第50話  牛乳

「佐伯様、それは牛の乳のことですか」

「そうです。私の時代では牛乳と呼び、飲むだけではなく色々な物を作れる貴重なものです。遡れば信長公や将軍家で飲んだという事が歴史書に記載されています」

「確かに牛は居ますが、牛の乳を飲めば牛になると言う噂があり誰も飲みません」

「ハッハハ牛になる事は絶対にありません。私が調べた処に依ると安房(現在の千葉県)の方にあるとか」

「お詳しいでなぁ、まぁ此処からだと三日もあれば安房まで行けますが、果たして牛がいるかは分かりません」

[牛だからどんな牛でも良いと言う訳てもなく。乳牛といって乳を搾る為の牛です。第八代将軍、徳川吉宗公が安房嶺岡で牛の牧場を作り牛乳とチーズを作っていたという記録もあります」

「なんと徳川幕府は八代まで続くのですか?」

「あっこれは余計な事を徳川幕府はこれから三百年続きますよ、その間、戦もなく平和な日々が続きますよ。ですからこれからは商人の時代ですよ」

「本当ですか、それは良い事を聞いた。ますます繁栄出来ますなぁ」

「そうです、ですからこれからは木綿屋さんの時代ですよ」

雄一は煽てた。すっかり気を良くした宗右衛門は大喜びだ。早速、木綿屋に行き小麦粉はあるか聞いてみた。だが聞いた事がないと言う。ただソバ粉は昔からある。ではどうすれば良いかと聞くと長崎にはオランダ人などおり、彼等を通じて手に入れる方法があるという。それでは何カ月も先になる。更に無理を言って江戸まで行きやっと手に入れて貰った。だがこの時代小麦粉で何を作っていたか分からないが、パンを作った話は聞いた事もない。

貸倉庫にある小麦粉を使っても良いがいずれ無くなる。調達方法を知っておき必要がある。

「佐伯さま。今度は何をなさろうと云うんで?」

「日本での主食は米だがオランダやポルトガルなど外国では小麦を粉にしてパンを食べます。今度そのパンを作ってみようかと」

「へぇ佐伯さまは大変な物知りなんですね。なんか面白そうだ。お蔭で玉子焼きは大変な売れよう、で儲からせて貰っています。こうなれば何でもお手伝いしますよ」

雄一はタイムスリップした事も忘れ物つくりに没頭した。また木綿屋の人々も雄一を受け入れ大変な気遣いようだった。それから暫くして小麦粉を大量に貸倉庫から持ってきた。雄一は自宅の製作所に帰りパン作りを始めた。勿論最初はとても満足出来るものではなかったが徐々にパンらしい物が出来上がった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る