第19話 逃げ帰ったが籠城しかないのか

だが後悔した。なにせタイヤの後がクッキリと残っている。雄一は悔やんだ。タイヤの足跡を追って彼等は大勢で押し寄せてくるだろう。やはり接触するべきじゃなかったと後悔した。こうなれば鉄工所に帰って出来るだけの食料と武器を持って逃げるしかないと思った。しかし何処に逃げればいいのか、誰も助けてくれないだろう。

それどころ不思議な車を見られたら、また追い駆けられるだろう。

味方は一人もいない。助けを求める警察もいない。この時代の人間全てから敵と見なされ逃亡するしかないのか。


なんとか戻って来た。先日暇つぶしに鉄の門の扉にモーターを取り付けリモコンで開閉出来るようにしてあった。この時代でも電波は飛ぶようだ。もっとも平成時代と戦国時代を繋ぐ電波は通じる筈もないが。

扉の前で運転席からリモコンのスイッチを入れた。重い鉄の扉が開いた。

雄一にとってはこんな事は朝飯前に作ってしまう技術を持っている。

こんな事もあろうかと、敷地内を要塞化しようと思っていた。


平成時代から過去の世界へ遡ったが、雄一が学んだ工学技術は伊達ではない。

電波だって送信と受信の装置さえあれば未来とは繋がらなくても、この戦国時代でも可能だ。しかも、この世界では高い建物もないし現代みたいに沢山の電波が飛んでいないから電波は遠くまで飛ばせるだろう。

濃い霧に覆われた扉を車は潜り抜けると、また霧から抜け出して青空から太陽の光が降り注ぐ。雄一は早速、食料や猟銃などを車に積み込み敷地内にたてこもる準備を始めた。この時代で言うなら籠城か、なにやら周りが騒がしい馬の鳴く音、それにホラ貝の音だろうか、数百人いやそれ以上かも知れない。やはりタイヤの後が目印になったのだろうか。


もはや逃げ場を失った。大砲や機関銃でもあれば対抗出来るが猟銃で何が出来ようか雄一は運命を呪った。この時代すてに火縄銃がある。何百丁の火縄銃で狙われては大変だ。

それから三十分が経過、最初は鉄の扉を叩く音が聞こえたが更に一時間、彼らは扉を叩く音さえも聞こえて来ない。何故だ?

もしかしたら鉄工所を取り巻く濃い霧が彼らの侵入を拒んでいるのか。いずれにしても、この濃い霧が謎を呼ぶ。やはり過去と現在を隔てる為のバリアなのかも知れない。

 その時だ! 突然、青空を遮るように黒い雲が、みるみる内に上空を覆ったかと思うと大音響と共に稲妻が走った。バリバリバリ~~まるで先日と同じだった。

またしてもタイムスリップか? 一体どうなっているだろう。

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