第4話 冒険者ギルド
「へえ~。さっきまでと違って随分と可愛らしいじゃないか」
「失礼な、コンペーちゃんはいつだって可愛いですよ! それにしても謎ですねぇ。こんなに小さくなるってことは相当なエネルギーを消耗したってことなんですけど……。大声での攻撃も人を乗せての飛行も、コンペーちゃんにとっては朝飯前なのに」
するとコンペーちゃんはなにかを訴えかけるように愛らしい声を発した。
「きゅるんっ、きゅるるん!」
「え、なになに? レイくんの武器が重たくて疲れた?」
えっ。
俺のせい?
てゆーかなんで「きゅるるん」で伝わるの?
「別にそんな重くないけどなぁ。まっ、台座のせいで持ちづらさと動きにくさはあるけど。ほらっ、ちょっと持ってみろよ」
俺はリリシアに勇者のハンマーを渡した。
すると勇者のハンマーを受け取ったリリシアは、次の瞬間にはビターーーンと地面に張り付いていた。まるで重力魔法でも受けたみたいに。
「おっっもぉーーーーー!?!?? なななっ、なんですかこのやたらに重たい武器は!? そりゃコンペーちゃんも疲れますよ!」
「大袈裟だなぁ。まっ、俺は子供の頃から寝る間も惜しんで剣を振ってきたワケだし? ちょっとやそっと重いってくらいじゃ問題ないってことだな。てゆーか、コンペーちゃんですら重たく感じる武器を軽々と持ち上げてる俺って実はスゴイのでわっ!?」
「そんなワケないでしょう……。最近はお肉たべさせられてないし、体力が落ちちゃってるのかもしれませんねぇ」
肉は値が張るからなぁ。
ケチってしまう気持ちはよく分かるよ。
「コンペーちゃん、今度お肉たべさせてあげますからね~」
そう言ってリリシアはコンペーちゃんを異空間に収納した。収納の際、コンペーちゃんはピョコピョコと小さな手を振っていた。
かぁいいねぇ〜。
アレがデフォルトならペットにでもしたいんだけどなぁ。
#
ハゲ頭を憲兵に引き渡した後、俺とリリシアは宿を目指して歩いていた。
ハゲ頭は憲兵に引き摺られながら「俺を倒したところで無駄だ。人の心に闇ある限り、俺は何度でも蘇る」みたいなラスボスめいたことを喚き散らしていた。
キリエとあのハゲ頭は似た者同士かもしれないな。
しばらく大通りを歩き続けていると。
リリシアは一軒の建造物のなかに俺を案内した。
「ここが私の――というより、私のお父さんとお母さんが経営している宿です。どおです? なかなかに見栄えがよろしいでしょう?」
たしかに見た目は奇麗だ。
それにかなりデカい。
いい宿屋……なのは間違いない。
けれどなんだろう。
素直に褒めると負けな気がする。
ンだよそのニタニタ顔は。
おいやめろ。
脇腹をツンツンするな。
くすぐったいだろ。
おい。
そしてそのニヤケ面をやめろ!
「くそっ、認めるよ。結構……いや、かなりいい宿屋だと思う」
俺の言葉に、リリシアはパァ~っと笑顔を咲かせた。
「でしょでしょぉ~? ンフフ、レイくんならそぉ言ってくれると思ってましたよ~!」
なんだろうかこの言い知れぬ敗北感は。
まあいい。
今回だけは勝ち(?)を譲ってやろう。
俺は心が広いからな。
「それで、いくらで泊めてくれるんだ?」
俺が聞いたタイミングで、カウンターの奥から一人のオッサンが顔を覗かせた。
「ぬぁにいッ!? おいおいおい、マジかよ! ウチの娘が男を連れてくるだなんて……。まさか彼氏? 彼氏なのか!?」
途端、リリシアの顔がボフンッ! と赤面した。
「ななななな、なにを言いますか!! この人はただの恩人ですっ、断じて彼氏なんかじゃありません! 顔だって好みじゃないし、雰囲気も芋くさいし、武器もヘンテコだしっ!!」
おいおい。
なぜ俺が傷つけられなくてはならないのかね?
