第6話 初めてのクエスト受注
受付のお姉さんの紹介で、数人の冒険者と話をした。そしてその全員が俺とリリシアの姿を見るなり「ガキと話すこたァねーよ」と鼻で笑うのだった。
「はんっ、帰ぇれ帰ぇれ。冒険者ってのはお遊びじゃねーェんだ。テメーらみたいな青臭ぇガキんちょに務まるかよ」
十人目に鼻で笑われたとき、俺のなかでなにかが切れた。
そしてそれはリリシアも同じだったらしい。
「なぁリリシア。流石にイラついてきた頃合いなんじゃないか?」
「ふふふ、奇遇ですねレイくん。私も同じこと思ってたんですよ」
「おかしいよなぁ、若いってだけでバカにされるなんてよォ」
「えぇ、おかしい話です。理不尽でしかありません」
「リリシア!」
「レイくん!」
「こうなったら俺たちでクエストクリアしよーぜっ!!」
「こうなったら私たちでクエストクリアしましょう!!」
この瞬間、たしかにリリシアと心が通じ合うのを感じた。俺とリリシアは固く握手を交わし、強く頷きあった。
「若くても戦えるってコト、証明してやろうぜ相棒!」
#
「クエスト受注には最低でも三人のメンバーが必要なのよ~。本当は四人のパーティが理想とされているんだけど、最低ラインは三人ね。二人だけでクエスト受注っていうのはできない決まりになってるの。ごめんね?」
「そんな。ウソ……だろ…………??」
絶望に打ちひしがれる俺とリリシア。
さらには周囲の嘲笑。
俺の心はもう限界に達しようとしていた。
「うぅ、リリシアぁ。悔しいよ。ガキってだけでこんな扱いされて、嘲笑われてさ。俺、悔しいよッ!!」
「うぐっ、ひぐっ。私もです。レイくん、私、悔しいですっ!!」
俺たちは周囲の嘲笑に曝されながら、膝を突いて絶望するしかできないでいた。
救世主様が姿を現したのは、そんなときだった。今度の救世主様は、パンの入ったマルシェ袋を大切そうに抱えていた。
「なにやら騒がしいと思ったら、リリシア殿にレイ殿ではないか。一体全体どうしたというのだ?」
「はっ! この声は中二剣士!?」
「中二じゃないもんっ!」
キリエは憤慨した。
中二って言われるのコンプレックスなんだねぇ。
「して? こんなところでオイオイとみっともなく咽び泣いてどうしたというのだ?」
「うう、聞いてくださいよキリエちゃん! かくかくしかじかってことがあったんですよう~~」
「なるほど、そのようなことがあったのか」
なんでかくかくしかじかで伝わるねん、エスパーか。
つーかリリシアは俺よりも先輩の冒険者なんだよな? なのになんでクエスト受注に必要な最低人数を把握してないんだよ! ちくしょう、ツッコミどころが多すぎるぜコイツら。
「ていうか、キリエこそどうしてここに?」
「特に深い理由は無いぞ? ただパンを買った帰りに情けない泣き声が聞こえてきたものでな。それで気になって様子を見に来たまでよ」
傷口を抉るんじゃない!
しかしこれは実にナイスなタイミングだぜ。
キリエ、こいつはなかなかに持ってるな。
「なぁキリエ。頼みがあるんだが」
「みなまで言うな。要するにクエストを受注したいという話だろう? 諸事情により剣を振るうことは叶わぬ身ではあるが、人数合わせとして同行するのは
「本当ですか!? ううう、キリエちゃん、あなたは命の恩人ですぅ」
命の恩人ではないが。
「助かるよキリエ。お前のおかげで、先に生まれたってだけでイキり散らかしてる烏合どもの鼻を明かしてやれそうだ」
「では、この【野良ゴブリン討伐】クエストを発注するわ。ゴブリンはFランクのモンスターだからそんなに強くはないけれど、決して油断はしないようにね。危ないって思ったらすぐに逃げること、いいわね?」
―――――クエスト受注表―――――
難易度:F
エリア:ゴブリン山脈
参加メンバー:三名
レイ(戦士)
リリシア・ロンド(魔法使い)
キリエ・グレイザレイ(剣士)
クリア報酬
:ゴブリン一体につき三十ゴールド。
:ゴブリン(ユニーク)一体につき五十ゴールド。
:ゴブリン(ボス)一体につき七十ゴールド。
――――――――――――――――
ってワケで俺たちはゴブリン山脈にやってきた!
「おー、スゲー! マジであちこちにゴブリンいるじゃん!」
王都を出て南西方向に約五キロ。
休憩込みで片道一時間の旅である。
ちなみに、ここまで勢いでやってきた俺たちに飯などというものはなく……。休憩中、キリエはやれやれと毒突きつつも、慈悲の心でパンを恵んでくれた。
本来はベルクお守り隊の昼食だったのだが、キリエ曰く「詰所に立ち寄る暇すら与えられなかったからな」とのこと。――今後は勢い任せの行動は控えよう……なるべく。
山脈地帯に踏み入ると、切り立った崖にいくつもの窪みが見えた。俺の知識が正しければ、あの窪みはゴブリンの巣穴だ。
なかなかに数が多いが、そのうちのいくつかはフェイクだという。ゴブリンは賢いモンスターだ。緊急事態のために偽の巣穴も用意してあるってことだな。
ゴブリンの数は目算で十匹以上。
ユニーク種(こん棒じゃなくて剣を持ったヤツ)の姿は見当たらない。
「ボスゴブリンの姿も見当たらぬな」
「ま、ボスもユニーク種もレアですからねぇ~。そぉ簡単には出てきませんって」
「そんじゃまっ、いっちょゴブリン狩りと行きますか! お前ら、遅れ取んじゃねーぞ!」
「言われるまでもありません!」
「いや、我はただの人数合わせだからな??」
かくして、俺の人生初クエストが幕を開けたワケなのだが。
このときの俺には知る由もなかった。
まさかコイツらが――ベルクお守り隊が、俺にとってかけがえのない大切な仲間になるだなんて。
まさかこの俺がコイツらのために命を賭けて戦う日が来るだなんて、このときの俺には想像もできないことだったんだ。
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