第13話 クソメガネ、異世界でもクソメガネと呼ばれる。

「ふぐっ……」


 山賊たちが便所にしているあたりのエリアのそばで、息をひそめてメガネの能力と思われる『隠密』状態となり、また一人、声を出させないように口をふさいで首をナイフで掻き切った。


 これで3人目。



 便所に行った奴が戻ってこないことにそろそろ誰かが気づいても良さそうなものだが、酒宴のせいで周りが見えなくなっているのか、いまだに誰も気づいてないようだ。


 ちなみに、便所になっているのは大きな樹木の裏であり、出されたものは野ざらしで、そんなところのそばに潜んでいるこちらとしてはとても臭くて鼻が曲がりそうだ。


 メガネに防臭機能とかつかないかな。でも、そうしたら宴会グッズの鼻眼鏡みたいになりそうでいやだな。うん。




 それにしても、よっぽどの大宴会みたいだな。


 漏れ聞こえてくる話を聞いていると、どうも大規模な稼ぎがあったらしい。


 山賊の稼ぎと言えば、当然商人や旅人が餌食となったのだろう。


 で、その戦利品の中に大量の酒もあったようなのだ。



 よっぽど大量にあったのか、30人以上はいると思われる山賊団の下っ端に至るまで全員が酒盛りをしているようだ。


 酒に比して食べ物は少ないらしく、あの狼の肉は都合よく現れた、とても良い酒のアテになっているのだろう。


 洞窟の外、掘っ立て小屋の周辺にたむろしているのは下っ端のようだ。


 親分とか、幹部連中は洞穴の中にいるのだろう。


 そして、戦利品の中には「女性」もいたらしく、今現在親分とかがお楽しみ中らしい。



 よくある物語とかなら、女性が傷ものにされる前に果敢に飛び込んで救出となるのだろうが、これは現実だ。


 幸い、このクエストには時間制限はない。


 女性には悪いが、安全策を取らせてもらおう。




 お、5人ほどの集団が、便所に行った奴らが戻ってこないことに気が付いたみたいだな。


 5人そろって便所の方にやってくる。



 まったく警戒することなく様子を見に来たような5人だが、さすがにこの人数を秘密裏にやるのは無理だろう。


 そこで、一芝居打った。



「てめえ! もう一度言ってみろ! 許さねえぞ!」



 いかにも、姿を消した連中が言い争いをしているかの如く大声をあげる。


 それを聞いた5人組も、何やってんだ仕方ねえなあといった感じでこちらに近寄ってくる。


 そこで姿を現し、油断しきっている一人目の喉をスパッと切り裂く。


 その後ろにいてそれを見ていた山賊が、


「なんだてめえは!」


 と叫ぶが、さっきのケンカの延長線上と思っている他の面々はまだ俺の存在に気付かない。


「うわぁ!」


「てめえ!」


「よくもやりやがったな!」


 次々とこちらに気付いた山賊をスパスパ処理していく。


 これで、外にいる連中の3分の1は始末した。



 そして、喧嘩だと思ってその様子を酒のつまみにしようと近づいてきた他の一団を同じように処理。


 洞穴の外は酒の席とはまた別の喧騒に包まれる。



 残り9人となった屋外の連中に、そのまま突入して殲滅する。


 酒に酔い、武器も手放している山賊なんぞ束になっても敵ではなかった。


 こうして、屋外にいる連中を全て物言わぬ躯に変えた。





◇ ◇ ◇ ◇



 喧騒が収まり、屋外には静寂が訪れた。


 



 洞穴の入り口に張り付いて中の様子を伺う。


 中からは、下卑た笑い声と肉を打ち付けるような音が聞こえてくる。


 女性の声は――息遣いと、不快と嫌悪と拒絶の声が聞こえてくる。


 声の様子から、女性は複数いるようだ。




「ん? 外が急に静かになったみてえだな? あいつら、待ちきれず寝ちまったのか?」 


 どうやら外の様子に気付いた奴がいるようだ。


 そいつは、さすがに幹部の一人らしくしっかりと斧のような武器を持って洞穴の出口に近づいてくる。  


 メガネのスキル、『隠密』を発動。


 入り口から顔を出した幹部の喉を突き上げる!



「ぼげえっ!」


 しまった、声を出させてしまった!



「どうした!」


 幹部連中の声色が変わる。


 このままでは大勢に囲まれてしまうと感じた俺は、洞穴の狭い入口に飛び込んでいく!


「なんだてめえは!」


 激昂した幹部の一人がこん棒を振り上げる。


 だが、ここは狭い洞穴の入り口、振り上げたこん棒は天井にぶつかり十分に振り回すことはできない。


 シュパッ


 その一瞬を逃さず、首を薙ぐ。


 ピイイイイイイイイイイ


 切れ味が落ちたナイフでの切り方が中途半端だったのか、半ば切り裂かれた喉の気道から漏れた空気が笛のように音を鳴り響かせる。



 続いて飛び掛かってきた山賊幹部のナイフの手首をつかんで捻り返す。


 俺の握力は結構上昇しているようで、山賊は不様な声をあげてナイフを手放す。


 その隙をついてナイフを薙ごうとするも、脇からもう一人の山賊が竹槍のようなものを突き入れてきたためいったん後方に退く。


 その竹槍を奪い取ろうとしたが、これまでの戦闘で受けた返り血がその手を滑らせ失敗。


 手持ちのナイフも血と油で切れ味が落ちなまくら同然となり、持ち手も血で塗れて滑らないように握っているのも限界が来た。


 俺はナイフを投げつけ、そのナイフは山賊の一人の眼窩に突き刺さる。


 そうして徒手空拳で残りの一人を倒したとき、ひときわ大きな男が俺の前に立ちはだかる!



 そして、その奥から聞こえてきた女性の叫び声!





「「「クッソクエッツォメガーネメイガーニエー!!」」」





……はい?

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