第25話  商人 大戸宗右衛門

「若旦那、おかえりなさいまし」

「お客人を連れてきた。おとっつあんは居るか」

「はい旦那さまなら、母屋の方にお出でですが」

その若旦那と呼ばれた男が母屋の方に案内した。どうやら役人には引き渡される心配はなさそうだ。立派な家だ。明らかに農家の家とは違う。柱は太く二十畳はあろうか広い部屋に案内された。


そこに風格がある商人、見た目には五十歳前後と思われる男が座っていた。先ほど案内してくれた若旦那が、何やら耳打ちして雄一の事を説明しているようだ。

「私が木綿屋の主、大戸宗右衛門で御座います。異人さん?  なにやら仔細がありそうで……」

「いやこんな身なりですが日本人ですよ。突然お訪ね致しまして申し訳ございません。私は佐伯雄一と申します。こんな身なりで驚いたでしょうが。実は食料を分けて頂けたらと思いまして」


 それはこの時代の人間なら誰も驚く。まず百八十三センチの長身、誰もが見た事もない服装、しかも生地が凄く立派。ちょんまげもない。履物は草鞋なく見た事もない立派な履物だ。異人でもなく侍でもない、商人でもない。

「確かに、髪型とその身なりと話し方は? お侍様とも違うし商人でもなさそうだ。最初は異人さんかと思いましたが、お国はどちらでしょう」

 お国と言われても応えようがない。東京と言っても未来の地名だから分からないだろう。


「実はその前にお話したい事が御座います。信じて貰えるかどうか分かりませんが、驚かないで聞いて貰いませんでしょうか」

雄一は、いきなり未来から来たと言っても変人扱いされると思いライフル銃を入れて来たケースの中から、その未来からの証拠品を出した。こんな事もあろうかと色々と小物を持って来ていた。最初に取り出したのは百円ライターだ。それと安物だが数個買って置いたソーラー電池式のデジタル時計だ。つまり針ではなく液晶の数字が入っている。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る