第2話 9分の間に

§1


「では、攻城兵器破壊組アタッカーは、誰にしますか?」

「ウチの矛盾ほこたてコンビ、ふくっちとアルル。2人に任せる」


 ボクは同盟チャットを開き、書き込みをする。


テルル:ふくっち、アルル行ける?

ふく:待ってました!

アル:いつでも行ける

テルル:9分以内にあの攻城兵器を破壊して

テルル:頼む!

ラクシュン:敵の数は15

ラクシュン:数的不利な状況ですが

ラクシュン:どんなことがあっても絶対に

ラクシュン:攻城兵器だけは破壊してください

ふく:別に全員倒してもいいんだよね?


 ふくのチャットに、ラクシュンはこちらを見て聞いてきた。


「15体ですよ。全部倒すって。ふくさんは戦闘民族ですか?」

「そうかな。そうかも。連続撃破記録に全力かけてるから、戦闘は結構スゴいと思うよ」

「今までの記録は?」

「連続13撃破」

「10越える人なんて、トップ同盟でもなかなかお目にかかれないですよ。完全に化け物ですね。でも、今回は好都合です」


ラクシュン:もちろん、OKです。

ラクシュン:それでも、攻城兵器は必ず破壊してください

ふく:任されよ!

テルル:アルルはふくっちのサポートと

テルル:攻城兵器の破壊をお願い!

アル:了解!


 さて。

 ボクが今できるのはここまで。

 あとは、2人に任せよう。



■ ◇ ■ ◇ ■ ◇ ■ ◇ ■ ◇



 ふくの操作するフクロウの足につかまって、オレの操作するアルマジロは上空から敵の要塞群を見下ろした。


「ふく、敵の数を教えて」

「空0。地上14。攻城兵器に搭乗1」

「了解。作戦はある?」

「全部倒す」

「それは意気込みであって、作戦ではないんだよなぁ」

「ちょっと、よくわからない」

「そこはわかって欲しかったなぁ」


 オレはため息をついた。

 どうにも納得できない。

 フクロウは賢いはずだ。

 なのに、このフクロウときたら。脇目も振らず、やりたいことに向かって一直線って。絶対フクロウじゃなく、イノシシだろ。

 また、ため息。

 それから、巻き直し。


「弓使いはいる?」

「3。そろそろ射程圏内」

「それを最初に片付けよう。弓使いが片付けば、ふくは空からやりたい放題でしょ。あとはオレが攻城兵器を破壊しにいくから、妨害してくるやつらの処理をお願い」

「りょ」


 そう言い終わると、ひゅ~ん、という間延びした音がした。

 攻城兵器から巨大な石が発射され、テルルの主城に直撃する。

 あと2発で、オレ達の同盟は終了。

 残り6分。

 サポートツールでタイマーを起動した。画面の右上で、カウントダウンが始まる。ゼロコンマ以下の数字が、狂ったように変わり、残り時間を時間を食い散らかしていく。


「時間がない。急ごう」


 急にふくが、体を横に振る。

 風切り音が、オレの横を走っていった。


「攻撃範囲に入ったよー」

「そうみたいだね。このまま突っ込めそう?」

「よゆー。急ぐんだよね?」

「最高に急ぐ」

「わかった。じゃあ3体は諦める」

「諦める? って。待て、いったい何をする気っ!」


 ふくは速度をあげ、向かってくる矢に真正面から突っ込んだ。

 その矢に向かって、オレがつかまっている足を突き出した。

 オレは急いで体を丸め、固い甲羅で矢を弾く。

 人を盾がわりに使うなっ!

 そんな文句をいう間もなく、そのままの勢いで、弓使いにオレをぶつけた。

 急降下で増幅されたふくの速度とオレの質量。この2つが合わさった攻撃は、ターゲットを、目を覆いたくなるような勢いで吹き飛ばした。

 オレの撃破数が0から1になった。

 ふくは、そのままUターンをして、勢いそのままに、別の弓使いにオレをぶつけた。

 1が2にカウントアップ。


「ラストワン! よ・ろ・し・く!」


 そういってオレを、

 オレの連続撃破数は3になった。

 あっという間のできごとだった。


「ストライク!」

「オレはボーリングの玉じゃねぇ」

「急ぎだから」

「……確かに」


 文句を言っている場合じゃなかった。

 オレは全速力で、攻城兵器に向かって走る。

 あれを壊さないといけない。

 オレの走りを、ラグビーのタックルよろしく、敵たちが襲いかかって止めに来る。オレは、丸まったり、跳ねたりして避ける。ふくも的確に援護してくれた。

 ほどなくして、攻城兵器にたどり着いた。

 その瞬間。


 ひゅ~ん。


 間延びした音。

 2発目の発射音。

 テルルの城の耐久値が280から20に減る。

 次はもう、耐えられない。

 オレは攻城力向上のスキル「破城鎚はじょうつち」を使う。スキルは巨大なハンマーとして具現化される。それを思いっきり、攻城兵器にぶつける。


 耐久値 500 → 440


 OK! イケる!

