第7話 これはタイムスリップか
やはり電波障害が起きたのか、しかし気持ち悪いほど濃い霧はなんなのだと不安がまた湧き出してくる。不安を拭いながら、なんとか林の中を切り抜けて先ほどの原っぱに出た。百メートル範囲の地図に切り替えても、地図に表示された道と建物はあるが実際の道はない。
ワ~~~と大きな声を張り上げた。夢なら覚めてくれと叫んだ。車にはコンポが組み込まれている。そのCDのスイッチを入れる。今度は雄一好みの曲が心地良く流れた。しかし心の中はパニック状態になっていた。
車であてもなく走り回った。だがあるのは人が通ったあぜ道だけタイヤ痕もなくアスファルトも皆無だ。辛うじて車は走れる。四WDで特別にシャシも高くし、タイヤも一回り大きいものを使っている。だから多少の山道にも登れるパワーを持っていた。
まさかと思うがタイムスリップと云う言葉は知っている。
現実的には考えられない事だが、宇宙から強いエネルギーが働いたとしたら宇宙の歪み? その確率は何億分の一、いや兆の単位でも不可能だろう?
だが現実がここに存在する。たった一人だけ未知の世界へ投じられるのは気が狂いそうだ。では先程の者達は俳優ではなく本物の侍と云うことになるのか? 雄一は冷静に考えることにした。時間なら無限にある。研究所に行きたくても全て消えている。その研究所どころか平成の時代そのものからワープしたのかも知れない。とにかく一度、家に帰って改めて点検しなくてはならない。
たった二日のことだが夢を見ている訳でも、トリックに嵌められた訳でもない。現実にある筈の、街も民家も競馬場も飛行場も消えた。
自分の心に言い聞かせるように、製作所の敷地に戻って来た。
やはり敷地の周りはミルク色の濃い霧に包まれている。この霧がその謎を解く鍵かも知れない。厚さ四十メートル程の霧の中を潜り抜けると日差しが指して上空は青空から太陽光線が降り注いでいる。もはやこの霧は永遠に続くのか?
つづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます