第10話 桐生

 起きてからすぐ、ポケギガをチェックした。

 個別チャットに連絡が来ていた。

 差出人は桐生さんだ。

 緊急の連絡かと思い、身構えながらチャットを確認する。

 文面は短く簡潔だった。


桐生:これ見たらすぐに部室に集合!


 ──んん?

 桐生さんから、部室に来い?

 部室に行けば良いのはわかるけど、なんで桐生さんからそれが来るのかは、意味がわからなかった。


テルル:お疲れさまです。送る人、間違っていませんか?


 返信はすぐに来た。


桐生:え? テルルって、輝だろ。

テルル:あの、どちら様でしょうか?

桐生:凪だけど

テルル:……先輩、なにやってんですか!

テルル:いったいどんなルートで?

桐生:秘密

テルル:怖っ。マジで怖いです

桐生:先輩の特権だよ

桐生:あとはわかるだろ


 あー。古賀先生か。

 もともと、ゆる集に入ったのも、古賀先生紹介だったからな。知り合いが盟主やってて、ちょうど人手が欲しいって言われて。懐かしいな。

 それはさておき、だ。


テルル:分かりました。今から準備していきます

テルル:凪先輩はどのくらいで到着しますか?

桐生:もういる

テルル:おじいちゃんみたいに朝早いんですね

桐生:いいから早く来いよ

テルル:了解しました。ASAPなるはやで向かいます。


 朝食もそこそこに、学校の部室に向かった。

 こんな朝早くから部室に来させるって、なにごとなんだろう。

 学校につくと、部室に直行した。部室の扉を開ける。

 

「おはようございま~す」

「はいは~い。おはようございま~す」


 凪先輩は、弾幕ゲームを遊んでいた。


「まずは座ろうか」


 そういうと、横に用意されていた席をぽんぽん叩いく。 

 まさかとは思うが。この人は朝からゲームの相手をさせるために、ボクを呼び出したのだろうか。


「ボク、 上 級 者 ルナシューターですよ。いいんですか?」

「おもしろい冗談だな。二足歩行し始めたヤツが、天上天下唯我独尊って、言ってるようなものだぞ」

「じゃあ、手加減はなしでいいですね」

「煽りよるねぇ、テル君。どこまでもがき、苦しむか。見せてもらおうか。死ぬがよい」


 煽り合戦からのガチ勝負。

 その結果は。

 3回やって、3回負けた。

 凪先輩は、アホほど強かった。

 先輩は満足げに、こっちをみてくる。


「なにか言うことは?」

「……負けました」

「素直でよろしい」


 凪先輩は満足そうだ。


「ところで、です。聞きたいんですけど、なんでボクは呼ばれたんですか?」

「交流だよ、こうりゅー。これから先、ポケギガで一緒に戦うことが増えるだろ。今のうちにお互いを知ってたほうがいいと思ってな」

「なんでボクだけ呼んだんですか?」

「将を射んとせば、まず馬を射よ。ってこと」

「それ、この状況に合っていますか?」

「ん? わかんない。雰囲気」


 でしょうね。

 本当にこの先輩は、適当というかなんというか。

 でもまぁ、目的がわかったのでスッキリした。


「じゃ、そろそろ教室に行こっかな~。そうだ、今日の夜。ポケギガで遊ぼうぜ。今度は他の奴らも一緒にな」

「わかりました」

「それじゃあ、またあとで~」


 凪先輩はそう良いながら、背中で手を振って行ってしまった。

 変な人だ。

 まぁ、悪い人ではないことはわかった。



■ ◇ ■ ◇ ■ ◇ ■ ◇ ■ ◇ 



 夜、ポケット鳥獣戯画で、蓮華白夜同盟のゲーム内遊技場に招待された。そこにいたのは、ゆる集全員と、蓮華白夜の幹部3人だった。


「それでは、いまから両同盟の交流を深めるために、キツネリス捕獲大会を始めま~す。ドンドンぱふぱふ。この大会は、蓮華白夜とゆる集の交流が目的です。この建前を踏まえた上で、相手を全力で潰して、どちらが上なのか、白黒はっきりさせておきましょう。という企画です、いぇ~い」

 

 なんだろう。笑顔で勢いよくしゃべっているけど、なんか物騒なことを言っている。でも、周りは勝負といった感じは全然なく、むしろ穏やかだ。桐生あいつは放っておこう、という雰囲気なのかもしれない。

 桐生さんの開会宣言が終わると、順番にゲームを始めていった。


 このゲームはキツネリスと呼ばれるリス型の生き物を捕まえるゲームだった。牧場にランダムで現れるキツネリスを、1分以内にできるだけ多く捕まえることが目的だ。

 移動は「ダッシュ」と「歩き」の2種類。基本は、気づかれないように歩き近づいて、捕獲範囲内に入ったら、タイミングよくボタンを押して捕獲する。

 ダッシュは速いが、ダッシュでキツネリスに近づくと気づかれて逃げられてしまう。ダッシュで移動、歩きで近づいて捕獲。これを繰り返して、捕獲数を稼いでいく。


 だいたい平均が20前後。30台に乗ればなかなか。40台は変態。50台で神。といった感じだ。なお初めて50匹以上捕まえると、ペットとしてキツネリスをもらえる。これがめちゃくちゃ可愛い。激ムズな条件に加え譲渡可能ということもあって、超高額で売りに出されることもある。


 とはいっても、目的は交流だ。

 みんなそれぞれ、一緒に応援したり一緒に盛り上がったりしている。勝負といった殺伐とした空気はなく、きゃっきゃうふふを楽しんでいた。


 2人を除いて。

 ボクと、桐生さんだ。

 きっかけは、桐生さんの一言だった。


「なぁ、テルル。どっちが多く捕まえられるか勝負しようぜ」

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