第11話 人と会話出来ない寂しさ

 今は何かに集中して居ないと、頭がおかしくなりそうだから必死で毎日何かを作り、敵に進入されないように塀にも工夫を加えた。いま考えてみれば、依然として敷地を覆っている濃い霧は平成と四百三十八年前とを隔てるバリアなのかも知れない。どうせなら府中市全部をタイムスリップさてくれれば大勢の人と街が残り、助け合って生きて行けただろうに。

 敷地の中が現代で敷地の外は戦国時代なのか? 敷地内が現在なのなら電波が飛んでいることになるが。例え物体が移動しなくてもテレビやラジオ、GPSの電波が届くはずだ。それが届かないと云うことは、やはりここは戦国時代となるのか? 

何度考えても堂々巡りだ。結局は今の状況から脱出出来ない。今日で何日が過ぎたのだろう。朝、新聞が配達される訳でもなくテレビが時刻や日にち曜日を知らせてくれる訳でもなく。ただパソコンだけはネットに繋がらなくても、日にちと時間は刻んでくれた。


 無ければカレンダーに毎日、印をつけないと分からなくなる。

考えただけで恐ろしいことだ。ついこの間までは時間との戦いだった。それが今はなんの意味もなさない。決められた約束もないし、いつまでに完成させなければならない、と云うこともない。だが人は今まで手に入った物が入らなくなったり出来なくなったり、また食べられなくなると云うものは苦痛で仕方がない。パンやハム、肉、ピザ、牛乳、たばこ、酒、考えればキリがない。でも一番の苦痛は人と話し事が出来ないことだ。これでは無人島に漂流したようなものだ。

助けが来なければ一生その島で生きて行かなくてはならい。但し生きて行ければ良いのだが。時代は違うが人は確かに居た。自分もこの時代の人間として生きて行くのか? 一人で生きて行くよりはマシだが。とにかく生きて居たいが殺されないとも限らない。戦国時代なのだから殺気だっているかも知れない。

それなら侍は避けて村人か町の商人かと接触を図った方がいいかも知れない。

 うまく行けば共存出来るかも知れない。時代は違え同じ民族なのだから、そう思ったら少し気持ちが楽になった。

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