70話 自動車の速さ

なんとも気が早いというか気が利くというか、この酒井忠則なる人物、余程好奇心旺盛な男と見た。しかしそう簡単に石油が手に入るはずもないが。

簡単に石油が掘れたら日本は、とっく栄えていたことだろう。


川越藩は昔から江戸時代後期にかけて由緒ある城であった。

古くは平安時代中期から始まり河越太郎重頼の娘が京姫と呼ばれ源義経に嫁いだとされている。有名な静御前は義経の妾であったとか。後の川越藩主は江戸幕府の重臣を務め、松平家へと引き継がれ関八州で最も力があったとされている。

「しかしだな、それだけではそなたが未来から来たと誰もが信じまい。鉄の車の他に未来から来たという証拠はあるか」

「ではまずこうしましょう。お殿様に動く鉄の車を見て頂くのが一番でしょう」

「うん、もっともじゃ。では外に出て見せて貰おうか」

百聞は一見に如かずという事で、酒井忠利や重臣は外に出る事にした。総勢二百名以上がソロゾロと城から出る。秋山半兵衛が忠利に付き添う。暫く歩くと周りをムシロに覆われた異様な物体があった。これでは未来の物か分からない。すると秋山半兵衛が家来に命じムシロを剥ぎ取る。やがて現われたのはまさしく誰も見た事のない光沢を浴びた鉄の小屋のようだった。誰もがオ~~声をあげる。すると秋山半兵衛が雄一な声を掛けた。

「佐伯殿、せっかくですから動かして貰えますか。その辺を一周して頂ければ」

「分かりました。その前に皆さんが驚かないように説明してやってくれませんか」

雄一はエンジンをかける。ブルルール異様な音、そしてライトを付けた。城内は夕暮れ時に差掛かっており、その明るさは昼間のようだ。やがてゆっくり動き出す。酒井忠利を始め重臣たち慌てて二、三歩下がる。まるで生き物だ。しかも牛や馬でもない。新しい動物と思われても仕方がない。

少しずつスピードを上げて七十キロまで上げるとあっという間に遠くに走り過ぎて行き、そこからUターンして戻って来た。まさに馬より遥かに早い。もはや誰も声も出ない。

やがて全員がいる前に戻りエンジンを止め祐一は降りて来た。何故か拍手が起こった。感激したのであろうか、演劇を見終えたような感じだ。

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