第34話 雄一は未来から来た人

「そっそれは困ります。恐ろしい」

「まぁ未来の人以外は危険だから入らない方がいいよ」

彼らは霧の中に家があるのだと思った。しかしなんだろう。この薄気味悪い濃い霧は? まさに宇宙人と云う言葉がこの時代なかったとしたら月の向こうから来たか、神様が地に舞い降りたと思った事だろう。

彼らにお礼を述べて帰ってもらった。それにしても木綿屋の宗右衛門には随分と気に入られたようだ。

おそらく帰って父の宗右衛門にオートバイの事を伝えるだろう。未来の人間と疑って居たが、その話を聞きもう少し信じて貰えるだろう。

思った通り松三は父の宗右衛門に興奮したが話していた。

「おとっつあん。やはりあの人は未来から来た人間でした。佐伯の旦那の家の周り濃い霧に覆われ中に入れば生きて帰れないって」

「本当か。他にまた凄い物でも見せたのか」

「凄いのなんのって鉄の車輪が凄い音を出して馬より早い乗り物を見せられたよ。あれは月から来たか未来から人に間違いないよ」


「鉄の車って荷車じゃないのか」

「それが馬よりも早く、恐ろしい音を出して走って行くんだ。なんでも長崎までも行けるって」

「本当か、一度見て見たいな。そうか、ますます興味が湧いて来た。また来て色々と聞きたいものだ」

 雄一は家に戻り貴重な米を一表、大根、味噌など沢山もらった。初対面なのにこれほどの物を提供してくれるなんて雄一は驚いた。それだけ信用してくれたのだろう。それに鶏の玉子まで付けてくれた。この時代の玉子は貴重で一個七文(現在価格で四百円)もするそうだ。因みに豆腐一丁は千円もするそうだ。道理で時代劇でも玉子や豆腐を食べるシーンは殆どない。この時代庶民の食生活は乏しいものだった。白米飯が出れば贅沢で、米に色々混ぜて量を増やして食べる。それと味噌汁と漬物。一般的にはこの三点。正月とか目出度い時に魚が付けば最高のご馳走だ。四百円(当時の金額なら七文に相当)と言っても一般庶民は七文稼ぐのに半日以上の手間賃というから病気で精を付ける為に飲ませる位しか買えないらしい。どうりで時代劇にも玉子料理があまり出てこないのが頷ける。

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