 再攻撃までにかかる時間クールタイムは4秒。

 即座に2発目。


 耐久値 490 → 430


「なっ!」


 攻城兵器の耐久力が回復している。

 なぜ?


「搭乗者が耐久回復スキル持ち、か」


 この調子だと、攻略にかかる時間は?

 ──172秒。それだと間に合わない。

 絶望が、溶けた鉛のように胸に流れ込んでくる。

 くそっ、くそっ、くそっ!

 どうするっ!


「アルル、見える敵は全部片付けたよ!」

「マジか! さすがふく」

「うん。あいつら動きが単純だった。たぶんbotボットだよ」


 bot 。ロボットrobotが語源になった自動プログラム。だとすれば、搭乗者は定期的に、確実に回復をする。厄介な相手だ。


「ふく! 耐久削りを手伝ってくれ! 回復の上からぶん殴る!」

「りょ!」


 オレとふくの攻撃で耐久値の減りが変わる。


 耐久値 480 → 418


 ふくの攻城能力は2。

 この2が。

 未来を変えるかもしれない。

 いや、絶対に間に合っている!

 全力で再計算。

 2人での攻城値は62。

 敵の回復力が50。

 耐久力は468。

 攻撃間隔は4秒。

 倒しきるまでにかかる時間は。

 ──140秒。

 タイマーを確認。158秒。

 間に合った!

 あとは、最速で攻撃を入れ続けるだけ。


 ──違う。ダメだ。


 最速で攻撃を続けられるわけがない。

 オンラインゲームには、多かれ少なかれ遅延ラグがある。

 こっちの行動が即座に反映する訳じゃない。

 攻撃がキレイに4秒間隔で、できるとは限らない。

 攻撃間隔を確認する。

 2回の攻撃が、9秒かかっている。最悪だ。

 計算上、発射時間と破壊完了時間が、

 その場合、処理はどうなる?

 破壊されるのが先か、発射されるのが先か。

 そこで、考えるのを止めた。

 今できることに集中する。


「ふく。真面目な話をしていいか?」

「年中受付中です」

「発射時間と破壊完了時間がぴったり、っぽい。だから、できるだけ正確に攻撃を入力し続けてくれ」

「りょっ!」


 多くを聞かないでくれるのが、ありがたかった。

 オレ達にできることはもう2つだけだ。

 ミスせずに、最速での攻撃入力を続けること。

 そして、祈ること。

 お願いだ。間に合ってくれ。

 指が重たい。手の感覚が不具合バグって、動かし方を忘れそうになる。

 それでも、入力を続ける。

 時間は無情だった。1秒、1秒、希望と一緒に消えていった。

 残りが10秒を切る頃には、祈る時間が多くなった。

 それでも、攻撃を続けるしかなかった。


「やっぱり、ダメ」


 残り7秒。

 ふくが攻撃するのをやめた。


「絶っ対に、間に合わない!」

 

 そういって、ふくは上空に飛んでいった。

 残されたオレは、それでも攻撃を続けた。

 タイムアップ前、最後の攻撃。


 耐久 74 → 14


 ふくの言う通り、間に合っていなかった。

 それからすぐ。

 画面のタイマーの数字が全部0になった。

 気の抜けた発射音がした。

 巨大な石が宙に放たれた。

 それをぼんやりと追った。


 黒いカタマリが目に入る。

 それは猛烈な勢いで石に。

 真っ正面から突っ込んだ。

 ぶつかる。

 石は軌道が逸れて落ちた。

 黒いカタマリは落下した。

 地面に落ちたそれは、フクロウふくだった。


「ふくっ!」


 フクロウはもぞもぞと動いた。

 それらか仰向けになって、大声で叫んだ。


「しゃぁっ! なんとかしたぞ! どやっ!」


 やばい。リアルに泣きそう。


「ちょっと! 私頑張ったんだから! はやくアレ壊して!」

「了解! これは、ふくのぶんだ!」


 オレは攻城兵器に最後の一撃を叩き込んだ。

 攻城兵器は音をたてて崩れ、搭乗者もろとも消えた。


アル:攻城兵器破壊完了!

テルル:2人ともありがとう!

テルル:ふくっちの特攻を見て泣いてる

テルル:圧倒的MVP

ふく:でしょ

ふく:MVPだぜ

ふく:でも、ちょっと変なんだ

ふく:ここにいたのはみんなbotだった

ふく:それに最初は15いたはずなんだけど

ふく:2人の撃破数をあわせても14なんだ

ラクシュン:だとすると相手は

ラクシュン:複数アカウント複垢ですね

ラクシュン:こっちに向かっている残りの1体が

ラクシュン:きっと本アカウント本垢でしょう

ラクシュン:私と盟主で時間を稼ぎます

ラクシュン:ASAPなるはやで帰ってきてください

ふく:りょ!

アル:了解!

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