67話 通行手形
それから助手席に座る秋山半兵衛と色々な話しをした。道だけではなく江戸に物資を運ぶ為の川を整備しているとの事だった。いずれこの周辺に野火止用水路が作られる事になる。そう言えば現代と違い関所という物がある。時代が違うとは言え。同じ国でありながら通行手形、いまで言えばパスポートのようなものだ。面倒くさいが身分を証明するには便利かもしれない。通行手形や伝馬朱印状などあり、国境には関所や番所が設けられていた。ただ府中と川越間は川越藩の領地で関所はない。
関東の幹線道路は江戸の神田を基点とし東海道・中山道・甲州街道・日光道中・奥州道中と、五つの街道が整備され道中奉行も配備されていた。大名行列が通るにはやはり道路が整備されていないと、それに物資輸送は経済に欠かせないものとなっていた。
先導して先を走っている馬に乗った役人が、先導が上手く車はスムーズに進んで行った。時速にして二十五キロから三十キロ程度だが信号も無いし予定より早く二時間弱で城内に入って来た。雄一は城なんて見るのも、本物の城に勤める侍に会うのも初めてだ。
だが城とはいえ天守閣がある訳でもなく、城壁だけは立派で、その中には平屋の建物がいくつもあった。城の周り堀で囲まれ敵の侵入を防ぐ為のようだ。この一行を見た城の門番は驚いている。
いや誰も彼もが驚いている。すでに情報が入っているのか、慌てふためく様子は見られなかったが、その動く鉄の小屋をひと目見ようと城内の侍たちが寄って来た。雄一は車を停車させた。考えてみると初めて車に乗るのに誰も酔っていなかった事だ。緊張のあまり酔う暇がなかったのか。秋山を始め他人の侍もご機嫌である。まるで宇宙旅行を気分だろう。しかし車を藁で囲んだから見た目は汚い。ここで一度車の周りの藁を取り除いた。現れたのは鉄で出来た大きな駕篭のようでもありどう表現して良いか、この時代の人には説明が難しい。
「佐伯どの。本当に早い、ゆっくり走って一刻あまりで着くとは驚き申した。ささ、殿が首を長くしておりますぞ」
川越城は天守閣がなく平屋の城であった。雄一は城と言えば五階以上ある立派な建物だと思ったが違うようだ。だが西大手門に入ると庭は広く更に本丸まで中門を通り何重にも川と橋があり本丸までたどり着くに三百メートルもあった。これでは敵も攻め込めない鉄壁な城だと感心した。
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