第7話 幕開け(いろんな意味で)
へとへとになっているカターラをおんぶしながら帰ってきた私。
お陰様でこちらまでへとへとである。自業自得なのだが。
とりあえずアサナシアに報告と、カターラが最後の力を振り絞って握っていてくれたあの男の首を献上しに行かねば。
そう考え事をしている間に、玉座の間に通じる扉の前まで到着していた。
「フォティノース、も、もう大丈夫…。ここからは、自分、で、歩ける…」
「そう? じゃあ降ろすね」
カターラが降りやすいようにしゃがんで、地に足を着いたのを確認してから私は膝を伸ばす。
脚をふらふらとさせるカターラを心配しつつも、こっちも疲れたのでここから自力で歩いて欲しいという願いもある。
「開けて」
私がたった一言門番に伝えるだけで、彼らは大きな扉を開けてくれた。
「どうも」
私たちは玉座までゆっくり歩く。
見せつけるため、とかではなくてただ単純に歩く気力がないためである。
私たちは魔王の前に跪き、生存報告をする。
「帰ったか。遅かったな」
「そうですか? でも凄いことになっていたので」
「ある程度の情報は報告してもらったが…その首はなんだ?」
仮初の形だが、現魔王であるアサナシアがカターラの持っている男の首を不思議そうに見つめた。
「これはカターラが取りました。襲ってきた人間の兵士の中でも、特に強い者の首です」
「はい、魔王様。人間達が襲ってきたということは、魔王様の存在もアタシ達の存在もバレているという事。早いところ対処した方が良いでしょう」
ふむ、とアサナシアは考える所作をした。
これはアサナシアの癖、1人で考える時によくやるのだ。
しかも私たちに何を考えているのか教えてくれないので、私たちからするとこの時間はただの無駄と言うわけだ。
長くなるのだろうかと、うとうとしてた時、案外早く声を発した。
「フォティノース。お前に頼みたい事がある」
「はい、魔王様。なんなりと」
「休息が取れた後、再び玉座の間に姿を現せ」
「畏まりました」
「以上だ。その首だけ預けて下がれ」
「「失礼します」」
私とカターラ、2人同時に返事をすれば、立ち上がってその場を後にする。
男の首はアサナシアの側近が回収し、手ぶらで帰ることとなる。
これで晴れて私たちはゆっくり休めるのだ、なんて幸せなのだろうか。
もうすぐ新月が終わろうとしており、既朔になろうとしている。
カターラは玉座の間を出てすぐに、膝から崩れ落ちて倒れた。
「フォティノース、アタシを部屋まで運んでくれないかな…」
あー、もう。
嘘だと言ってくれ。
────
「はぁぁぁ、疲れた……」
久しぶりにこんなに働いた気がする。いや、カターラ程ではないか。
あれから私はカターラを彼女の部屋に寝かせ、私はとぼとぼ自室へ戻った。
人をおぶって長距離歩くというのは、もう二度とゴメンである。
私は、あの焼けた村から飛ばずに徒歩で帰ってきた。
何故かと言うと、そんな気分ではなかったからである。
本当になんであんな判断したのかは分からない。正直阿呆である。
「フォティノース様。お疲れのところ申し訳ありません。イウースリでございます。捕まえた人間については、どう処理しましょうか?」
…考えたくねー、ていうか足痛すぎー。まあ仕方ない。
私はベッドに横たわっていたところを起き上がり、イウースリに中に入れと言った。
「失礼します。それで、人間の処理の方はどうしますか? 情報はある程度抜き出せましたので、不要となってしまいましたが…」
「そうだね〜、確かエクリーポが欲しがってた気がするな」
「畏まりました。では、エクリーポ様にお渡ししてきます」
「うん。そうし…いや、待って! もしかしてだけどさ、その人間に何か危害を加えたりした?」
「いいえ、特には。肉体には傷つけてませんが、精神はどうでしょうか…」
「あ、ううん。それならいいの。じゃあエクリーポに渡してあげて」
「はい、畏まりました。お疲れのところありがとうございます。ゆっくりとお休み下さい」
「うん、ありがと。イウースリもね」
ぱたん、と扉が閉まった音がした瞬間、私はベッドに引っ張られるように倒れた。
瞼の上に象が乗っているようだ、とんでもなく眠たい。
次起きたら、アサナシアの所に行かなきゃな…。
そうして私は死んだように眠った。
─────
「魔王様。フォティノース、参りました」
私は君臨する王に跪き、約束の頼み事を聞きに来た。
「来たか。早速だが、お前に頼みたいことがある」
「何なりと」
「召喚陣を作れ。それも超巨大な物だ。出来るか?」
「……や、やってみます」
彼の言うことは私には到底理解できなかった。
一体なぜ、何のために?
とりあえず召喚陣を作るだけでいいのならば、1週間程度で終わるのだ。けれどめちゃくちゃ面倒臭いのが難点である。
カターラが呪いを操ることが出来るように、階席の座を与えられた者には特別に、元ある能力とは別でひとつ能力が与えられる。
その中で、私は召喚魔法を授けてもらったのだ。
「ですが魔王様、作るのは良いのですが、それをどうするのですか?」
「それは秘密だ。とにかく、何の生物も召喚できるような最大級の魔法陣を用意してくれ」
「分かりました」
仕方ないなあと思いながら、私は彼の提案を受けた。
けどその代わりに、私からも言いたいことがある。
「魔王様。私からも1つ良いでしょうか?」
「……何だ?」
「私、人間を倒してきます」
ようやくだ。この私、フォティノースの旅がようやく始まろうとしているのだ!
