第9話 スライムを溶かした!
リリシアは初級魔法ならそのほとんどを使えるらしい。
だったらスライムを倒すのは簡単……というか、いままで必死になっていた俺の姿はまさに道化でしかないワケなのだが。なのだが! こんチクショーめ!
しかしまぁ、いまここでソレを責めても仕方あるまいて。
そんなことよりもだ。
俺、ちょっとイイこと考えついちゃったぜ。
さっきリリシアは俺のことを「天才ですか?」なんて持ち上げてみせたけれど、アレはあながち間違いじゃなかったかもしれないなぁ~?
「リリシア、水魔法だ。水を出してくれ」
「え? 水ですか?」
「フム、水ときたか。その心は?」
本当なら炎属性の魔法でスライムにダメージを与えたかったんだけどな。でもリリシアは会得した魔法の熟練度を上げていないという。そんなポンコツに炎魔法を使わせたらどうなるか? 三つの火達磨が草原を転げまわるという俺の想像が現実になっちまうじゃねーか。
だったら水だ。
「スライムには水に溶けだす性質があるからな。水魔法なんかじゃ大したダメージは見込めないけど、拘束状態は解除できるはずだ」
「なるほどっ。そういうことならお任せください!」
リリシアは目を閉じて意識を集中させた。
そして深呼吸の後、詠唱を始めた。
「万物を生成せし母なる海よ。全存在に慈愛を齎せし命の根源よ――その力の奔流と祝福を以てして、悪しき魂を浄化せし給えっ! いきますよっ、我が必殺の究極魔法、『ファースト・ウォーター』ッ!!」
リリシアが詠唱を終えると上空に大量の水が現れた。そしてその水は蛇みたいに右往左往しながらこちらへと迫ってくる。どうやらうまく魔法を制御できていないらしい。とはいえこちらに向かってきているのは事実。であれば……。
「クククッ。リリシア、キリエ。俺の勝ちだ……ッ!」
俺は迫りくる水流を眼前に、高らかに勝利を宣言した。
たしかにスライムは水に溶けだす性質を持っている。しかし、それだけでは言葉足らずなのさ。
「溶けるのはスライムだけじゃねぇ。水に溶けだしたスライムが分泌する【スライム液】、それによって衣服だって溶けるんだよォォオオオッ!!」
さぁいまこそ拝ませてもらおうではないかっ!
その衣服の下で、仄かに輝く艶めかしくも柔らかな肢体を!
ザッパァーーン!!
「わっ、わわわっ!? ちょ、ちょっ! わああっ、ダメですこっち見ないでぇえええええええ~~っ!!???」
「くぅっ、なんと卑劣な!」
「フハハハハハッ、あーはっはっはっはっはっ! これぞまさに夢にまでみた理想郷そのもの! 至福ッ、幸福ッッ、超眼福ッッ!!」
#
「おーい汚物くぅーん、なに休んじゃってるんですか~。さっさとそこのゴブリンも倒しちゃってくださぁ~い」
「そうだぞ汚物殿ぉー。貴様に休む権利などあると思っているのかー?」
俺の名前はレイ・ハルグニア。
現在、二人の美少女になじられながら、頑張ってゴブリンたちを討伐している最中だ。しかもパンツ一丁でな。こんなことになったのは自業自得ではあるものの、後悔はしていない。
男にはやらねばならないときがある。
己の信念を貫き通すため、決して折れてはならないときがある。俺は自分の意思を貫き通した。そして折れることなく前に突き進み続けた。
その結果がいまだ。
だから、後悔はしていないのさ。
「オラオラーーーーッ!!」
『ゴバァッ!?』
「うおおおおおおおおおっ!!」
『ギャーーーーーーッ!!』
「どりゃああああああああああッ!!」
『グブハァーーッ!??』
「はぁ、はぁっ、はぁっ……うおぉぉおおおっ、ついに全部倒したぞぉおおおッ!!」
「よし。それじゃ帰りますか」
キリエが所持していた予備の黒マントに身を包みながら、リリシアが暗黒の瞳を向けてくる。キリエも「そうだな」と短く続き、二人はてくてくと歩いて行ってしまった。
俺は恐る恐る、二人に声をかけた。
「あのぉ~~、俺の分のマントは無いんですかね?」
「そんなものは無い!」
「そんなものはありませんっ!」
「ひぇっ! そっ、そんなに怒らないでくれよぉ~」
まっ、こんな具合で、俺の初めてのクエストは幕引きになったのさ。ちなみに話し合いの結果、報酬はリリシアとキリエが8割、俺が2割の配当ということになった。
俺としては特に反論はない。
だって、既にそれ以上の報酬を手に入れているのだから。
#
王都に戻ってくる頃には、既に陽は沈みかけていた。
途中からは俺一人で戦っていた……というより戦わされていたので、それを考慮するとなかなかにハイスピード攻略だと思う。
ゴブリン(ついでにスライム)討伐の際に生じた、主にリリシアを発端とするピンチの数々。それを切り抜けた俺は、冒険者として少しは成長できたと思う。というか思いたい。
まぁ、最初からリリシアを同行させなければあんなピンチに陥ることは無かったよな~とも思うんだけど、それを言い始めたらキリがないのでやめておく。
それに、二人がいなければ夢にまでみた理想郷を拝むことはできなかったワケだしな。
なにはともあれ、これにてクエストはクリア。
結果オーライだ!
「なんか、今日一日でドッと疲れちゃいましたよ」
「そうだな。どこかの汚物殿のせいでな。しかし、いつまでも恨み言は言っていられまい。まずは詰所で着替えてくるとしよう。黒マント二人、半裸一人というのはどうにも人目を引いてしまうからな」
「ですね。……ほらっ、ついてきてください汚物くん。汚物くんは詰所の場所しらないでしょう?」
「うん、ソーダネ。それはそうと、そろそろ普通に呼んでほしいんですケド……ダメ?」
「「ダメ!!」」
ですよねぇ~~。
仕方がない。
どうせ今日一日の付き合いだ。
こいつらと一緒にいるときくらいは、この不名誉な渾名を甘んじて受け入れるとしよう。
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