第2話 クソメガネ、山賊に出会う。

 身体が痛くて目覚めると、そこは森の中の砂利道だった。


 自分でも何を言っているのかわからない。


 何がどうなっているのかわからない。


 で、ここはどこなんだと思いながら周りを見渡してみると、


『ラーピベスカの森の街道』


 とかいう四角いウインドウに囲まれた文字が出てきた。



 ほんとうに、何が何だかわからない。



 俺は確か、昨夜は……って、まだ夜か。


 とにかく、翌日が休みなのをいいことにノンアルビールをちょいと多めに飲んで、ゲームをしながらそのまま寝落ちしたと思われる。


 自分の服装は、そのとき寝落ちしたときのままだ。


 スエット上下に裸足。


 ん、待てよ?


 そういえば、ゲームをしながら寝落ちしたんだ。


 ということは。


「やっぱり、メガネはかけっぱなしだな」



 そのメガネから見える視野の隅に、意味不明な四角いウインドウが見えている。


「俺は寝ぼけているのか?」


 自問してみるも、いまだ足の裏に突き刺さるように存在する砂利の痛みは、これが現実だと告げている。


「それとも、寝ぼけてフルダイブ型ゲームにでもログインしたか?」


 いや、あんなものはいまだラノベの中での存在であって、今現在の技術ではせいぜい視覚のゴーグルと聴覚のヘッドフォンくらいの再現クオリティーしか実装されていない。それに、俺はVRゴーグルすら持っていない。



 足の裏から伝わる砂利の感覚と痛み、そして初夏なはずだというのに肌寒いこの空気と頬を撫でていくわずかな風が、これがリアルな体験であるといやがおうにも語り掛けてくる。


 まあ、100歩譲って俺がいきなり森の中にいることは良しとしよう。


 ここまでなら、どうにか現実でもあり得るシチュエーションだ。


 だが、視界の隅の四角いウインドウ、お前はだめだ。


 現実世界で実際の視界に現れるウインドウなんてあり得ない。





 リアルにしてはウインドウが見えるのはおかしい。


 ゲームにしては、痛みや寒さを感じるのがおかしい。



 そして、そこに立ちすくす俺には、次第に足の裏の痛みと肌寒さが蓄積されてくる。


「ちくしょー、一体どうしろって言うんだよ」



 そんなことをつい口づさむと、


『クエスト発生:盗賊を一人討伐しろ!』


 さっきのなんちゃらの森の街道という文字が消え、今度は視界の正面、上の方に新しいウインドウと文字が現れた。


「ゲームかよ!」


 俺は思わず叫ぶ。



 それにしても物騒な内容だ。


「これって討伐って書いてるけど、捕まえるの? それとも殺しちゃうの?」

 



 だが、視界にはもう何も現れてはこなかった。



「ふう。」



 いささか精神的な疲れを感じたオレは、いつもの癖で目頭を揉もうとし――メガネをかけていたことに気が付いた。


「メガネしてることまで忘れるなんて、よっぽど動揺してたんだな」


 改めて目頭を揉もうとメガネを外すと――






「真っ暗だな」




 俺の視界は暗闇に包まれた。



 単にメガネを外したから周りが見えなくなったのか?  


 違う。



 明らかに、明度が暗い。


 それに、さっきまであんなにはっきりと見えていた四角い文字のウインドウがどこにも見えない。



 ということは、もしかして。


 俺は大きく息を吐き、先ほど外したメガネを再度装着する。


 すると、さっきまでと同様、暗いながらも周囲の様子は分かる。


 そして、あらためて周りを見渡してみる。


 空は、真っ暗の闇。


 月どころか、星すら見えない。


 だからといって、雲に覆われているわけでもない。


 新月だ。



 何ひとつ光源のない闇夜。


 だというのに、俺の視界は周囲の状況を捉えている。


そんな時、


「誰かいんのか?」


 不意に、男の声が聞こえてきた。


 見ると、脂ぎった頭髪に小汚い服装をした薄汚い男がキョロキョロしながら周囲を伺っている。



 ……こいつは?


 思わず脳内でそうつぶやくと、メガネの視界に新しくウインドウ表示が現れる。




名前 :ヴァール

年齢 :28

性別 :男

職業 :山賊(悪)

レベル:?

HP  :11/11

MP :2/2


体力 :?

力  :?

知恵 :?

敏捷 :?

器用さ:?

魅力 :?

運  :?

カルマ:マイナス7(悪)

状態 :暗闇、怯え


・魔物討伐数:0

・殺人数  :2

・強姦数  :3





「なんじゃこりゃ……」


 これって、いわゆる個人ステータスってやつなのか?


 ぱっと見た感じ。殺人とか強姦とかのパワーワードが目についてくる。




「なるほど、こいつは悪党に違いない」


 それにしても、このHPとか力とか体力とか。


 ほとんどわかんねえことだらけじゃねえか。


 HP11って、高いのか? 低いのか?



「自分のステータスが見られれば少しは分かるんだが」


 そう脳内でつぶやくと、



 ……。


 なにも起きなかった。



「自分のステータス見られねえのかよ!」



「だ、誰でい!」



 しまった、思わずセルフツッコミに声を出してしまって盗賊に気付かれてしまった。


 いまさら猫の鳴き真似とかしても無駄だろうな。



 すると、山賊の男は腰に差してあるナイフを抜き、振り回しはじめた。


「おりゃー! どこだ! 出てこい!!」



 メガネ越しに、めくらめぽっうにナイフを振り回す男の姿。


 どうも、向こうにはこちらの姿は全く見えていないらしい。



 だが、俺には奴の姿は良く見える。




 この、暗闇でもよく見えることとか、ステータスが見えるのとかって、やっぱりメガネが関係してるよな?




 






 

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