第4話 それは本当にうんざりする会議だった

「それでフォティノース、話っていうのはなんだい?」


「誰が時期魔王になるのか、だよ」


 夕食終わりにこんなことは話したくないのだが、ここしか話すタイミングは無いだろう。

 アサナシアはすぐに何処かに行ってしまうし、何気に会議に出席しないカターラも居る。

 カターラというのは、階席第5位の女性だ。

 紫の髪をしており、後ろに長い三つ編みが成されている。

 お揃いの貧相な体を隠すためだろうか、真っ黒のローブをを来ていて、その中の服はここからではよく見えなかった。でも普段は薄っぺらい胸を隠すためだけの黒い布と、黒いパンツだけ。

 きっと彼女は最低限隠れれば良い、なんて思っているのだろう。ハレンチ女め。


「アタシはやっぱりアサナシアでいいと思いまーす。会議終わりー。解散〜」


 噂をすれば、だ。

 気だるげなカターラは早くこの会議を終わらせたいらしく、安牌な彼を推薦していた。

 私も実は彼女と同意見だ。


「僕もアサナシアで賛成だ。僕が思うに、強い奴が王になるべきだと思うよ」


「私もよ。アサナシアしかいないと思うわ」


 階席達がみんなこぞってアサナシアを推薦し始める。

 だがアサナシアは何やら眉をひそめていた。

 不満でもあるのだろうか。

 確かにまだ魔王様がいらっしゃる時に、『魔王になりたい』だなんて聞いたことないし、本当は嫌なのだろうか。


「そうか。だけど俺は、魔王になんてなりたくない」


「はぁぁぁぁぁ?!」


どうしてそこでカターラがキレる。


「どうしてよ! アンタが魔王にならないんだったら、誰が魔王になるわけ!」


 それはごもっともな意見である。


「じゃあ、イスキオスがなればいいんじゃない?階席2位でしょ?」


「わ、私? そうねぇ、魔王とかはちょっと…」


 私の意見は優しく否定された。

 困ったことに、リーダーが決まらないと今後の方針も決まらないというもの。

 どうするかあれこれ議論を交し、3時間ほど経った。


「…このままだと埒が明かないんじゃないかい? フォティノース、言い出したのは君だよ?」


「そうよフォティノース! アンタのお陰でアタシの大事な3時間が無駄になったわ!」


 なぜ責められなければならないのか。

 こうなってくると、また3時間前の酷い話し合いのように戻ってしまう。

 もうそろそろ決めないと、と思った時、鶴の一声がした。


「仕方がない。俺がやる。俺が次期魔王となろう」


 アサナシア、流石だ。

 その声がした瞬間、皆は迷うことなくスタンディングオベーションを。

 アサナシアも若干呆れ気味であったし、私たちもやりたくなかったし、申し訳ないがこれが最善のような気がする。


「決まったわね! じゃあ、戴冠式とか──」


「"仮の魔王"。真の魔王になる気は無い」


 仮の魔王?

 皆きょとんとした顔で、アサナシアを見つめた。

 けれどもそんな熱い視線にめげず、彼は話を続けた。


「誰かが本当の魔王になるまで、本物の器が見つかるまで、俺が代わりになってやるということだ。だが真の魔王が君臨するとなれば、また階席1位の座に戻る。それだけだ」


 軽く説明した後、彼は立ち上がって何処かに行ってしまった。

 それに便乗したのか、カターラも出口に向かって歩き始めた。


「えっと…一件落着、なのよね?」


「そうだね。仮魔王様も決まった事だし、僕も散歩をしてくるよ」


「うん。付き合ってくれてありがとう」


 イスキオスも、エクリーポも、そして私も。

 無事に魔王は決まったのだし、あとはアサナシアに従うのみ。

 ここから以前のように人間の国を侵略するかしないかは、彼の選択次第である。

 大広間から遅れて出てきた3人は、それぞれ別の方向へと歩んで行った。

 それぞれのやりたい事をするために。

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