────
〜神聖帝国パンゴズミア:玉座にて〜
「陛下、ご報告がございます」
「どうしたんだ? まさかとは思うが、魔族が蘇ったか?」
『陛下』と呼ばれるその男、名をスリロス・ヴァシリアスと言う。
私が大臣として仕えている御方であり、魔族を極度に嫌う王様だ。
白銀の髪は美しく、整った顔つきは美男子そのもの。
黄金の瞳を持ち、格好は一言でいえば豪華絢爛。
装飾は無駄に多いが、それこそまさに帝王であることをアピールしているのだろう。
そんな絶対的な陛下に、落ち着いた若い騎士が淡々と事実を述べた。
「スカーゾ様が殺されました。魔族の村に火を放った後、カターラと名乗る少女によって首をはねられたようです」
「そうか。スカーゾが、か……」
大層残念がった陛下は、若い騎士に問いかける。
「先々代陛下は今頃どうなさっているのだろう、考えたことは無いか? パラディーノス、そうだろう?」
パラディーノス、それが騎士の名前。
聖騎士団の団長であり、神聖力を使える唯一の騎士である。
「はい。もしできるのならば、勇敢な先々代陛下のお力をお借りしたいです」
「だがそれは妄言に過ぎない。居ない者の事を考えても仕方が無い。パラディーノス、結界の強度を最大限に引き上げろ」
「はっ!」
パラディーノスは、赤い髪を揺らしながら去っていく。
溜息をつく陛下に背を向けて、彼は任務に向かっていくのだった。
────
あれから約2週間が経った。
私は国でさえも召喚できる、超大規模な召喚陣を作成してみせたのだ。
これは達成感のある仕事だった、それも1人でやりきったのだから尚更だ。
毎日コツコツ魔力を注ぎ、空っぽになったら寝て休む。これさえやっておけばアサナシアからの頼み事は終わるし、私もだらだら自堕落に過ごすことが出来た。
けどもう、完成したのだからあとは旅支度をするのみ。
私が人間を倒すと言ったあの後、アサナシアは興味が無さそうに「そうか」と言って終わったけど、なんだかんだあの人は優しい。
魔族が人間の国に入ればきっと、すぐに勘づかれてしまう。
何故かと言えば、魔族特有の匂いだとか、オーラがあるからだ。勿論角だったり、尻尾がある者もいる。私は幸か不幸かどちらも持ち合わせていないので、見た目で魔族だとはバレないだろう。
話は戻るが、魔族の匂いやオーラを消すために、アサナシアから特殊な香水を貰った。
うん、彼は優しい。
「さてと、階席の仕事は代理に任せるとして…うん、いけるね。今日中に出よう」
私が身を隠すためのローブだとか、香水だとか、自分の部屋にある物を厳選し、大きなリュックの中に詰めていった。
そのとき、ゆっくりと足音が私の部屋に近付いてきていた。
「フォティノース、居るかい?」
「エクリーポか、入っていいよ」
「お邪魔するね…って、何をしているんだい?」
「荷造りだよ。何日か過ごせるようにね」
「ええっと、君が言っていることが理解できないんだけど」
私は手を止めずに彼と話していたが、ようやく手を止め、彼の方を見て話す。
しゃがんでいた所を私は立ち上がり、彼と同じ目線にする。
「私は人間を倒す。魔王様の…いや、魔族が幸せに暮らせる為に」
いつもの冗談ではなく、今回は真剣だ。
エクリーポは驚いただろう、残念だと言うのだろう。昔からずっと一緒だったのだ、寂しいのも無理は無い。
「エクリーポ、泣いても無駄だよ。私は人間を──」
「僕も一緒に行くよ。君が1人で旅をするなんて、とても心配だ」
「子供扱いしないでくれるかな。私は1人で大丈夫」
本当の事を言えば、彼に着いてきて欲しい。
だけどそれは甘えだ、もしも共にするとなれば彼に全てを任せてしまう。
実はこの旅は人間を倒す為だけではく、私自身と向き合う旅でもある。
何年かかるかは分からないが、必ず帰ってくる。
彼らと会える時はきっと、世界が平和になってからだろう。
「だからお願い。私は1人で大丈夫」
「じゃあフォティノース、1つ約束してくれるかい?」
そう言えば、エクリーポは私に片膝をつけて跪いた。
そうして私の手を取り、そっと甲にキスをした。
「僕はずっと隠していたけど、君のことが好きみたいだ」
驚きで声が出なかった。今ので頭が真っ白になり、何も考えられなくなる。
「次会った時に、返事をくれるかい?」
じゃあね、と彼は私の部屋から出ていった。
突然過ぎて声すら出ない、それにあの出来事の前に話したことを全て忘れてしまった。
嵐のように現れて、嵐のように去っていく。
いやちょっと待て、ようやく落ち着いてきて意味 も理解できるようになってきたが。
「え、え、えぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
その声を聞いたエクリーポは、嬉しそうに廊下を歩いていたそうな。
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