第15話 部屋の窓が無ぁい!!

「すげえ作戦、ですか?」

「それはどんな作戦なのだ?」

「あのドクドク・スライムを見て閃いたんだよ。アレは使えるってな」


 この作戦に必要なのは三つ。

 相手の動きを絞れる一本道と突き当たりの部屋、そしてドクドク・スライムだ。

 本当なら落とし穴を掘れればそれが一番いいんだけど、時間的に無理そうなので部屋で妥協。部屋は脱出されるリスクがあるけど、俺たちで外側から扉を押さえつければイケるだろ。


 どういうことかというと、あの婆さんとドクドク・スライムを狭い空間に閉じ込めてしまおうって作戦だ。


 1:窓のない部屋を探す(窓から脱出されたら意味ないからな)。

 2:その部屋に大量のドクドク・スライムを誘導する。

 3:リリシアのポンコツ魔法を外で発動、発光を利用してあえて居場所をバラす(動けなくなったリリシアは俺が担ぐ。もしくは適当な場所に隠す)。

 4:光を見た婆さんがここにやってくる。

 5:部屋に通じる一本道に婆さんを誘導、追い詰められたフリをして部屋の入り口前で待機。

 6:婆さんが詰め寄ってくる。

 7:婆さんを部屋に閉じ込め、ドクドク・スライムに襲わせる。

 8:婆さんは毒と粘液で疲弊、俺たちは無傷で婆さんを確保。


「どうだ、完璧な作戦だろ? 本音を言うと落とし穴を作ってそこに大量のドクドク・スライムを投入したいところだが、時間的に厳しいしな。とはいえ部屋に閉じ込めるだけでも十分な効果はあるはずだ」

「う~ん、悪くないとは思いますが、そんなに上手くいきますかね?」

「そもそも、我らに残された時間がどれだけあるかも予測がつかぬのだ。ドクドク・スライムを誘導している暇などあるのか?」

「そこは俺も考えたさ。でも、可能性を考え始めたらキリが無いだろ? ときには賭けに出ることも必要だと思うが?」


 キリエによればあの婆さんは既に何人か殺っちまってるらしいし、罠を張っているときに殺す気で襲われたらそりゃ一溜りもないだろうさ。でもぶっちゃけ、罠張ってないときでも殺す気で襲われたらヤバいんだよなぁ。どうせヤバいってんなら、なにかしらの行動に出たほうがお得だろ?


「賭け、ですか。たしかに一理ありますけど」

「しかしだな。二の矢を備えずにというのは無謀に思えるが?」

「二の矢ならあるぜ。もし罠を張っているときにあの婆さんが来たら、そのときは三人でフルボッコにする。いくら人殺しでも三人を同時に相手取るのはキツいだろうしな。ま、その場合は三人とも無傷とはいかないだろうが」

「ふぅむ、他に策が浮かぶわけでもなし。我はレイ殿の作戦に従おう」

「ですね。私にできるのなんて上手くいくのを祈ることくらいですし。とりあえず、作戦に使えそうな部屋を探しましょうか」


 会議を終えた俺たちは、なるべく会敵しないようにと慎重に進んでいった。どうしても避けられないときはキリエが対応した。


「闇に封されし白刃よ、汝、依然として目覚めることなかれ。『鞘殴斬シース・ブレイク!!』


 要するに刀身を抜かない鞘での攻撃な。

 三~四発も受けると、ドクドク・スライムは倒れていた。


「どうやらこの修道院にはドクドク・スライムしかいないらしいな。それにしてもキリエ、お前なかなか強いじゃないか」

「当たり前じゃないですか。なんたってキリエちゃんのお父さんは剣聖ですからねぇ」

「マジかよ! 言われてみれば、グレイザレイって聞いたことあるような気がするな」

「出自など関係ない。単純に敵が弱かった、それだけのことに過ぎん。レイ殿があの珍妙な武器で攻撃すれば一撃で葬れよう」


 珍妙言うな、ああ見えて勇者の剣なんだぞ。


「……ところでリリシア殿、その口の軽さはいただけないな?」

「まぁまぁ、細かいことはいいじゃないですか。あっ、あっちに部屋がありますよ。見てみましょうか」


 そう言ってリリシアが指さした部屋はエル字に曲がる廊下の角に位置しており、必要な条件を満たしていない。

 コイツ、俺の話をちゃんと聞いていたのだろうか?

 ちらりとキリエのほうを伺ってみる。

 キリエはやれやれとでも言いたげに肩を竦めていた。


#


「レイくん、この部屋窓がないですよ! やったー、窓なぁい! これなら密室にして閉じ込めることができますよっ!!」


 俺たちが条件に合致する部屋を見つけることができたのは、会議終了から二十分くらいあとのことだった。ちょっと慎重になりすぎたかもしれない。

 

「モンスターがいなければもっと早く見つけられたんですけどねぇ」


 そんなバカなことを言うリリシアに、キリエがため息交じりにツッコミを入れる。


「ここがダンジョンでなかったのならば、そもそもにしてこの作戦が成り立たぬ道理」

「あっ、それもそうですね。てへへ」


 ちろりと舌を見せて誤魔化すリリシア。

 ちょっとカワイイと思ってしまった。

 なんか悔しい。


「しかし三階かぁ。殺意むき出しで迫ってくる人間をここまで都合よく誘導できるもんなのか?」

「やってみなければ分からぬ。それだけのことよ」

「しかし妙ですね。コンペーちゃんからはなにも報告が無いのですが。もしかしてあのお婆さん、私たちのことを見失ったんじゃないですか?」


 マジか!

 それならわざわざこんな小賢しい真似をする必要もなくなるし最高なのだが!


「その線は望み薄だな」


 俺たちの希望的観測は、キリエの一言で一刀に伏された。


「あの老婆の殺気から推し量るに、そう簡単に諦めるようには思えん。仮に見失ったとて、この修道院を調べる程度のことはするだろう。それでも見つからなければ他の仲間に捜索を手伝わせる。我ならそうする」

「え、他にも仲間がいるんですか?」

「あれだけの金塊だ。たしかに単独で行動しているとは考えにくいな」


 結局のところ、この建物内に罠を張って迎え撃つのが最適解ということなのだろう。


「仕方ないですねぇ。それじゃあ当初の予定どおり、次はこの部屋にドクドク・スライムを誘導しましょうか」

「あぁ、そのことなんだが」

「ん、どうしたんですか?」

「わざわざ誘導なんてのは面倒だなぁって思ってな。だからこういうのはどうだ? 直接手で運んじまうってのは」


 俺は両手でグーパーを繰り返すジェスチャーをした。


「手掴みですか?」

「なるほど」


 バカじゃねーの?

 思いついたときにはそう思ったけどな。

 でも、時間を無駄にしたくないこの場面では理に適ってるだろ。


「レイ殿、それは悪くない。むしろこの状況においては最適解かもしれんぞ。しかしそうなると、毒状態に侵されないかという不安要素が浮上してくるな……」

「それなら心配ないと思うぜ? だってドクドク・スライムのドロップアイテムには毒消し草があるからな。先に三枚集めておけば問題ないだろ」

「たしかにその方法なら毒状態の心配もないですし、なにより大幅に時間を短縮できそうですね。やっぱりレイくんは天才です!」


 基本的な言動はアホだが、こういうときだけは素直で可愛らしいリリシアであった。

 よし決めた。いまからコイツのことはマスコットかなにかだと思うことにしよう。

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