62話 小屋の様な乗り物

さてこれから川越城に案内するという。どんな服装で行くか迷った。

宗右衛門から貰った羽織袴を着て行くのが礼儀じゃないかと思ったのだが、どうせ異人か宇宙人みたいにしか見られてないなら、せめて背広の正装で行った方が良いのではないかと思った。相手は殿様、現在に例えるなら知事か市長くらいの地位に当たるだろうか。

殿様に気に入られれば、車で街道を走っても便宜を取り計らってくれるだろう。気に入られれば自分の安全も保障されるだろう。前回のように大勢の侍に追いかけられては、たまったものじゃない。

まず殿様が気に入られる事が最優先、土産を用意しなくてはならない。

そこで色々と用意したのが清酒二本、ワイン三本、いやワインは一本だけにした。貴重な物は大切にしないと。

単二の電池四本使う懐中電灯を用意した。但し電池がなくなれば使えなくなるが、電池がなくなれば再充電できるように改良した。そこは工学博士ならではだ。

いずれソーラーパネルを城の屋根に貼り付けて蓄電器を備え付ければ電気が使える。その時は必要に応じて作ってやってもいいが。だがそれは最後の手段で少しずつ、小出ししてやればいい。一度に見せては驚くはかりだし、まだあるぞと期待を持たせるのも良い。


木綿屋の人々が動く小屋のような物と言ったランドクルーザーで、いつもの通り裏道から木綿屋の庭に入って来た。さきほどの物より大きい。川越藩の一行は話には聞いていたが、まさに小屋が異様な音を立てて動いている。彼らは像を見たことがあるか知らないが、そんな大きな生き物かと驚いて腰を抜かさぬばかりだった。

木綿屋の跡取り、松三は免疫が出来ていて思わず笑いそうになったがグッと堪えた。下手に笑ったら無礼討ちになりかねない。秋山半兵衛はまたして度肝を抜かれ唸った。

「おう先程とは違い立派な出で立ちですなぁ。で、この箱に乗って行くので御座るか、それがクルマと云うものか。恐ろしい生き物のようじゃ」

雄一はゆっくりと彼らの前で停車し車から降りた。その姿は背広にネクタイ現代の正装である。

「ほう佐伯氏、それが未来の服装か、異人と似たよう格好だが」

「これは未来の服装です。我々日本人は異人から色々な文化を学びました」

「それにしても、大きな駕篭じゃのう、本当に人は入っていないのか」

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