63話 秋山半兵衛車に乗る

「これは生きものではなく自動車と自動車と言います。人が操作しないと動きません。それに魂もなく安全です。宜しかったら、お役人も一緒に乗って行きませんか」

そう言われても得体の知れない鉄の箱だ。雄一は危なくないし安全で楽だと何度も説明して、やっと納得したようだ。

「左様か、ではお願い致す。しかし恐ろしくはないのか? それで、なん刻ほど掛かるじゃ」

因みに府中から川越まで約四十四キロ、つまり十一里であり現在であれば舗装道路だから一時間で行けるが、府中から所沢を抜け川越街道に入るまで少し狭い道があり、そこから川越街道に入り、道が倍くらい広くる。そんな工程だ。川越街道と云えども道は良くない最低三時間は要するだろう。

「なん刻と言われましても……確か一刻は二時間として。道が次第だが余裕を見て一刻半くらいか」

「なっなんと? 我等は一昼夜かかったと申すに一刻半で着くと申すか……」

「多分それくらいです。それでは、あと四人乗れますので、どうぞお乗り下さい」

平成の世なら一時間半前後だが、道も悪い街道を通る人々を避けながら進むので倍は掛かると読んでの時間だった。乗れと言われた侍たちは、興味があるのと怖さと入り混じった複雑な顔をしている。だが秋山半兵衛が乗れと命令した。秋山が助手席、他は後ろの座席に乗った。


車の中に入った途端、まるで異次元の世界だ。色んなパネルがあっちこっち光っている。駕篭と違って座り心地ちいい、これで川越まで行くというのだから不思議だ。

「いま馬を二頭手配したので道を空けながら先を走らせるが宜しいかな」

「それは有難いことです。通行する人が危ないので助かります。それと車を見て馬が驚き暴れるかも知れないので絶対、車を見せないように」

「なるほど……あっいや待て。これでは街道を歩く者たちが驚く。どうだろう周りを藁で囲んでは」


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