第6話 招請

 夜。蓮華白夜との話し合いのため、ポケギガの世界で、ボクはラクシュンと一緒に待機をしていた。


「いよいよですね」

「そうだね。緊張するなぁ」

「そうですか?」

「だって、大同盟の盟主だよ。オーラとかヤバイそう」

「もしかして、ビビってますか」


 ラクシュンは悪戯気いたずらげに言った。

 それは気遣きづかいだとわかっていても、ボクは真面目に答えてしまった。


「う~ん。たぶん、かなりビビってる。穏やかな話し合いで終わって欲しいけど、悪い未来ばっかり浮かんでくる」

「そうなんですか。それは盟主ならではですね。会議に向けて、準備はちゃんとしたんですよね?」

「うん。それは大丈夫だし、確認もした」

「じゃあ、大丈夫ですよ。会議も戦も基本は一緒です。準備がすべてです。だから、大丈夫ですよ」


 その言葉が、ラクシュンの気遣いが、今度はみた。

 その気遣いに答えるように、「ありがとう」笑って返した。


 そこへ招待状が届く。


「お、来ましたね。じゃ、行きましょう」

「うん、行こう」


■ ◇ ■ ◇ ■ ◇ ■ ◇ ■ ◇ ■



 専用チャットルーム。

 大同盟だけが設置できる特別な密談室。そこにいたのは3人。長椅子で作られた長方形の奥に盟主からすさん。その左側に参謀のシンさん、ボクたちの後ろに宰相の桐生さんが固めている。

 席を促され座った。


「蓮華白夜盟主からすだ。宰相の桐生と指揮官のシンも同席させてもらう」

「ゆる集盟主テルルと、軍師のラクシュンです。お招きいただきありがとうございます」


 挨拶を簡単に済ませると、からすさんの方から話し始めた。


「私は駆け引きと堅苦しいのが苦手でな、率直に言わせてもらう。そちらの同盟は人数は少ないながらに、その活躍は目を見張るものがあった。ぜひ、蓮華白夜に来て貰いたい」

「招待。ですか」

「ああ。現状、蓮華白夜は覇国天武と全国を二分している。戦線は膠着している。でも、君達が来てくれたら、全国統一も見えてくる」

「全国統一、ですか?」


 全国統一。

 それは、全国すべての都城、そしてこの世界の中央にある首都城を取得し、全国を領地化した状態。すべてを手中にいれた状態。しかし、それを達成した同盟は過去に1つしかない。冗談のような、夢のような状況だ。

 それが、できる、と。

 そんな夢物語を急に出されて、思わず聞いてしまう。


「残り1ヶ月で、全国統一は現実的ではないように感じますが」

「そうだな。普通ならそうとしか見えないだろう。せっかくだ、この世界サーバーの秘密を教えよう。実は、覇国天武の盟主とは過去に一緒に戦った仲でな。今の状態と言うのは、いうなれば、仲良く喧嘩している状態だ。そして、私の目的と向こうの目的は一致している。全プレイヤーが夢にみている、全国統一だ」


 そこで、からすさんは言葉を切った。

 暗に、聞いてくる。

 この意味が、わかるかい? と。


「……勝者総取り」

「その通りだ。勝てば官軍。負ければ属軍。それを承知で、お互いに楽しんでいるんだよ」


 そこではじめて、からすさんは初めて笑った。


「そう。楽しんでいるんだ。有利も不利も。優勢も劣勢も。歓喜も狂喜も。闇落ちも光落ちも。信頼も裏切りも。凌辱も屈辱も侮辱も。するのも、されるのも。すべてを楽しんでいる」


 からすさんは、とても楽しそうだった。

 そこで、少しだけからすさんのことがわかった。

 この人は、変人だ。

 そして、このゲームが大好きだ。

 全てを楽しんで、その上で最後は、勝つ算段でいる。


「だから、ウチに目をつけた。楽しんで、楽しんで、楽しんだ上で、最後に蓮華白夜が、全国統一同盟として名前を残すために」

「そうだ。だから、君達に蓮華白夜に来て欲しいと思っている」


 悪い話じゃない。

 それにこの人についていけば、あと1ヶ月、この『ポケット鳥獣戯画』をもっと楽しめそうに感じた。それに、この人の視線でこのゲームを楽しんでみたい。そう感じさせた。

 これが、大同盟の盟主の魅力カリスマなのだろう。

 この人にいて行ってみたい。そう思った。

 ──でも、ダメだ。

 この人は、大切なことから目を背けさせようとしている。

 それが、ボクを繋ぎ止めた。


「それは、吸収ってことですか?」

「そうだ」

「もし断れば?」

「この場で宣戦布告し、24時間後に全力で潰す」


 冷徹な宣告。

 その冷つめたさと鋭利えいりさは、ナイフを連想させる。


「たった5人の同盟を?」

「君は勘違いしているようだね。私は君の同盟を50人規模のそれだと認識している。敵につかれたら厄介だ。だからあらかじめ全力で潰す。それが原因で、戦況が不利になろうともね」

「吸収か、潰されるか。どちらか選べ、と?」

「有り体に言えばな」 


 まぁ、そうだろうな。

 この人はきっと、嬉々としてやるだろうし、やりおおせるだろう。

 さすが、大同盟の盟主だ。

 厳しい選択を上から押し付けてくる。


「迷うのはわかるよ。その理由も、理解しているつもりだ。人は死して名を残す。それほどに名前は大切だ。だから君もきっと、ゆる集がなくなることが嫌だろう」


 ボクは沈黙で答える。

 からすさんは構わずに続けた。


「だから、君達がこの提案を受けてくれたら、同盟内に、君達だけの分隊を作ることを約束しよう。ゆる集は分隊という形で残る。ゆる集の名は残る、それも全国統一を成した同盟の一員として。それは約束しよう」


 ボクの目を見て、笑顔をつくった。

 まるで天気の話でもするように、言った。


「──でももし、差し出した手を払い除けるなら。こちらも相応の態度で望ませてもらう」


 これは、アレだ。

 誤った2択だ。

 詭弁という弁論技術のひとつ。

 それ以外の選択肢を見せずに、2つから選ばせる。

 嫌な方と絶対に嫌な方。

 どっちも嫌なのに、そのどちらかを選ばせる。

 それに加え、供給できるものを最大限に大きく見せ、デメリットを小さく見せている。

 さすが、大同盟の盟主だ。

 性格が悪い。

 ただ、このまま、選びたくもない選択肢から選ぶつもりなんて、毛頭にない。向こうのお手並みは見させてもらった。

 今度はボクの番だ。

 隣に立っている軍師を見た。

 ラクシュンが頷く。

 ゴーサインは出た。

 反撃だ。

 楽しい、楽しい。

 火薬庫での、花火大会の始まりだ。

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