第15話 メガネザル・レヴォリューション①

 わたしの名前は菅生梓。


 わたしは幼少期から目が悪かった。



 幼稚園の時にはすでにビン底のような分厚いメガネをかけなければ、お外に出ることもテレビを見ることも、絵本を読むことも出来なかったわ。


 そんなわたしのあだ名は「メガネザル」。



 小さな子供って、語彙が少なくて嫌になったわ。


 そして、なんで男子ってあんなにガキなのかしら。


 そのあだ名で呼ばれて、悲しくて思わず泣いてしまったわたしを、おもしろがってそのあだ名で呼び続けたわ。


 わたしが嫌な顔をするたび、その反応が面白かったのでしょうね。


 女の子たちはそういうことはなかったけど、でも、わたしのいないところで仲のいい子たちがそのあだ名で呼んでいたのをある日偶然聞いてしまったの。


 それからのわたしは周りの誰とも仲良くなれなくて、一人で過ごすことが多くなったわ。


 小学校に上がっても、中学校に上がっても。


 田舎って、中学校までエスカレーターで同じメンツなのよ。


 当然、わたしのあだ名はそのまま変わることはなかったわ。




 高校に入って、わたしはメガネを替えたの。


 親に泣きついたけど、コンタクトは買ってもらえなかったわ。

 

 どうやら、わたしの目が悪いのは生まれつきで、コンタクトは目に悪いらしいの。


 それでも、世の中の技術が進歩したのかメガネのレンズは薄いものに替えてもらったわ。


 でも、ダメだった。



 当然、同じ中学から上がってきた同級生たちの口からわたしのあだ名は知られてしまったの。


 せっかく、おバカな中学の同級生たちと離れるために勉強を頑張って進学校に来たというのに、他にも頭のいい子がいない訳ないわよね。


 さすがに、高校生にまでなってメガネザル呼ばわりされることはなかったけれど、陰では呼ばれていたと思うの。


 だって、わたしは、自分で言うのもなんだけれど、そこそこかわいい顔をしていたのに、浮いた話なんか全くなかったから。


 年頃の男子からしたら、陰でメガネザル呼ばわりされている女子と交際するなんて馬鹿にされる要因以外の何物でもないものね。



 そして、そんなわたしは、創作物の世界にのめり込んでいったわ。


 雑誌や文庫ベースの形の残るものでは危険なジャンルへと。


 そう、ネットの官能小説やそっち方面のマンガの世界へと。




 おかげで、わたしの性欲はすごいことになっていたと思うの。


 もう、毎日妄想がはかどって仕方なかったわ。


 

 でも、そのせいかしら?


 勉強が全く手につかなくなって、大学はあきらめざるをえなかったの。



 そして、そんな地元を嫌い、


 目が悪くてブルーライトがダメだから、パソコン作業をする会社にも就職できず。


 そこそこ都会の都市にある医療品製造メーカーに就職したわ。





 今でも覚えてる。


 あの、今の会社の就職説明会の日。


 わたしと同じようなオーラをまとった、メガネをかけたちょっとかっこいい男子。


 わたしに釣り合う男性は、きっとあんな人なんだわと感じたことを。




 そして半年ほどの時間が流れ、


 ようやく基夫君とお話しできる時がやってきたわ。


 配属が同じ部署だったけど、なかなか話しかけられなかったわ。


 だって、わたしは脳内妄想は得意だけれど、リアルでは臆病チキン女子なんだもの。


 入社以降コンタクトにしていた彼が珍しくメガネをかけて、それでいてわたしと同じ時間にタイムカードの前で鉢合わせするなんて!


 ここで話しかけなきゃ女じゃないわ!




 そして、無事、基夫君と結ばれたわ。


 もう、妄想の中では彼と何度結ばれたかわからない。


 妄想が事実なら、すでに何十人も孕んでいる自信があるわ。


 おかげで、彼との初めての夜はとってもスムーズで、もう何回もリピートしたわ。



 それに、彼はなんと異世界に転移できるらしいの。


 偶然なんだけど、わたしも異世界に行けるようになってたわ。



 その不思議なチカラの恩恵なのかもしれないけれど、なんとわたしの生涯で1回だけと思われていた痛みを2回も経験できたわ。


 確かに痛かったけれど、それはそれでいいものね。


 またお願いねって基夫君に言ったら、「うん」って言ってくれたわ。楽しみ。


 でも、そのたびにシーツが汚れちゃうのはいただけないわね。




 でも、なんだかんだでマイダーリンとは心も体も相性ばっちり。


 これで、わたしも充実した生活、いや、性活を捗らせることができるわ!





 なんて思っていた時もあったわね。


 まさか、わたしの業がこんなに深かったなんて。


 ロストする前のわたしだったら、想像すらできなかったに違いないわ。




◇ ◇ ◇ ◇


 基夫君と結ばれたその日の夜、わたしは自分の部屋に帰ってきた。


 幸せに包まれて、ぽわぽわした状態でそのまま眠りについた。

 

 寝る前には、余韻に浸って一人で慰めて、我を忘れるところだったわ。



 そして翌日、異世界でレベルが上がったおかげなのか、仕事がとってもうまくいったわ。


 わたしのラインでは不良品発見率98%というとんでもない成果だったわ。


 え? 残り2パーセントはどうしたのかって? 見つけはしたけど、筋肉痛で手が動かなかったの。




 そして、その日の夜。

 

 わたしは思うところがあり、メガネをかけたまま眠りについて、異世界へと向かったの。 


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