第30話 サバ味噌缶

「それで紙幣とかコインと缶なんです」

「この時代の銭です。なんなら一枚差し上げましょう。これは十円、日本国に昭和四十四年と彫られています」

「ほうこれが未来の銭……確かに日本国とありますね」

 まだこの時代、紙幣は出回っていない。紙幣が出始めたのは肥前福山藩が一六六一年に銀札という物を発行したのが最初であるらしいが、また出たばかりで世間には広がっていない。

「まぁその話は後々と言うことで、またお会い出来た時でも」

「ハイそれはもう何度でもお起こし下さい。ほうほう、こんな珍しい物と交換とは願ってもない事ですじゃ。それで何が必要で?」

「ではまず銭が少々、銭があれば買う事も出来ますし。いくらでも良いのです。他に米、味噌、野菜など今の処それしか思い付きませんが」

大戸宗右衛門は早速、松三にその品物を手配させた。それにジーパン姿を見て、そのままの格好で歩けば目立ち過ぎると、羽織袴を進呈してくれた。

「いやそんなに頂けると有難い、ではこの缶詰も付けましょう」

「おやこれはなんですか? 鉄の入れ物ですか」

「いや中に食べ物が入っています。サバ味噌と言って魚の保存食です」

「なんと中に魚が入っているのですか」

最近は缶詰を開ける缶切りを必要としないから便利だ。雄一は蓋を開けて見せた。

「どうぞ食べて見て下さい」

宗右衛門は目も輝かせて一口食べた。ニッコリして松三にも進めた。

「これは味噌を使っていますか。しかも柔らか骨まで食べられて美味い、これが未来の味ですか。味噌でこんな美味い物が作れるとは」

「この缶詰、五年以上は保存が効くので便利ですよ」

「それは凄い、そのカンヅメなる物があれば腐らずいつでも食べられますね。それは凄い。

「はい但し、空気を入れず密封しなければなりません。それには技術が必要です」


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