こー見えて俺ってけっこう繊細なんだぜ~??
そんな言われたら泣いちゃうかもよ?
「ははは、そんな必死にならなくたっていいじゃないか。タダの冗談だよ、冗談」
「冗談でも言っていいことと悪いことがあるんですよ! ちなみにこの方は泥棒逮捕のお手伝いをしてくれた旅人さんで、レイくんといいます」
「そうかそうか。ありがとうな、レイくん。俺の名前はルドルフ。見てのとおりこの宿屋のオーナーだ。ま、ゆっくりしていってくれや。恩人ってこともあるし、本来なら一泊千ゴールドなんだが、特別に五百ゴールドに負けておいてやるよ」
「マジすか、超助かります! あざすっ!!」
一般的な宿屋の相場は一泊で千ゴールドだ。
半額にまで負けてくれるだなんて最高すぎるぜ。
いやー、やっぱり人助けってのはするもんだねぇ。ま、俺がやったことと言えば勇者のハンマーを地面に叩きつけただけなんだけど。
宿泊先を格安で手に入れた俺は次の目的地を冒険者ギルドに定めた。
パーティメンバーを集うにせよクエストを受注するにせよ、ギルドに行かなければなにも始まらないからな。
「では私が案内して差し上げましょう! こうして出会ったのも、きっと何かの縁ですからね」
リリシアは意気揚々と案内を名乗り出た。
でもぶっちゃけ、案内なんて必要ないんだよな。
「冒険者ギルドって一番大きい建物だろ? 案内なんて不要なのだが?」
「ふっふっふ、たしかにレイくんの言うとおり、冒険者ギルドを見つけること自体は容易いでしょう。しかしこの街には悪い人間がうじゃうじゃしてますからねぇ。さっきのハゲ頭もその一人です。レイくんみたいな見るからに田舎者って感じの人は狙われること間違いなしですよぉ?」
「さっきから地味に失礼だな!」
でもまぁ、リリシアの言うことも一理あるかもしれん。
それにかわいい女の子と一緒に居られるってのはそれだけでプラスだしな。しゃーない。ここはお言葉に甘えて、案内されてあげようじゃないか。
というわけで俺たちは冒険者ギルドへとやってきた!
ちなみにここに来るまでの道中、たしかにガラの悪そうなスキンヘッド集団の刺すような視線を感じることはあった。
リリシア曰く「私が居なければ身包み剥がされてましたよ」とのことだが、流石にそこまで治安悪くないだろ。
冒険者ギルドは朝だというのにかなりの賑わいを見せていた。等間隔に並んだ木製テーブルの上にはこんがりと焼かれた美味そうな肉や、樽ジョッキが配置されていて、既に出来上がっている冒険者が数人見受けられた。
うーん、実に楽しそうだねぇ。
俺たちはテーブル席を素通りし、受付カウンターのほうに真っすぐ進んでいった。
列の数は三つ。想像していた感じとは違い、それほど長くはない。たまたま空いている時間帯だったのかもしれない。俺とリリシアは一番短い列を選んで、最後尾についた。
前に並ぶ冒険者たちが順に捌けていき、すぐに俺たちの番がきた。
カウンターには分厚い書物や紫色の水晶玉、他には羽根ペンなどが配置されており、その奥で、丸眼鏡を掛けた、利発そうな黒髪のお姉さんがこちらに微笑みを向けていた。
「あら~、リリシアちゃん。男の子を連れてくるだなんて珍しいわねぇ。見たことない顔だけど、もしかして彼氏クン?」
受付嬢の言葉に、リリシアまたもや赤面。
正直言ってこの反応はウブでかわいい。
俺は必死に経緯を説明するリリシアに割って入り、単刀直入に目的を告げた。
「今日は冒険者登録をしに来たんですよ。登録が終わったら、パーティメンバーの募集もお願いします!」
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