第2章 爆発ヒーラーと真の勇者(?)
第11話 ナルシスという男
「ふへへへ……。キリエちゃん、どうしましょうか、この状況」
絶叫したとてどうにもならない。
そんなワケで俺は一階の食堂にやってきた。
食堂には結構な数の冒険者の姿が見受けられた。
どうやらここの食事は人気があるらしい。
俺は食堂奥のテーブル席まで足を運び、そこで陰鬱な雰囲気に包まれた二人の少女に遭遇した。
一人は赤いウルフヘアの少女、リリシア・ロンド。
トレードマークの樫の箒は窓際の壁に立てかけられており、当の本人はテーブルに肩肘を突きながら引き攣った笑みを浮かべていた。あの様子を見るに、きっとなにかロクでもないことをやらかしたのだろう。流石はポンコツ魔女っ娘だ。
そしてそのポンコツ魔女っ娘の真向かいに腰掛けているのが中二剣士ことキリエ・グレイザレイだ。キリエもまた、ロングソードを窓際の壁に立てかけ、沈んだように項垂れていた。切り整えられた濃紺の前髪が瞼を覆い、これはこれでどことなく様になっている。
「オイお前ら。なんでお前らがこんなところにいるんだ? お守り隊とやらはどうしたんだよ」
いや待てよ?
昨日一緒に帰ってきたんだっけ?
うーん、イマイチ思い出せん。記憶が曖昧だ。
「レイくん……、うくっ、うわぁああああああん、レイくぅぅうううん!!」
「おいおい、マジでどうしたってんだ?」
「レイ殿、いまは泣かせてやってくれ。というのもな、実は昨晩、ゴールドを使いすぎてしまったようなのだ。今週も末になれば、新作の箒が発売されるでな。リリシア殿はそれを楽しみにしていたのだ」
「うわあああん、こんなのってあんまりですよぉおお!! いままで【ヴィスター商店】の箒は全部集めてきたっていうのに! 昨日あんなに頑張ったのに、その仕打ちがこんなだなんて、酷すぎますぅうううう!!」
「ヴィスターってなんだ? ブランドか?」
よく分からんがこれはチャンスだ。
なんたって金が無ぇのは俺も同じだからなっ!
ここでさも「お前のためだ」的な空気を装って適当なクエストの一つでもクリアすりゃ、俺もゴールドを得られるし、さらには貸しまで作れるって算段だ。
俺は努めて落ち着いた声でリリシアの肩に手を置いた。
そして優しく微笑みかける。
「そういうことなら俺が協力してやるよ。また一緒にクエスト攻略しようぜ。もちろん、昨日みたいな卑劣な真似はしないさ」
するとリリシアは秒で泣き止み、目を輝かせた。
「本当ですかっ!?」
「あぁ本当だとも。なんたって、俺とお前の仲だろ?」
「うっ、ううううう、昨日は汚物だなんて言ってごめんなさぁあああいい!! 私、一生レイくんについていきましゅぅううう!!」
それはやめてくれ。
ポンコツが移る。
と、そんな俺たちのやり取りを見ていたキリエが、やや気まずそうに声を発した。
「ところでレイ殿。そのクエスト、我もついて行っていいだろうか? 恥ずかしながら、我も少しばかり散財が過ぎたようでな……」
ふっ、ふふっ。
ククク、あっはっはっは!!
ぬかったなぁキリエ!
黙って「友のために我も同行させてもらおう」とでも言っておけば良かったものを、自ら弱みを見せるとはっ!!
えぇもちろん一緒に来てもらいますとも。
俺は優しいからねー。
「水臭いな、キリエ。一度クエストを共にしたなら、それはもう既に仲間だ。たしかに俺は汚いところがあるが、困っている仲間を見捨てるほど腐っちゃいないつもりだぜ?」
「すまない。では、お言葉に甘えさせてもらう」
「あぁ。存分に甘えてくれ」
存分に、な(笑)。
#
というワケで、俺たちは冒険者ギルドへとやってきた!
