ポケット鳥獣戯画

文月やっすー

第1章

第1話 鳥獣達の陣取りバトル

 世界には一本の線が引かれている。


 ボクは昔から、頼られることが多かった。みんなから頼られるのは嫌じゃなかった。

 ──だから気づかなかった。本当は、頼られていたんじゃなかった。押し付けられていただけだった。それが分かったときに、ボクの見える世界はちょっとだけ変わった。

 世界には一本の線が引かれている。

 押し付ける側と、押し付けられる側。


 ──その線は、ゲームにまで延びてきていた。


■ ◇ ■ ◇ ■ ◇ ■ ◇ ■ ◇ ■ 


「ハードだ……」


 底抜けの青空。遠くに見える山脈。青々とした草原。

 そして。

 その平原に建てられた、敵意増し増しの要塞群と、ヤル気に満ち溢れた、二足歩行で喋る動物たち。

 ボクが見ているこの光景は、『ポケット鳥獣戯画』というゲームの中の映像だ。日本っぽい島国を舞台に、デフォルメされた動物達が陣取りバトルを繰り広げるゲーム。プレイヤーは自分の好きな動物で、同盟チームを組み、各地に点在する都城を攻略することで、縄張りを広げていく。そして中心地にある首都城の占領を目指すMMORPG。そんなゲームの世界を、ヘッドギアに写された映像を通して見ていた。

 ボクは6人だけの少人数同盟の一員で、まったりゲームを楽しむ、ゆるふわ勢だった。

 ──そのはずだった。

 でもいまは、この同盟の盟主リーダーになっていた。そして何より、見たことも聞いたこともない同盟から明確な敵意をむき出しにされている。


「なんでこうなっちゃったんだろ……」


 そんな愚痴に、ボクの横に立っている二頭身ネズミの軍師、ラクシュンが答えた。


「それは、前の盟主が、テルルさんを盟主に任命して、失踪したからですよ」

「そうなんだけど。そういうことじゃなくて。なんでボクなの……」

「見た目が、盟主っぽいからじゃないですか? かっこいいですよ、その人間形状ヒューマンフォーム。長身痩躯の8頭身ウサギとか。ヨダレが止まりませんよ」

「そんな理由?」

「もちろん、冗談です。本当の理由は当人のみぞ知る、です。でも、私は適任だと思いますよ。テルルさんのキャラ、困ったことはなんとかしてくれそうなオーラを醸し出していますから」

「いや、ボクには無理だよ。リオさん、戻ってこないかな」

「いない人の話はやめましょ。今やるべきことは目の前の敵に集中することです!」

「……了解」

 ボクは改めて敵の要塞群を見る。砦の上には建設したプレイヤーの名前が表示されている。それを数える。

 人数は15人。

 こっちの同盟で動ける人数は5人。

 数字だけなら、相手は約3倍だ。

 4人対戦ゲームスマブラで1VS3での戦いが頭に浮かぶ。

 絶望しかない。


「これ、勝てるかな」

「勝てるかどうか、なんて、そんなに重要ですか?」


 軍師は、こちらを見る。


「私はいままで、いろいろな同盟で、いろいろな盟主を見てきましたけど。みなさんそろって、勝ち負けよりも、譲れないもののために戦っていましたよ。盟主ってきっと、そういう生き物なんです」


 譲れないもの、か。

 それならボクにもある。この同盟だ。

 ボクはこのゆるふわな同盟が好きだ。なんとなく集まって、雑談をしたり、みんなで協力して城を攻略したり。まるで部活みたいで、居心地が良かった。

 そんな居場所を、めちゃくちゃになんか、されたくない。


「ボク、この同盟が好きなんだよね。だから、向こうがその気なら、ボクは受けてたつよ」

「良かったです。やはり私の目に狂いはありませんでした。盟主は、ちゃんと盟主です」

「ありがとう。早速だけど、ボク1人じゃ力不足だ。力を借して、ラクシュン」

「任せて下さい。勝利をお届けしましょう。それが軍師の役割ですから」


 軍師は、敵陣を見つめている。

 その眼差しは、敵を分析し、勝つための道順を組み立てているように見えた。


「頼りにしてるよ、軍師殿」

「任されました。だから盟主も、盟主の仕事をしてください」

「了解!」


 現実のボクは苦笑いを浮かべた。

 ウチの軍師は有能だ。

 即席盟主でも、こうして戦う気にさせるのだから。

 OK。覚悟は決めた。あとはやるだけ。

 全力で戦って、そして勝つ。


 ──そう心に決めた、そのときだった。


「早速ですが、良いお知らせと悪いお知らせです。どっちから聞きます?」

「……悪い方からお願い」

「相手が作っていた攻城兵器が完成しました。課金要素の建設短縮機能で、建築時間を早めたみたいです。相手の攻撃がきます」

「わぉ……。良い方は?」

「あの攻城兵器は建設時間が短い分、攻城能力も低いタイプです。城耐久がマックスの2000なら7発耐えられます。8発目がくるのが大体25分くらいなので、その前にあの攻城兵器を壊すのが最初の目標ファースト ミッションです。難易度としてはノーマルってところですね」

「……ボクからひとつ。悪いお知らせがあります」

「なんです?」


 ひゅ~ん、と間延びした音が聞こえて、攻城兵器から放たれた巨大な石が、ボクの主城を直撃した。


 主城耐久値 800 → 540


「城の耐久値、ぜんぜん上げてない」


 軍師は頭を抱えてしゃがみこんでしまった。


「ごめんね。自分の城を攻撃されたことなんて、一度もなかったから、他の建築物を優先しちゃってた」

「──……。切り替えていきましょう。後2発耐えられます。発射までのクールタイムは3分。3発目がくる9分より前に、あの攻城兵器を壊せばいいだけです。クリア条件にノーミスが追加されて、難易度がエキストラになっただけです。やることは変わりません」

「OK。打ち上げ花火も上がったことだし、お祭り開始といきますか」

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