第3話 盟主、戦う

§2


テルル:速水さん。あと、どのくらい?

速水:Zz. (-ω- < あと5分だけ…

テルル:了解。こっちはなんとかするので

テルル:よろしくお願いします

速水:まかセロリ(๑•̀ㅂ•́)و✧


「……っと。こっちはこれでOK」


 速水さんとの個人チャットに書き込みを終えて深呼吸をひとつ。

 そうして間もなく、相手が現れた。

 身長2mを越えの逆三角形ゴリラ。というか、もはや筋肉の塊だ。その筋肉が、しゃべった。


「ほぅ、ちゃんと守備を置いていたか。それも盟主自らとは」

「そうだけど、そちらは」

神居古潭カムイコタン盟主、 S B シルバーバック。お前の同盟を貰い受けに来た」

「貰い受けるって、なんのために?」

「知れたこと。お前の同盟を配下におき、第三勢力として、全国に打って出るためさ」

「あー、なるほど。コレ、そういうゲームだもんね。それを悪いとは言わないけど。でも、もうちょっとやり方があったんじゃない? 共闘とかさ」

「叩き潰すのが、俺のやり方だ」


 でしょうね。キャラクターをみればわかる。

 なんとか話し合いで解決できれば、お互い幸せなんだけど。

 そうはならない。か。


「了解。ただし条件がある。ボクが勝ったら、今季は神居古潭カムイコタン同盟を解散して|ゆる集に来てよ」

「断る」

「──だよね。まぁ、ボクが勝ったら、考えてみてよ」


 逆三角形ゴリラはニタりと笑った。

 勝てるわけないだろ。

 そう思っている顔だ。


「おしゃべりはここまでかな。ラクシュン。素早さとスタミナの強化バフをお願い」

「了解です。素早さ、スタミナ、ついでに防御の強化バフをかけました。ステータスが20%上昇しますが、過信はしないでください」

「大丈夫。当たるつもりはないから」


 軽くジャンプをして、俊敏性・操作性を確認する。

 うん、いい感じだ。


「それじゃあ、始めましょうかっ!」


 ゴリラの咆哮。

 それから、ぶっとい腕と殺意が握られた拳が振り下ろされる。

 ボクは早さを活かして避ける。

 余裕だった。当たるわけがない。そう思えるほど、スピードに差がある。避けるだけなら、全く問題ない。もちろんそれでは勝てないけど。でもそれでいい。時間がたてば、2人が帰ってくるから。矛盾ほこたてコンビなら、絶対に勝てる。

 だから今は、避けるだけで良い。

 そうしていると、むこうもこちらの狙いに気がついたみたいだ。このままでは埒が明かないと思ったのだろう。胸を膨らまし、ドラミングを始めた。

 身体能力の強化バフ

 拳に、殺意と風切り音が上乗せされる。当たったら、その場所が消滅しそうな威力だ。

 でも。

 当たる気はしない。

 からだの向き。視線。攻撃の予備動作。

 相手の様子から攻撃を予測できる。

 準備ができていれば、対応は難しくない。

 紙一重で避け続けていると、ドラミングの効果が切れたようだった。

 逆三角形のゴリラが、肩で息をしていた。

 息を整え終えると、ゴリラが話しかけてきた。


「やるじゃないか。お前に興味が出た。教えてくれ。なぜ負け戦だとわかっていて、それでも戦う? もし仮に俺が負けたとしても、リスタートして戻ってくる。攻城兵器を作り直しても良い。仲間全員でこの城に乗り込んでも良い。こっちは何度でも攻められる。でも、そっちは負けたら即陥落だ。そっちに勝ち目はない。降参した方が早いだろう。なのになぜ戦う?」

「盟主だから。そっちだって、立場が逆だったら同じことをするでしょ」

「そう。かもしれないな」


 ゴリラはまっすぐにこちらをみた。

 そして歯を見せて笑った。


「お前を見くびっていた。ただの雑魚同盟の雑魚盟主。そう思っていた。そうじゃなかったようだ。悪かったな。非礼を詫びたい」


 そういって、右手を差し出してきた。

 ボクは差し出された手を見た。

 そこに、軍師の声がかかる。


「盟主」


 それ以上は言わなかった。

 でも。それで十分に伝わった。

 十中八九、罠だろう。

 手をとったら、そのまま逃がさないようにして、一撃を叩き込んでくるに違いない。

 でも、だ。

 この手を握らないと、相手の悪意なのか、それとも誠意か。一生わからなくなる。勝った後にだって、ずっと気になるだろう。

 ボクは真意を知りたかった。

 頭のなかで計算した。

 それから。

 相手の手を握った。


「ありがとよ。信じてくれたことに感謝するぜ」


 そういってゴリラは笑顔を浮かべた。

 ボクも笑顔で返した。

 直後。

 殺意が握られた拳が、体にめり込んだ。

 体が吹き飛ばれ、壁にぶつかる。


「こんな、みえみえの罠に引っかかるのかよっ。マジちょろ過ぎなんだけどっ!」


 敵のせせら笑いに、苦笑いで返した。体力HPはちゃんと残ったみたいだ。

 ラクシュンが心配そうにこっちにくる。


「なにやってるんですかっ!」

「いやー。もしかすると、本当は良いヒトかもしれない、って思って。確かめてみたかったんだ。結果は残念だったけど。でもよかったよ。これで、こっちも全力で潰せる」

「宣戦布告なしで、先制攻撃してくるようなヤツですよ。悪いヤツに決まっているじゃないですか! バカなんですか!」

「ごめんね、心配させて。でも、納得したかったんだ。一応さ、ちゃんと計算したんだよ。ダメージ計算はポケモンで鍛えてたからさ。ラクシュンの防御強化バフで、1発は確定で耐えることはわかってたから」

