行う。決行時間は明日21時だ」


 それから、こちらを見て。


「関所を5人で開けるなんて、前代未聞だ。だからこそ、楽しみにしているよ」

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