第14話 探索
勇者の剣を置いてきちまったのは心細いが、お陰で楽ができると考えるとそれはそれで悪くないかもな。こいつらに建物内を探索させて、その間に俺はぐーたらさせてもらうぜ。
「いや、それは危険だ。この建物がダンジョン化しているかどうかは分からぬのだからな」
「そうですよぅ。いまのレイくんは丸腰なんですよ? そんな状態でモンスターと遭遇したら危険ですよ。まぁ、凶悪なモンスターは住んでいないようですし、命の心配はないとは思いますけどね。それでも油断は大敵ですよ」
はて?
まだ調べたわけでもないのに、どうして凶悪なモンスターがいないって分かるんだ?
疑問を口にすると、リリシアは人差し指を立てて、自慢げに鼻を鳴らした。なんかコイツが偉そうにしてると妙にムカつくんだけど。
「いいですかレイくん。こう見えても私は魔法使いなのですよ? 微量な魔力なら見逃すこともありますが、莫大な魔力とあらば、感じ取るのに訳ないのですよ」
「へぇ。とはいっても、三人一組になっての移動ってのも困りものだぞ? 見張りがいなかったら、万が一あの婆さんがここに来たときに対処できないかもしれない」
「なれば我がその役を承ろう。無用の長物とはいえ、レイ殿と違って丸腰ではないしな。気乗りはせぬが、真に命が危うくなった暁には、剣を抜くこともあり得るかもしれぬ」
たしかに、いまの俺よりかはキリエが見張りを担当するほうが適役かもしれない。でも、そうなると俺とリリシアの二人で探索しなくちゃならないってことだよなあ。めーっちゃ不安なんだけどそれ。このポンコツに俺のお守りが務まるのか?
そんな俺の不安を察したのか、リリシアはまたもや意味深な微笑を浮かべた。
「ちょっと名案閃いちゃいましたよ。もしかして私って天才?」
「どんな案だ?」
「見張りをコンペーちゃんにやらせて、私たちは三人一組で行動すればいいんです。どうせレイくん、私みたいなポンコツと二人っきりで行動するなんて嫌だったんでしょう?」
「ぐっ。い、いや~、そんなことは無いよ? そりゃあちょっぴり不安だけどさ。でも、俺が仲間を疑うような人間に見えるか?」
「見えますね」
「見えるな」
「ぐはっ」
うぅっ、酷い!
こいつらには人の心ってものがないのか?
「でもまぁ、たしかにその作戦は名案かもしれないな。ポンコツにしてはグッドアイデアだ。褒めて遣わす」
「ポンコツ言うな。てゆーかなんでそんなに上から目線なんですか!」
「そりゃ俺のほうが上だからな」
「ムキーーーーッ!!」
「やれやれ。お前たちは仲がいいのだか悪いのだかまるで分からんな」
「出でよ、我が必殺の究極モンスター・コンペーちゃんっ!!」
リリシアが詠唱すると、昨日と同じく、空間の一部に黒い穴が穿たれる。そしてそこからコンペーちゃんが姿を現わした。その姿は実に可愛らしいものだ。大きさとしては鑑定結晶と同じくらい。全体的に丸っこくてふわふわしてて、正直に言うといますぐにでもモフりたい。
「やっぱり一日じゃ回復できなかったみたいですねぇ。でも、そのお陰で長く出しておけるので助かりますが」
「なるほどな。召喚したモンスターが強ければ強いほど、それに比例して魔力消費も大きくなるのか」
「はい。ですが、いまのコンペーちゃんは精々がEランクといったところでしょう。この程度であれば二~三時間は出しておけますよ。というわけでコンペーちゃん、見張りは任せましたよ? 怪しい人が近づいてきたらすぐにテレパシーで知らせるのです。いいですね?」
「きゅるぅっ、きゅるんっ!」
うん、やっぱりこっちのほうが断然いい。
あのバケモノ染みた風貌と比べれば、まさしく天使と悪魔って感じだ。
「準備は整ったようだな。ではさっそく探索を始めるとしよう。ついでに紐状のものや重量のあるものが落ちていないかどうかにも気を配ってくれ。いま上げた二つがあれば、簡易的だが、トラップを仕掛けることも可能であるが故な」
なんだろう。
なんだかキリエのやつ、昨日とは違ってすごく頼もしい感じがするのだが。まるで場数を踏んできたアマチュア冒険者みたいだ。
「ん、どうした? 我の顔になにか付いているか?」
「いや、なんでもない。早いところ探索しちまおうぜ」
「それじゃコンペーちゃん、私たちは探索に行ってきますので、見張りのほうはお願いしましたよ~」
「きゅるるぅ~~!」
#
武器を置いてきた俺の両隣をリリシアとキリエでカバーする。
その陣形をキープしつつ、いつモンスターに遭遇しても対応できるように、ゆっくりかつ慎重に歩を進めていく。
「ダンジョン化していた場合、モンスターが仕掛けたトラップがあるかもしれぬ。なにか怪しいものが配置されていないかどうか、そういった部分にも細心の注意を払ってくれ」
「あぁ、了解だ」
悔しいが、いまの俺はお荷物みたいなものだ。
戦士という職業柄、その気になれば肉弾戦スキルの習得も可能だが、できることならスキルポイントは1ポイントでも節約したいのが本音。
悪いがここは二人に甘えさせてもらうぜ。
その代わり、絶対にトラップの類は見逃さない。
ただの足手纏いになるのは御免だ。だって貸しを作りたいのは俺のほうなのに、こいつらに貸しを作られたらそれで帳消しになっちまうからな!
「……リリシア、キリエ。見えるか? 広間を抜けた先の中廊下だ」
「あれはドクドク・スライムか!」
「ひぃぃ、またスライムですかぁ!?」
ドクドク・スライム。
スライムに毒の要素をプラスしたFランクモンスターだ。
ただのスライムと同じFランクに指定されているのは、毒消し草さえあれば脅威にならないから。
モンスターが出現したということは、ここは既にダンジョン化しているということ。俺はドクドク・スライムの姿を見て、内心ほくそ笑んだ。
探索を始めた当初はモンスター出ないでくれ~などと思っていたが、よくよく考えてみれば逆のほうがいい。
「二人とも、ちょっと聞いてくれ。ここにきてすげえ作戦が思い浮かんじまったぜ。上手くいけば戦うまでもなく婆さんをひっ捕らえられるかも」
あの婆さんが悪事を働いているのは明白!
この作戦が上手くいった暁には強請って金塊を脅し取ってやる! だぁーっはっはっは!!
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