「それにしても、無茶しすぎです!」


 そんなボクたちのところに、逆三角形ゴリラは余裕たっぷりに歩いてきた。


「おしゃべりは終わりだ。ついでにこの同盟もな!」


 ニタニタと笑いながら、なぶるように言う。


「なんだ、その目は? この状況で、まだ勝てると思ってるのか? 教えてくれよ、何をどうしたらこの戦力差が埋まるんだ? あぁん?」


 ボクは、つい笑ってしまう。


「もしそっちが負けるとしたら、どんな可能性があると思う?」

「知るかよ。むしろ教えて欲しいぜ。こんな必勝から、どうやったら負けられるのかをよっ」

「……このゲームの勝利は、戦闘で勝つことじゃない。自分の城の耐久力を0にすること。そうでしょ」

「そうだな。その通りだ。だからこうして直々に──」


 不意に、タイマーの音が城内に鳴り渡った。

 やっと、5分経った。

 その音を聞いて、ゴリラは笑った。


「そろそろ、向こうに行った2人が戻ってくる時間、ってか」

「そうかな。そうかも。でも、正解はもっと大切な時間でした」


 ゴリラに向かって、拳をにぎってつきだす。

 人差し指と親指をピンと伸ばす。


「ボクたちの勝ちだ」


 手で作られた拳銃ピストル

 その銃口を向けて。


「っパン!」


 見えない弾丸を撃った。

 逆三角形のゴリラは、怪訝けげんそうな表情をして。

 それから、急に慌て出した。


「なんだっ! なにがどうなってやがる! なんで、こっちの主城の耐久が減ってんだよ!」


 混乱するゴリラに、ボクは言った。


「ゆる集は全員で5人いる。オフェンスに2人。ディフェンスに2人。さて、あとの1人はどこへ行ったでしょう」

「おい。おいおい。おいおいおいおい。なんだよ、これっ!」

「正解は、神居古潭カムイコタン盟主の主城でした。忍のスキル隠密行動で主城に潜入して、現在攻城中です。攻城値500オーバーの職人プロの仕事をお喰らい下さい」


 ボクは悪意たっぷりに言ってやる。


「それとも──。おとなしく降伏する?」

「するかよっ! このク……」


 その言葉は途中で途切れた。強制転移させられたようだ。

 ワールドチャットに、システムからの案内が出る。


システム:同盟ゆる集が神居古潭カムイコタン同盟を攻撃。

システム:神居古潭カムイコタン同盟は全軍陥落しました。


 その文字をみて、ボクは息をついた。

 それから、同盟チャットに書き込みをする。


テルル:速水さんありがとう~。ホント助かった。

速水:(((ꎤ’ω’)و三 ꎤ’ω’)-o≡ (*•̀ᴗ•́*)و ̑̑


 さすが速水さん。本職ガチ仕事人ヒットマンだ。

 状況判断をして最善手で動く。

 仕事はきっちりこなす。

 絶対にしゃべらない。

 チャットは顔文字。

 謎が多い人物だ。

 速水さんのチャットのあとに、ふくっちやアルルの発言が続いた。

 みんな、勝利を喜んでいた。

 そんなチャットをみて、思わずニヤニヤしてしまった。


「ラクシュンもありがとう。全部、ラクシュンのおかげ」

「私はただ、自分の役目を果たしただけです。そんなことより、盟主こそお疲れさまです。ちゃんとになってましたよ」

「ありがとう。盟主って大変なんだね。やってみて、初めてわかった。でも、これでちょっとはゆっくりできるかな」

「……ゆっくり。できないと思いますよ」

「え? どして?」


 ボクの疑問に答えたのはワールドチャットだった。


システム:同盟ゆる集は同盟Lvが20に上がりました。

システム:全ての同盟機能がアンロックされました


「なんか、ワケわからんこと言ってるんだけど?」

「同盟Lvが20を超えたので、いろいろできるように。具体的には都城を中心に国家を作れるようになりますし、同時に他の同盟が作った国家の傘下に入れるようになります。ついでに、今確認をしましたが、同盟順位も3位に上昇したみたいですね」

「なんか、良いことじゃない雰囲気なのは、なんで?」

「今この世界サーバーは、2大同盟がバチバチに戦っているのはご存じですか?」

「うん、知ってる。それが?」

「たぶん、スカウトがきます」

「まさか。あっちがプロなら、こっちは草野球だよ。スカウトなんか」


 メールのアイコンが受信を知らせる。

 相手は、さっきの話題に上がった2大同盟のひとつ。蓮華白夜。

 それも盟主直々だった。


「……本当に来た」

「おめでとうございます。きっと、楽しい大同盟戦への招待状ですよ。この世界サーバー趨勢すうせいを決める戦いに、はからずも巻き込まれてしまいましたね」


 マジか。

 ゆるふわな同盟だったはずなのに。

 

「ハードだ……」

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