第16話 メガネザル・レヴォリューション②

 わたしが筋肉痛を押してまで異世界に行こうとした理由。


 それは、昨日の帰り際に見えてしまった基夫君のステータス。




名前 :篠村基夫

年齢 :19

性別 :男

職業 :会社員

レベル:3

HP  :4/18

MP :7/8


体力 :11

力  :12

知恵 :21

敏捷 :14

器用さ:20

魅力 :42

運  :83

カルマ:|6(善)

状態 :近眼、恋慕(菅生梓)、賢者モード(大)、大怪我(左腕:上腕骨粉砕・解放骨折、重度の裂傷・咬傷、出血(中))


・山賊討伐 :1

・魔物討伐 :1

・恋人   :1(菅生梓)






 異世界? に二人で転移して、わたしをかばって狼と戦った基夫君はひどいケガを負っていた。


 幸い、その怪我は基夫君が自分のスキルで治せたようなんだけれど、愛する人がそんなひどい怪我をしていたのに何もできなかった自分が情けなかったの。



 それに、基夫君があの狼を倒した時、うまく言えないけれど、なんかわたしもレベルが上がったみたいな感覚があったの。


 ということは、わたしでもがんばればレベルを上げられるってこと。


 それすなわち、基夫君のチカラになれるってこと。



 この前みたいなときに怪我を治してあげたりとか、戦闘で助けになれたりしたら、基夫君はわたしの好感度を上げてくれるだろうし、そのうち女神さまのような存在になれるかもしれない。


 そうよ、わたしの読んだ作品にもそんな内容のものがたくさんあったんだもの。



 もっとわたしにメロメロになってほしい。


 もっとわたしに溺れさせたい。


 わたしをもっと愛してほしい!



 だから、わたしは異世界に行ってレベルを上げて、出来ることとか魅力とかを増やしたいの。





 基夫君の話だと、メガネをかけたまま基夫君の部屋で眠りに落ちたからわたしも異世界に行けたらしいんだけど、なんか自分の部屋からでも行けそうな気がしたの。


 んー、何というか、基夫君となんかの糸というか絆というかがつながっている感覚があるから可能になっているって感じかな? 


 まあ、肉体的にもつながったんだけどね!

 

 多分、あの『恋人』って欄に私の名前があるからだと思うの。


 で、試してみたら案の定、わたし一人でも異世界に来ることが出来たわ。



◇ ◇ ◇ ◇



「ここはどこかしら?」


 基夫君の話だと、転移する先は前と同じ場所になるって言ってたけれど、ここはどう見てもちがうわね。


 前は鬱蒼とした森の中の砂利道だったけれど、ここはどう見ても街の中だわ。



 石とかレンガみたいなもので作られた建物ばっかりで、まるで物語の中に出てきた中世のヨーロッパのよう。


 ナーロッパって言うんでしたっけ?



 そして、ここは路地裏のようですね。


 路地の向こうから、賑やかな声が聞こえてきています。



 どうしましょう。


 いまのわたしの格好は、魔物と戦うのを見越してのジャージ姿です。


 高校時代の学校ジャージです。


 そして、弟が中学の修学旅行でお土産に買ってきた木刀。


 どうして姉へのお土産に木刀を買ってきたのか問い詰めたいところです。 


 

 まあそれは良いでしょう。


 問題は、今のこの格好はとても街の中を歩く格好ではないということです。


 わたしの目論見では、あの森の中に入ってよわっちいスライムなんかを地道にぺしぺしやる予定だったのに。


 ああ、もう、どうにかして日本に戻ってやり直すことはできないかしら?


 なんて考えていたら、メガネの中の視界になんか四角いウインドウが出てきたわ。


 えーと、なになに? くえすと?



『クエスト発生:異世界でフレンドを作れ!』



 そうきましたか。


 たしか、基夫君の話だと、このくえすと? とやらをクリアしないと日本に戻れないんだったわね。

 

 逆に、これさえクリアできるんならいつでも戻れると考えたほうがいいわね。


 わたしは魔物と戦いたかったんですけれどね。


 まあ、ポジティブに考えましょう。


 冒険者みたいな人とお友達になれば、レベル上げもできるかもしれないし。



 そんなことを考えながら、路地裏から大きな通りに出たその時。




「オー!メガーネ、ザールメイガーニー・ジアールー!!」




 え?


 今、誰かメガネザルって言いませんでした?









 ◇ ◇ ◇ ◇


 異世界に来てまで、昔の嫌なあだ名を聞いたわたしは戸惑っていた。



「オー!メガーネ、ザールメイガーニー・ジアールー!!」


 すると、さっきの声がまた聞こえてきた。


 声の方を見ると、なにやら豪華な馬車の扉を開けて、金持ちそうな豪奢な服を着て、こちらに向かってメガネザルと叫んでいる若者が一人。



「メイガーニー・ジアールー!(女神のようなあなたに愛を!)」



 そして、なにやらわたしにむけて熱い視線とメガネザルという言葉を浴びせてくる。


 わたしがきょとんとしていると、


「僕はあなたに出会うために生まれてきたと断言する!」


 なんか、口説かれてる?



 だが、これはチャンスなのかしら?


 この人と仲良くなれば、くえすと? とやらもクリアになるんじゃないのかな?



「あ、じゃあお友達で」


「ありがとう! 神に感謝を! メイガーニー・ジアールー!」



 おお、なにやら大仰に喜んでいますね。


 そして、わたしの手を取り、手の甲にキスをしてきました。


 人通りの多い往来で、みんながこっちを見てなにやら拍手しています?



『クエストクリアです。元の世界に戻ることが出来ます。戻りますか? Y/N』


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