第8話 関所にて

 ポケギガでは、現実世界と同じく、7つの地方に別れている。ホクトウ地方、チュウキ地方、トウカン地方、カンキ地方、コクチュウ地方、ヨコク地方、シュウキュウ地方。

 各地方は山で区切られている。別の地方へ移動する際には関所と呼ばれる特別な城を攻略しないといけない。関所を所有している同盟だけが、地方の境を越えて、もう一方の地方へ移動できるようになる。

 そんな重要な場所である関所をめぐる攻防は、ポケギガの華だ。


 現在の蓮華白夜と覇国天武の主戦場も関所だった。トウカン地方とホクトウ地方の関所で攻防を繰り広げている。

 トウカン地方に入り込んだ蓮華白夜を、覇国天武は関所まで押し返していた。蓮華白夜は関所の防衛と、隙を見てのトウカン地方への再進出。覇国天武は、関所のダッシュと、北東地方への進出を狙っていた。


 そんなバチバチの主戦場があるにもかからわず。ボクたちゆる集は、そこからずっと離れた場所、チュウキ地方とホクトウ地方の関所の前にいた。


「こんな離れたところに敵が来るかな?」

「来ますよ。私ならそうします。それとも盟主は、私より蓮華の軍師の方を信用するんですか?」

「間違いなくラクシュンの方を信用する」

「だったら黙って、敵襲に備えてください」

「は~い」


 ボクはそう返事をする。

 それから、なんでこんなことになっているのを思い出した。


 蓮華白夜との話し合いの後に、すぐに作戦会議になった。その作戦会議は、火薬庫での花火大会に続き、BBQパーティ in 火薬庫だった。

 蓮華白夜の参謀シンさんの作戦は、トウカン地方関所の押し返しだった。その作戦にラクシュンは反対、チュウキ地方とホクトウ地方の関所の防衛を主張した。お互いに自分の意見を譲らず、お互いバチバチになってしまった。

 会議室で突然勃発した、作戦立案者同士の同盟戦。それを見ていた人の反応はそれぞれだった。ボクは戦々恐々とし、桐生さんは煽って燃料を注ぎ込み、からすさんはニコニコしながらそれを見ていた。お互いに胸ぐらをつかんで、あわや殴り合いになる、というところで、桐生さんが止めに入り、盟主からすさんの一声、ゆる集がラクシュンの作戦を実行することで、決着をつけた。

 その結果、ボクたちゆる集はここにいる。


 一度ならず二度までもシンさんの顔を潰したのだ。これで完全に、シンさんに敵認定されただろう。仲良しこよしをするためにゲームをしているわけではないが、仲間でいがみ合うのは、ちょっと居心地が悪い。

 できればお互いを認めて、その上で意見を出すようになって欲しい。

 まぁ、理想論か。


「そういえばさ、ラクシュンから見て、シンさんの軍師としての実力ってどうなの?」

「素質は十分ありますよ。ただ、基本に忠実過ぎます。圧倒的に経験が足りてないので、軍師としての深みがないです」

「深み、ね。どうやったら深みって出るの?」

「泥水をすすること。泥水をすすらせること」


 すごい言葉が出てきた。

 でも、それはなんとなくわかる気がする。


「例えば、首都城とほぼすべての領地を手に入れたのに、裏切りにあって、全部失う。とか?」

「ずいぶん具体的ですね」

「最初にポケギガを遊んだときに、それをやられたから。すんなり首都城を確保できて、このまま同盟戦を体験せずに次のシーズン行くのは危ないからって。

 最初は謳歌乱舞って同盟との模擬戦だったんだけど、2つの同盟が後乗りしてきて、結局三正面戦争になった」

「まぁまぁ。あるあるですね」

「それでも戦えてたんだけどね。獅子心同盟ってところが、お助けするでござるっ! って言って援軍を送って来て、助かる~って思ってたら、その同盟に裏切られて全部失ったの」

「それは、まぁ……。良い経験ですね。あとすみません、その裏切った同盟で私、軍師していました」

「嘘ぉ!」

「なんなら獅子心盟主をそそのかしたのも、私です」

「そんなことって、あるんだ」

「わたしもビックリです。でもあれ、黒幕は謳歌乱舞の盟主ですからね。たまたま交流があって。で、やれそうだし、面白そうだからやろうって、なって」

「やられた方は、たまったもんじゃないけどね」

「存じております」

「でも、良い経験になったよ」

「そう、そういうことなんです。そういった経験が、あのシンって子にはないんです。だから、この関所が重要な場所になっていることに気づけない。

 私が相手だったら、このタイミングだからこそ、こちらの関所を占拠します。その上で、ホクトウ地方に進出して、裏から仕掛けます。やられたらたまったもんじゃないですよ。並みの同盟なら指揮系統の混乱の間に、ホクトウ地方の南側は持っていかれます」

「ああ。防御が薄いところを突破して、裏回りしてくるってことか。そういわれると、重要拠点に思えてきた」

「だから最初からそういっているじゃないですか」


 それから、ラクシュンは口をつり上げた。


「ほら。来ましたよ」

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