第5話 冒険者登録
「了解したわ。それじゃ、ここに名前を記載してくれるかしら」
そうして差し出されたのは、冒険者カードと呼ばれるカードの形状をしたマジックアイテム。知識としては知っているけれど、実物を見るのは初めてでちょっとワクワクする。
言われたとおりに名前を記入。
するとまっさらな冒険者カードに数字が浮かび上がってきた。
「これが俗にいうステータスってヤツか」
冒険者になったばかりの人間の平均レベルは5だと言われている。生まれたばかりの人間はレベル1だけど、普通に生活していれば、レベル5付近までは上がるということだな。
しかし、俺のレベルは既に8になっていた。
子供の頃からの修業は無駄じゃなかった。
それが証明されてホッとすると同時に、どこか気落ちしているのも本音だ。
「はぁ、やっぱりこんなもんか」
レベル以外のステータスは、一番高いのがHPで45。次いで攻撃力25、防御力14、魔法攻撃力10、魔法防御力10、MP10、素早さ9とあった。
レベルに見合った、いかにも凡人という感じの数値。攻撃力が少し高めなのは修行の成果が出ているということなのだろうが、それでも凡人の域を出るものではない。
これが本物の勇者だったなら、レベル以外の数値が最初から全部100を超えていた……なんてこともあり得たのかもな。
ステータス欄から外れた右下の項目にはスキルポイントと記載されていて、そこには60とあった。スキルポイントというのは特殊な技能や魔法などの会得に必要なポイントのことだ。他には、会得したスキルや魔法の熟練度レベル(最大で10)を上げるのにもスキルポイントは必要になってくるな。
スキルポイントの取得は簡単で、基本的にはモンスターを討伐すれば、敵の強さに見合っただけのスキルポイントが得られる。
それ以外にも、トレーニングで体力や筋肉をつけたり、特別なアイテムを服用することで手に入るが、こちらの方法は、俺みたいに特殊な理由がない限りはほとんど使われないな。特にアイテムでのスキルポイント獲得は体に負担が掛かるし、この国では違法行為に指定されている。
そもそもモンスターと戦っていれば体力も筋肉もつくし、レベルもスキルポイントも上がっていく。つまり、わざわざトレーニングをするってのは非効率的と考えられているわけだ。
「ステータスは個人情報だから、よほど信用のおける人以外には、なるべく見せないようにしてね?」
「はい、そこんとこは心得ているので大丈夫ですよ。冒険者カードを偽造でもされたら堪りませんからね」
「分かっているならいいわ。それじゃあ、お次は職業ね」
職業選び。
それは冒険者にとって一番大切なイベントだ。後々に転職するというのは可能ではあるが、その際には手数料が取られてしまう。
というのも、転職には冒険者カードの再発行が必要になってくる。
駆け出しの冒険者に無料で手渡されている冒険者カードだが、これが実はかなり貴重な代物で、その価値は値段にしてなんと五十万ゴールド。
なので転職するとなると手数料込みで六十万ゴールドが必要になるというわけ。……六十万、かなりの大金だ。職業選びに失敗した冒険者の行く末は暗い。
「ねぇねぇレイくん、レイくんはどの職業に就くんですか? ちなみに先輩冒険者の私としては、オススメは魔法使いですかね。やっぱりいいですよぉ、魔法は。肉体の限界を超え、数多くの自然現象を司り、炎や水や風をまるで手足を動かすかのように――」
「戦士でお願いします」
俺はリリシアの熱弁をぶった切り、受付のお姉さんにキッパリと告げた。戦士になるというのは、以前から決めていた。
魔王討伐に欠かせない攻撃スキル『ギガント・ブレイク』。
500ポイントを消費して習得できるこのスキルは、戦士の職業でしか覚えられないからな。
「えぇーーーっ!?? 戦士なんてつまらないですよぅ。いまからでも考え直しましょ、ね? 魔法使い、絶対に魔法使いのほうがいいですって!」
「あのなぁリリシア。職業ってのは面白いつまらないで決めるものじゃないだろ? それに、お前みたいなポンコツ魔女っ娘に勧められると逆に避けたくなるってのが人情だと思うぜ? 少なくとも俺はポンコツの仲間だとは思われたくない」
「ポンコツ言わないでください、私だって頑張ってるんですから!」
「頑張った結果がアレか。それならなおさら悲惨じゃねーか」
「まだまだ発展途上なんですよ!」
「はいはい、そういうことにしておいてあげますよ」
受付のお姉さんは、そんな俺たちのやり取りを苦笑しながら見守っていた。
「では、冒険者レイくんに戦士の祝福を授けます」
俺たちが落ち着くと、受付のお姉さんは俺に向けて右手を差し出して詠唱を開始した。すると全身が淡い緑色の光に包まれて――。
「戦神・アレスよ。かの者に祝福を与え給えっ!」
こうして俺は、晴れて冒険者になった!
「これで冒険者登録の手続きは終了よ……次はパーティメンバーの募集ね。どの職業の冒険者がいいとか、そういう希望はあるかしら」
「実は、魔王討伐のためのパーティを組みたいと思っているんです。俺は前線で戦えますから、タンクとヒーラー、それから後方支援役として魔法使いの仲間が欲しいですね」
「あらまぁ、魔王討伐ねぇ。っていうことはレイくん、勇者なの?」
「えっ、そうなんですか? レイくん勇者なんですか?」
俺は首を振った。
だってここで頷いたら「勇者誕生を隠している勇者」っていう設定が破綻してしまうからな。
だから俺は至極まっとうな答えを返した。
「フフッ。勇者でなければ魔王を倒してはならない。そんなルール、どこにもないですよね?(キリッ)」
キマったぜ。
こりゃ間違いなく二人とも堕ちたろ。
確信を抱きつつ薄目を開く。
冷え切った眼光が四つ。
「そんな目で見ないでヨ」
我ながら情けない声だった。
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