第2話 魔王城復活!
魔王城に転送された私は、転送の衝撃でくらっとした頭を抑えた。
私は怪我人は居ないか、罠は無いか、今は魔王城の何処かというのを把握する為、辺りを見渡した。
「フォティノース様! お待ちしておりました!ご無事で何よりです!」
イウースリは大袈裟である。別に人間と戦ったわけではあるまいし。
「君もね。それより私、階席の皆と話さなきゃ。ごめんけど、領民達はまたあなたに任せるね」
「はい。ではお気をつけて」
優秀なメイドを持って良かったと思う。
彼女の黒い髪は、薄暗くて壊れかけの魔王城では目立たないようだ。いや、これは悪い意味ではなくて。それに対して、私の白い髪はいい感じに見える。
壊れた屋根から見えるのは、本当に綺麗で大きな満月。
その光は私を照らす、まるでスポットライトのように。
「フォティノース? フォティノースじゃない!」
「その声は…イスキオス?」
改めて、彼女はイスキオス。
血のように真っ赤に染った瞳は、私一人に向けられている。
頭のてっぺんから白色と黒色で分けられ、腰まである長い髪は、いつものように乱れずに大人しくしている。
対して私は髪を梳かしたはずなのに、何故か少し荒ぶっていた。
彼女の服装は至ってシンプル。体のラインを強調する黒いドレスを身にまとっており、たいそう立派な胸元は当然の如く見えていた。
対して私は、貧相な体のラインなんか分からないようなボワッとした白いワンピースに、黒いマントを羽織る始末だ。
「良かった! 生きてるのね!」
「あなたもね。けど、その誰にでもハグするクセ
はやめなよ」
イスキオスのクセだ。
安心すると相手のことをぎゅっと抱き締めてしまう。嫌いじゃなく、寧ろこちらとしても嬉しい行動であるゆえ、やめて欲しくは無い。けれども誰にでも抱きついてしまうのは些か気に入らない。
これがジレンマというやつなのか?
「分かってるって。兎も角、ここからどうしましょう。このぼろぼろな魔王城に留まるっていうのも、崩れるのは時間の問題だし…」
「だったらさ、この魔王城建て直さない?」
「…いいわね」
幼児が考えるような単純な事なのに。意外といい案なのかもしれないと自分でも思った。
そうして話しているうちに、見知った顔の人がこちらに歩いてきた。
先に紹介しておこう、彼はエクリーポ。少年の姿をしており、クリーム色の肩より上の少し長い髪が特徴的。階席4位であり、とんだクレイジー野郎である。
「何を話しているんだい? 僕も混ぜてくれないかな」
「久しいね、エクリーポ。調子はどう?」
「好調さ、フォティノース。どうもありがとう」
小さな冠を頭に着け、まるで王子のような格好をした彼、あれがエクリーポという名の少年だ。彼の身長は私より幾らか上で、私の持つ空色の瞳と彼の持つ翡翠色の瞳はきっと一生同じ高さになることは無いだろう。
私たち階席は共に戦場を駆けた戦友であるので、それなりに仲は良好だ。
特に私が仲良くしているのは彼。
彼と私は挨拶の握手を交わした後、話の続きを。
「この魔王城、このままだと私たち住めないじゃん? それで、どうしようって話をしていたとこ」
「そうそう。それでね! フォティノースがいい事を言ってくれたわ! みんなで魔王城を建て直すのよ!」
「へぇ。いいね。だけど、建て直した後どうするんだい? どうせ人間に壊されて、努力が水の泡になる。その前に僕たち、殺されちゃうかもね」
「でも私はいいと思うわ! なんせ半日で終わるんですもの!」
意見は纏まってきた。魔王城を建て直すらしい。
私たちならばきっと半日もかからないだろう。
修復魔法を掛ける者もいれば、崩れた瓦礫を元の場所に自力で戻す者もいる。
なんせ魔法使いなのだから、魔王城復興なんて容易いものだ。
そうして民達や他の階席と話をした後、魔王城復興作業に取り掛かった。ちなみに数時間で完了した。
────
「…ふぅ、これでいいよね。うわあ、懐かしいなあ」
玉座の間の中央に立つ私。
あんなことがあったな、こんな事も楽しかったな、と。目を瞑り、魔王城での出来事を思い出していたところ。
「懐かしさのあまり、思い出に浸っているようだね。君がそんなことできるなんて、知らなかった」
「私、そんなに残酷そうに見える? はぁ、折角妄想に明け暮れていたところなのに」
「そうなのかい? ごめんよ。生憎、僕は妄想中の人を思いやれる優しさなんて持ち合わせていないんだ」
私は声のする方へ振り返った。冗談を言い合える仲が居るというのは、すこし心強いというもの。
それはよいとして、話題を替えた。
「それより、魔王城を建て直したはいいけど、だれが次期魔王になるわけ? やっぱりアサナシア?」
アサナシアとは、階席1位に着いている男の悪魔だ。ちなみにとても強く、あの勇者でも敵わないような相手だった。
きっと魔王様といい勝負どころか、彼の方が上だろう。
私は幼い頃から彼に鍛えられていたので、彼の戦法をだいたい把握している。
彼の戦法を把握している者は片手で数えられるくらいなので、優越感に浸りまくっているのが現実。
「さあね。それは僕にも分からない。アサナシアが魔王になりたくない、と言うかもしれないだろう?」
「確かに…。じゃあどうするの?住む場所があるのはいいとして、誰かが王にならなきゃ」
そんなことを言うのはいいが、自分が王になれば良いだろうと言われたらぐうの音も出ない。私なんざ王になれる器でもないし、計り知れない強さもない。そんなんだったらエクリーポの方が向いている。なんせ王子みたいな格好してんだし。
「まあきっと、それはいつか決まるさ。今は身体を休めようじゃないか」
「そっか。私はいつもの部屋で寝るね。君は?」
「僕もさ。流石に感情には勝てないからね」
「じゃあね。おやすみ」
私は彼との会話を終わらせて、玉座の間から出た。
そうして私はすぐ、自室へと向かった。身体はまだ覚えている。何処をどう行けば辿り着くのか。足は勝手に動いていた。無心で足を運び、たどり着いたのは自室の扉の前。
私はぎゅっとドアノブを握り、ゆっくりと扉を開けた。
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