第9話 本能寺の変 一五八二年六月二十一日
ではこれからどうすれば良いのか? まず食料の確保が第一だ。今のままでは三ケ月分くらいの米と冷凍保存してある食品は二週間分くらいの肉と魚があるだけ。冷蔵庫があるから、ある程度の保存は効くが贅沢を言えばパンも欲しい。
雄一はすっかり忘れていた。貸倉庫は同じ敷地内にある。何故は早く気づかなかったのか、もしかしたら貸倉庫の事務所に人が居るかも知れない。雄一は慌てて貸し倉庫に走った。事務所前に辿り着くとやはり電気が消えていた。つまり人が居ないことになる。やはり自分は一人取り残されたのか怖くて震えが来た。
「そうだ倉庫には沢山の食糧が保管されているはずだ。もし残されていたら宝物だ」
勿論、倉庫には鍵が掛かっている。父の友人の倉庫とは言え、勝手に開ける訳には行かない。またすぐ現実に戻るかも知れない。確かめるのは諦めたが自家発電装置が働いているかどうか確かめなくてはならない。まず冷蔵倉庫を確かめる。ブーンとモーター音がする。大丈夫のようだ。続いて小麦粉などを保管してある常温倉庫に周った。こちらは湿気を防ぐ装置が付いている。これがあれば小麦粉なども長く保管できる。安心して雄一は敷地内の自宅に戻った。
「そうだ。まだ調べることがある」
そう思ってガスの点火スィッチを入れた。しかしガスの匂いもしない。
水道の蛇口を捻ってみたが、やはり水が出ない。もう完全にタイムスリップしたのは間違いないようだ。完全に現代社会から過去の世界へ入ったと覚悟するしかない。その現実が家の中に居てもシーンとして寂しさが増してくる。
CDを取り出して音楽を掛けた。聴いて居なくても常に音楽を流しておく。
これでテレビやラジオが普通に観て聴けたら孤独から多少は解消されただろうが。
そうだ! 今はいつの時代なのだ。そして場所は? そう云えば信長がなんとか言っていたな。雄一は毎年暮れに発行されるDVDに収められた百科事典をパソコンに挿入した。分厚い本にしたら二十五冊分はあるだろうがDVDなら十枚で済む百科事典だ。あらゆる分野に別れ、まさに百科事典に相応しいが価格もバカ高い。高いのでは二十七万円もする。これは二年前に中古で買ったものだが十万円で買えた代物だ。
その他に雄一が研究に使うあらゆる科学、工業、薬品、鉱石から工作技術など、工学分野を超えて収められた本と父が好きだった歴史、また世界の料理とか食料事情など書籍をDVD化した物を持っている。その点では研究好きの雄一には時間を潰せるが。まず歴史について調べた。
織田信長―――本能寺の変―――。一五八二年六月二十一日(天正十年六月二日)とある。今日は六月二十日だ。まてよ? 旧暦だとしたら日にちが合わない。ともあれ違っても一ヶ月程度だ。旧暦で調べたら丁度、異常気象が発生して雷がやたらと鳴った日だった。
つづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます