第11話 クソメガネ、死にかける。

 松明の数は……3,4,5人か!


 以前倒した山賊の仲間と思われる連中が現れた。


 山賊5人を相手にして渡り合えると思うほどの自信など俺にはない。



 だが大丈夫だ。


 何と言っても、今の俺は靴を履いているのだ!


 しかも、不思議なメガネで真っ暗闇夜も良く見える!


 ここは逃げの一手に限る!



 俺は足音を極力立てないようにして、街道脇の森の中に紛れ込む。


 これで、山賊連中は俺のことを容易には見つけられないはずだ。


 よし、危機は去ったな。



 だが、その時の俺は気づいていなかった。


 夜の森というのは、古来から人間にとって、とても危険な場所だという事を……



 ◇ ◇ ◇ ◇


「いやー、これ、このメガネがなかったら本当に真っ暗闇だなー」


 俺は頭上を見上げ、木々の間から覗く夜空を見上げる。


 見事に真っ暗で、月どころかきらめく星の一つも見えない。


「曇っているわけでもないのになー」


 今夜は新月なのか?


 それともこの異世界には月というものが存在しないのか?


 その問いに対する答えは今夜中には得られないという事だけは理解できた。

  


 そして、山賊の集団から無事に逃げおおせた俺は正直油断していた。


 この森の中こそ、山賊の集団と相対するよりも命の危険が大きいというのに!



       ガウッ!



       一瞬。



 獣の声を聞いたかと思った瞬間、


 俺の左のすねは、体長2mほどの狼の魔物に食いちぎられていた。



 ◇ ◇ ◇ ◇


 何が起きたのか頭が理解するまでさらに一瞬の時間を要した。


 その時間がもうわずかにでも長かったならば、俺の命は潰えていただろう。



 突然左足を失い、地面に叩きつけられる俺の身体。


 だが、メガネの恩恵か、俺の周りの時間の流れが切り替わる。 


 狼が俺の左足をスローモーションで咀嚼し、その口蓋が閉じた隙を狙って、残された右足と両の腕で跳躍して狼との距離を詰め、腰に差したナイフを手に持ち思い切り抉る!


 キャイン!


 ナイフは狼の頭部に当たるが、硬い頭蓋に守られた脳に攻撃は届かず、狼はまだ絶命しない。


 時間の流れが元に戻り、頭部から血を滴らせた狼は俺から素早く距離をとる。

 

 咥えた俺の左足を口から吐き出し、怯む狼の姿が視界に入る。


 追撃を加えてとどめを刺したいが――


 右足しかない俺では、5mはある狼との距離を逃げられずに詰めることはできない。


 ナイフを投げるか? 


 いや、狼はこいつだけとは限らない。


 唯一の武器を手放すような博打は打てない。



 そうだ、とりあえず、


 この膠着状態にあるうちに、少しでも治療しよう。



 俺はメガネ越しの目線を食いちぎられた左足に向け、元通りに治癒するイメージを送る。


 欠損は治るのか? という疑念も頭をよぎるが、粉砕された骨すら治せたんだ。何とかなると信じよう。



 そして、目線を左足のある下方に落としたその時、


 それを好機とみたのか狼がこちらに突進を始めた!



    ギャウッ!



 飛び込んでくる狼に視線を戻し、またもや時間の流れが変わる。


 スローモーションで飛び掛かってくる狼に対し、妙に冷静な俺はナイフの刃を向け、その喉仏を正確に貫いた。


 狼は絶命し、その場に倒れ込む。



『――灰色狼を討伐しました。メガネレベルが4に上がりました。』




◇ ◇ ◇ ◇


 どうやらレベルアップでのHP全回復はないらしい。


 なので、ひたすら左足の治療に専念した。


 途中、血の臭いを嗅いできたと思われる狼が現れたが、レベルアップの恩恵か、気配を消すこともできるようになったみたいでやり過ごすことが出来た。


 左足は治った。


 ただし、体感で1時間ほどの時間を要したし、もちろん衣類は破れたままだ。


 あの狼が吐き出した、俺の元の左足から涎と血液塗れの靴を回収してどうにか履きなおす。


 噛みちぎられた元の足と、新たに生えてきた今の足。


 自分の左足が2本ある光景を体験することは決してお勧めはしない。死ぬほど痛いから。


 で、噛みちぎられた俺の左足。このまま捨て置くにはなんだかもったいないし忍びない。


 せめて有効活用しようと、狼を釣る餌に使わせてもらった。


 自分でやっといてなんだが、自分の足が食われるのを見ているのも精神衛生上よくはないものだ。


 だから、餌を飲み込まれる前に釣り上げるとどめを刺す




 左足を比較的見晴らしのいいところに置き、そばの木の幹に隠れて気配を殺して得物を待つ。


 まんまとひっかかった狼を、時間の体感操作で難なく屠る!




 それを十数回繰り返し、俺のメガネレベルは7まで上げることが出来た。


 本当はもっと続けたかったが、さすがに何度もかじられた俺の元左足が限界をお迎えになってしまったから仕方がない。


 最後に残った肉片は火葬にして丁寧に弔いました。


 え? 火葬の火はどうやって熾したのかって?



 俺はとうとう火魔法を!


 覚えたわけではなくて。



 なんだか、メガネレベルが上がったらね、凹レンズなはずのメガネがね、なぜか凸レンズみたく熱と光を集められるイメージが出来ちゃってね、しかも真夜中で日光どころか月明りもなく光なんて皆無なのにね、


 なんと、目線を集中させるだけで火を発生させることが出来ちゃった……。



 そのうちメガネからビームでも出せるようになりそうで怖いです。


 

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