「うわぁ、すっげー込んでるじゃん。こりゃかなり待たされそうだな」
昨日とは打って変わり、受付カウンターからは長蛇の列が伸びていた。もしかしたらウマいクエストの話でも出たのかもしれない。
「なんで今日に限ってこんなに込んでるんですか!」
「知らんがな。とはいえこの分だと当分は待たされるだろうし、掲示板のほうでもいってみるか?」
基本的に、クエストというのは冒険者ギルドで受注するものだ。だが他にも、武器屋や防具屋や薬屋などといったところでも受注することができる。そういったクエストは店前の掲示板に貼り出されており、掲示板クエストとか雑用などと呼ばれている。
とはいえほとんどの場合が材料採取やらで、わざわざモンスターを討伐する必要もない。お陰で危険は少ないが、ついでに報酬も安い……そのクセして長距離を移動させられたりということもあるので、人気が無いというのが現状だ。まさに雑用ってワケだな。
「ウム、賛成だ。なにかしらの掘り出し物があるかもしれぬしな」
「そうですねぇ。あまり期待はできませんが……」
かくして、俺たち三人は冒険者ギルドを出て左手側に進んだ。五分くらい歩いたところで、武器屋の看板が見えてきた。
店頭の掲示板にはいくつかの紙が貼られていて、俺はその一つを手に取ると。
「えーどれどれ? 片手剣の素材となるブラック・ブリリアントの採取をお願いしたい。採取スポットは王都北東に二百キロ進んだ鉱山エリア。報酬は五百ゴールド、か。……誰がやるねんこんな仕事! 野宿確定やんけ!」
「こっちのも割に合わぬな」
「ま、掲示板クエストなんてこんなもんですよ。そもそもが、仕事が受けられないっていう冒険者のための救済措置ですからねぇ」
だとしてもだろ。
いくら雑用とはいえこんな条件はあんまりだぜ。
モンスターと戦わなくていいっていうのも、討伐クエストじゃありませんってだけで、移動途中とか野宿の最中に襲われることはあるしな。
「仕方がない。他の店を見てみるか」
「そうですね」
「そのほうがいいだろうな」
それぞれの意見が合致して掲示板の前から立ち去ろうとしたそのとき。
「んん~? その後ろ姿はリリシアちゅわんじゃないかねっ? それにキリエちゅわんまでっ!?」
振り向くと、そこには見るからにナルシストといった感じの金髪の優男が立っていた。
「うげっ! あなたはナルシスじゃないですか。どうしてこんなところに……」
名前までナルシストなのかよ!
「可憐で、美しく! 細く、そして高い! 全人類の美貌を一身に煮詰めたようなこの僕を前にして「うげっ!」とは何事かね??」
「御託はいい。要件があるのならさっさと述べろ。なにもないというのなら失せろ」
「んもぅ冷たいね! ま、そこがキリエちゅわんらしくてカワイイんだけど」
「おい、なんなんだよお前は?」
「そういう君は? ちなみに僕はナルシスという者だ。ナルシス・バラローズ。以後お見知りおきを」
「俺はレイ。ただのレイだ。冒険者ギルドが込んでいたから、なにかいい感じのクエストがないかと探してたんだよ」
「ほほうっ! そういうことならとっておきの案件があるよ? なんたって僕はナルシス・バラローズだからね」
どういう理屈やねん。
「レイくん、この人に構うとロクなことになりません。さっさと立ち去りましょう」
「リリシア殿の言うとおりだ。この男はろくでなしだからな」
「ンもぅっ! 二人とも意地悪だねぇ。僕が手に入れた「薬草を配達するだけで日給十万ゴールド」の案件、欲しくないのかね??」
なっ……なにィーーーーッ!!
薬草を運ぶだけで日給十万ゴールドだと!?
「ナルシス……いや、ナルシス様。このレイ、ただいまよりナルシス様の下僕にございます。なんなりとお申し付けくださいませ!」
こりゃあ形振り構っていられねぇ!
日給十万……この案件、なにがなんでも手に入れてやる!
必要とあらば靴だって舐めるぞ!
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