第10話 クソメガネ、自ら異世界に乗り込む。

「……やっぱりこの場所、この時間か」


 三度転移した異世界は、目の前に山賊の死体と灰色狼の死体。


 前回狼を撃退してからほとんど時間は経っていないと思われる。


 

 思うに、日本とこの世界との行き来した間の時間経過は無視されているようだ。


 つまりは、前回この世界から日本に戻ったときそのまま、こっちの世界では時間経過がないのだろう。


 日本でも同様、メガネをかけて寝入って異世界に行った時間と、目覚めて日本に戻ってきた時間は同一なのだろうという結論が導き出される。


 今回は寝る前にちゃんと時計もチェックしてきたから、日本に戻ったときにはそれが検証されるだろう。


「しかし、こっちに来るたびにこの体勢になるのはどうにかならないもんかねえ」


 横になって眠りに落ちてから転移するという性質上、またもや砂利の上に仰向けに横になった姿で異世界に現れている。


 背中に石が刺さる様で痛い。


「今度は背中に雑誌でも詰めて寝てみるか」


 我ながらナイスなアイディアだと思った。


 ちなみに今回は、きちんと対策してきたのでしっかり靴も履いているし、それなりの戦える格好をしている。



「さて、今回はどんなクエストが発生するのやら」


 この世界で発生するクエストをクリアすると日本に帰ることが出来る。


 言い換えると、クエストをクリアするまでは日本にこともできる。

 しかも、日本に戻っても寝た時から時間が経過していないのだ。


 ならば、クエストの内容次第では、この異世界で経験値や物品アイテムを集めることも可能なのではないだろうかと思ったのが、今日も転移してみようと思ったきっかけでもある。


 前回、この目の前に横たわる山賊の死体から、靴やらナイフやらを追いはぎさせてもらった時、懐に忍ばせていあったこちらの硬貨が入ったきんちゃく袋も失敬させてもらっていた。


 その中身は、銀色の硬貨が2枚と、銅貨と思われる硬貨が18枚。そして形も不揃いで現代の日本ならば決して流通しないであろう粗末な金属片が40枚ほど。


 それはアイテムボックスならぬ『メガネケース』に収納してあるのだが、日本に戻ってから、ふとその硬貨類を取り出してみようと思った時、




◎収納物:

・銀貨:2枚(2万円)

・銅貨:18枚(1800円)

・鉄貨:43枚(430円)



 って表示が見えて、いざ取りだそうとしたら


『どちらの形態で放出させますか?  異世界通貨 or 日本円』


 って出てきやがって、日本円を選択したら、しっかり日本円で出てきやがったんだよ!


 つまりは、この異世界で稼いだ貨幣は日本円に両替できるということであり、この世界で稼ぐことが出来れば日本でもウハウハという事だ。


 まあ、レベルを上げて梓さんにきゃーかっこいいーたくましーなんて言われたいのも確かだが。


 レベルを上げると言えば、これまでの2回のクエスト。


 いずれも命の危険性のあるような物騒なものだったけど、結局は結果オーライで何とかなってきた。


 なんとなくだが、そこにもやはりこのメガネの恩恵は働いているのではないかと思うのだ。


 特に、2回目に灰色狼を倒した時。


 あの瞬間、まるで時間の流れが変わったかのように、狼の動きが止まったように見えてそのすきに致命の一撃を叩きこむことができたのだ。


 あの感覚は、まるで自転車に乗っている時、急に飛び出してきた子供をよけようとしたときなどに時間が引き延ばされたように感じるアレと似ていた。


 もしかして、このメガネにはそんな風に俺の知覚を補正してくれる効果があるんじゃないかと思う。


 それも、今回検証できればいいな。



 なんてことを考えていたら、メガネの視界の中に四角いウインドウがポップしてきた。


 どれどれ? 今回のクエストは……?



『クエスト発生:ラーピベスカの森にある山賊のアジトを壊滅させろ!』



 て、いきなりハードル上げすぎだろ!


 山賊なんて、1対1でも倒せるかわからんのに。


 この前だって運よく倒せただけなのに。


 アジトって言ったらあれでしょ? 山賊さんがたくさん住んでるんでしょ? ボスとかもいるんでしょ?


 ちょっと今回は、いくら運がよくても時間が一瞬止まったように見えても無理じゃないかね?




 ちょいと落ち込んだが、復活しよう。


 クソメガネは逆境で18年間生きてきたのだ。


 一人でも、ポジティブシンキングという妄想で乗り切ってきたじゃないか!



 そう、こんな時、ゲームの主人公ならどうするのか? と立場を変えて考えてみる。


 すると、おのずから答えが見えてくるではないか。


 そう、レベル上げすればいいじゃないか!


 今回の異世界来訪の目的とも合致するし。


 よし、森に入って弱そうな魔物を探して……と思ったその時。


「おーい! こっちに誰か倒れているぞ!」


「こいつは、さっき便所に行ったヴァールじゃねえか! おい! 殺されてやがるぜ!」


「畜生! 一体誰がやったんだ!」


「おい! そっちに狼の死体があるぞ! そいつに殺されたに違いねえ!」 



 松明を持った数人の集団が、足元を照らしながらこっちへとやってきた。



 

 

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