第11話 首都ペディアーダ
私が起きたのは夕方。日没寸前の夕方である。
「んんぅ…もう太陽があんなとこまで…宿取らなきゃ」
隣に置いておいた少し大きなリュックの中にある、特殊な香水をかけようと手を伸ばした瞬間。
「ふわぁ、おはよう…むにゃむにゃ……」
知らない幼女が、隣で眠っていた。
───────
「私の秘密基地だったのに! どうしてここを知っているのよ!」
「そ、そんな事言われても…たまたまここに来ただけだからさ……」
「ウソだ! お姉ちゃん、ずっとここで寝てたじゃない!」
「私は偶然だから! 君みたいなちびっ子の場所を奪ってやろうなんて思ってないし、そもそもこんなでかくも何ともない1本の木の下なんかよりもっとでかい城があるからどうぞここはご自由にあげますよどうぞ!」
いかんいかん、ついムキになって早口で話してしまった。こんな子ども相手になにしてんだか。だけどもムカついてしまったのだから仕方ないだろう。急に怒ってきたのはあっちだし。私は悪くない。
「あー! こんな可愛い子どもにそんな事言うなんて! いけないんだー!」
むか。
「うるさいな。虫みたいだ。まあ私はお前なんかすぐにぺちゃんこにできるからいいんだけどね! ちびっ子と話してる暇があるなら早く宿取らなきゃねほんと時間の無駄だったなほんと!」
相手は子ども、それも何百年と違うんだ。なのに私はこいつにすごくムカついている。
長袖の白いワンピースだけを着用したこの幼女は、自分の立場をよく理解しているようだ。
変に強がるとかではなく、自分がか弱い存在だと分かってあんな事言ったのだろう。くそ、これだから子どもは苦手なんだよね。
「もう行ってしまうの? お姉ちゃんったらつれないのね。それに宿って言っていたけど、泊まるところなんてあるの?」
は?今から探すんだよ。
と、言いそうになったがなんとか堪えた。
「……そうなんだよね。そんなこと言うけど、良い宿知ってるの?」
私は怒りを堪えた笑みを幼女に向け、質問してあげた。
「知ってるわ! 教えて欲しい?」
「うん、是非教えてくれないかな。お姉ちゃんとっても知りたいんだ」
「じゃあ秘密基地に勝手に入ってきた事、謝ってくださる?」
私は魔族だぞ。お前なんか小指の爪の先だけで殺せるんだぞ。それでもその対応を取るのか、と私は心の奥底で思っていた。けど声に出さないのは大人の証拠。
魔族で思い出したが、そういえば私今フード被ってる?
「あ」
私は何事も無かったかのようにフードをぼふっと被り、何事も無かったかのようにリュックから香水を取り出して、ぷしゅっと服に掛けた。
「じゃあねロリっ子。また会えるといいね」
あの幼女はびっくりしていたけど、そんなの無視だ。私にはやることがある。
なのでこんな子どもを相手にしている暇なんてない。それなのに。
「お姉ちゃん、あの街にどうやって入るかご存知? 分からないなら教えてあげなくもないわよ?」
「本当? それはそれは助かる! さ、案内して」
「お願いします、でしょう?」
「……お願いします」
「よろしい! じゃあ着いてきて頂戴な!」
そうして私は、この名も知らぬマセガキについて行くこととなった。
行き先は目の前にある、石壁に囲まれた都市。首都ペディアーダ、そう呼ばれる大きな都。あの囲まれた壁の中にある大きなお城は魔王城よりは小さいが、なかなか立派なものである。魔王城の方が大きいが。
「ところでロリっ子、もうすぐ日が暮れちゃうんだけど。早く宿を借りないといけないんだよね。入口はどこ?」
「お姉ちゃんったら分からないの? すぐそこにあるじゃない!」
ロリっ子が指を指した先には、大きな門と2人の兵隊がいた。私たちは門番の兵隊に近付き、中に入りたいことを伝えようとするのだが。
「王女様! 今までどちらに…! どうぞお通り下さい!」
「ありがとっ。お疲れ様」
ラッキーなことに、こいつが王族の人だったのだ。ロリっ子の後ろにいる私はすんなり入れると思い、そのままついて行こうとした時。
「おい、そこのお前! お前はまだ入都許可を出していないぞ!」
「いいのよ兵隊さん! 私が許可するわ! 行きましょうお姉ちゃん!」
「……どうも」
お言葉に甘えて、私は彼女の後に続いた。
門番の人たちはびっくりして私を凝視していたけど、フードは深く被ってるし、疑われるような事もしていない。王様とお話したいのに、ここで捕まったら元も子もないのでね。
「さあ、ようこそ! ここが首都ペディアーダ。ヴォールス帝国の中で1番の街よ!」
街灯はぽつぽつと仕事をし始め、仕事に疲れた人がぞろぞろと酒場に吸い込まれていく。ここからが大人の時間であることを分からせてくれていた。
「……案内ありがとう。それじゃあここで。君も気をつけて帰ってね」
「ちょっと! こんなか弱い女の子を置いて1人で行ってしまうなんて…! お姉ちゃんはなんて酷い人なの…?」
ノーリスクノーリターンの仕事なんてやらない。ハイリスクハイリターンならば引き受けていたが、このロリっ子が言うのはただの時間つぶしである。そんなに暇では無いのだ。絶対にやらない。なので私は幼女に背を向けて去ろうとしていた時。
「……魔法石をあげる。これでどう?」
────
「どうもありがとう! お姉ちゃんって、意外と背が低いのね」
「うるさいな」
私は肩車をして、王城の手前まで運んであげた。さすがに門前だと怪しまれるし面倒なことになると思ったので、すぐ近くの路地裏で降ろしてあげた。こんなことをしていたので、すっかり暗くなってしまったではないか。
「ばいばーい!」
あの幼女はこちらに手を振って別れを告げ、お城まで走って行く。だが私は手を振り返すことなく、何も起こらなかったかのように人の波に紛れた。あんな子どもの対処なんてしていても楽しくないし、時間の無駄である。それに私は人間を倒しに来たのだ。馴れ合う必要は無い。そう、人間は全員敵だ。
「……お酒だけ飲んで、そこら辺で寝よう」
お酒は美味しいので、味方である。
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