第9話 クソメガネ、リア充爆発しろ。

「ん……」


 目覚めてスマホの時計を見ると、すでに昼の時間を回っていた。


 俺の隣には、寝息を立てる梓さん。


 昨夜は転移のあれこれがあり、臭い山賊さんの革製品を洗い終えた時には深夜の3時を回っていた。




 その後。


 俺は大人の階段を登った。




『クソメガネ』と呼ばれて暗黒の青春時代を送っていた俺に、こんな日が来るとは思わなかった。


 メガネを忌み嫌っていた俺だが、この出会いはメガネがもたらしてくれたようなものだ。


 やはり、俺はメガネとはひとかたならぬ縁があるのであろうか。


 メガネのことはもういい。


 俺は今、幸せなのだ。





 昨夜は燃えた。


 梓さんも燃えていた。


 初めて同士だったけど、まあうまくいった。


 このアパートには同じ職場の人間が数多く住んでいるのだが、これまでに騒音とか嬌声とかが聞こえてきたことはないから大丈夫だと思いたい。




 互いにお互いの身体を貪ることに夢中になり、気が付いたら夜はすでに明けていた。


 意図せず異世界に転移してしまい、命の危険にさらされたことも原因の一つだろう。


 互いの生存本能が、激しい一夜の一助になったことは想像に難くない。


 ベッドのシーツには、梓さんの初めてを散らした証が生々しく残っている。



 その出血を最初に見たとき、動揺した俺は思わずメガネをかけて『治療』を選択してしまった。


 その結果、見事膜が治療され、梓さんに生涯1度きりの痛みを2度も与えてしまったことは反省している。


 でも、梓さんもまんざらでもなかったみたいだよ?


 だって、「また今度もお願いね?」なんて言ってくれていたんだもん。



 そして、目覚めた梓さんに、昨日の転移の件やこれまでのことを説明した。


 腕枕してた左腕が途中で痺れてきたけれど、そんなことは平気の平左だ。


 粉砕骨折に比べたら何のことはない。


 イチャイチャしながらいろんな話をして、何度か再戦に至る場面もあった。


 俺は今日爆発してしまうかもしれない。



 で、夕方。


 名残惜しいが、梓さんが自室に戻る時間がやってきた。


 同じアパートなのだからずっと一緒に居たい気持ちであるが、二人とも明日は仕事である。


 今日はいったん帰るけど、仕事も周りの目もあるし、しばらくは週末にだけ会うようにして平日はがまんしましょう? そして徐々に公認の中になってきたら私物を持ち込んで同棲状態になってもいいですか? なんて聞かれて嫌と言えるわけがないだろう。


 そうして、日常の中の非日常異世界の時間や、幸福な日常リア充の時間の週末は終わりを告げた。



 ◇ ◇ ◇ ◇



「お……おはようございます……」


「おはよう……」



 翌日、アパートの前で偶然顔を合わせた俺たちは、ぎこちない挨拶を交わした。


 関係をもって気恥ずかしいからというのもあるが、その原因の多くは別の理由だ。


 今の二人は絶賛筋肉痛なのである。



 夜の営みを頑張ったからではないだろう。


 いくら何でもここまでになるはずはない。


 おそらくは、俺が最初に異世界に行った時と同様、


 『メガネレベル』が上がったことによる身体への影響なのだろう。



 まだ職場の人たちには俺たちの関係性を知られたくはない。


 なので、あいさつの後はぎこちなくも別々に出社する。



 そしていつもの作業風景。


 今日の俺はコンタクトなのでメガネの恩恵を受けることは出来ないが、梓さんは違ったようだ。


 普段からメガネ使いの彼女にもメガネの恩恵が出来たらしく、今日の彼女の動きは筋肉痛だという事を微塵も感じさせないほど洗練されていた。





 そしていつも通りに自室に帰宅。


 コンビニの弁当を夕食に食べながら、今度は梓さんの手料理でも食べたいななどと妄想しつつ。


 あの柔らかな肉体に埋もれたいという欲望も抑えつつ、というか抑えきれずに思い出して自分で処理したりしながらシャワーを浴びて。


 俺は比較的丈夫な靴と、ジーパンなどの衣類を身に着け、山賊のナイフを腰に差し、防御力が少し高そうな山賊の革製の上着をまとい、


 まだ寝るには大分早い時間、メガネをかけて横になる。


 そう、俺は今夜も異世界にダイブしようとしているのだ。



 

 平日の夜なのに異世界に行こうと思ったのは何故かって?

 

 メガネレベルが上がればひどい筋肉痛になるのに、どうして明日仕事の夜に異世界に行くのかって?


 それは、この前梓さんが家に帰る前、梓さんのステータスをちらっとのぞいてしまったことに起因する。





名前 :菅生すごう あずさ

年齢 :19

性別 :女

職業 :会社員

レベル:2

HP  :8/8

MP :0/2


体力 :6

力  :3

知恵 :9

敏捷 :6

器用さ:9

魅力 :14

運  :12

カルマ:|2(善)

状態 :近眼、強い恋慕(篠村基夫)、興奮(大)。


・恋人   :1(篠村基夫)

・経験人数 :1





 

 

 こんな感じだった。


 そう、俺のメガネレベルが上がったことで、とうとうステータスの各数値が見えるようになったのだ。


 と、いうことは。


 梓さんもメガネレベルが上がれば俺のステータスが見えてしまうわけだ。



 ならば、


 男の子として見栄を張りたくなるじゃない?



 どうにかして、レベルを上げて「きゃー、基夫さん、たくましいわー」とか言われてみたいのだ。


 それだけだ。


 いや、正直ほかにも理由はあるのだが。


 とりあえず、そのことは後回しでもいい。



 筋肉痛は、少し慣れた。


 繰り返せば、さらに慣れる。かもしれない。


 

 メガネをかけるのは正直嫌だ。


 だけど、異世界には俺のことを知る奴なんているはずがない。


 仮に、変なあだ名をつけられようが全く問題ない。


 それに、このメガネには梓さんとの縁を紡いでくれた恩もある。

 


 と、いうことで。


 俺は一人でレベル上げに勤しむべく、異世界に転移した。

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