第2話 ポンコツ魔女っ娘との出会い

 あえて勇者の剣を引き抜かなかったという話は、意外にも疑われることはなかった。それだけハルグニアの名前は偉大ってことだな。もしくは村人全員がバカか。ちなみに俺は両方だと疑っている。


 そして翌朝。

 俺は村のみんなに見送られる形で魔王討伐の旅に出発したのだった。


 その際の父さんと母さんだが、それはもう大騒ぎだった。

 母さんは、


「行かないでっ、私の可愛いレイちゃぁあああああああんんっ!!」


 とか叫び出すし、父さんに至っては、


「チクショーッ!! 俺が勇者の剣を抜けていればレイちゃんを危険な旅に出さずに済んだのにィイ~~ッ!!」


 などとのたまうのだった。

 

 最初はちょっとウルっと来たけど、あまりにもやかましいから振り切る形になっちゃったよ。

 あの二人、意外と親バカだったんだな〜。


#


 まずは王都を目指さなくてはならない。

 王都に辿り着きさえすれば衣食住はなんとかなる。


 村からの選別で、ある程度のゴールドもあるし、一ヶ月は安泰だ。

 その間にクエストを受注して、実戦を積みながら金を集める。

 当分はその生活を続けることになるだろう。


 そしてなにより、王都には巨大なギルドがある。

 ギルドでは冒険者登録をしたりパーティメンバーを募集したり飯を食ったり酒を飲んだり宿泊場所を借りたりと、いろいろなことができる。


 だからこそ王都は多くの冒険者の活動拠点として据えられているってわけだな。

 ちなみに俺の生まれ故郷――トット村から王都までは馬車で三十分くらい。林道を抜ければすぐに着くのでそれほど離れてはいない。


 というわけで俺は、台座付きの勇者の剣をズルズルと引き摺りながら歩き続けた。


 腰や背中に巻き付けてもいいのだが、台座がどうにも邪魔くさくてなぁ。いろいろと試行錯誤した結果、引き摺って歩くのが一番楽な移動方法だという結論に至った。


 やがて林道に差し掛かり、迷子にならないように川沿いを進んでいった。


 それにしても長閑だなぁ。

 天気も良いし、最高の散歩日和じゃないか。

 この辺に出現するモンスターは雑魚ばっかだし、少しペース落としてもいいかもな。


 そう思ったのも束の間。

 俺は前方百メートルくらいの位置に、鬼の形相で迫りくる一人の男の姿を見た。


退けぇええええええッ!! ぶっ殺すぞおおおおおおおおおお!!」


 男はスキンヘッド頭に大量の汗を流しながら肩を怒らせていた。そしてその後方数メートル地点には、俺と同い年くらいの、赤いウルフヘアの魔女っ娘の姿があった。魔女っ娘は樫の箒で飛行しながらスキンヘッドの男を追っていた。

 これまた鬼の形相だが、可愛らしい見た目のせいで覇気は半減ってところだ。


「そこの人ぉおおおおおお!! そのハゲを捕まえてくださあああああああああいい!! 泥棒でぇえええええええええええええええすっ!!!!!」


 ど、泥棒っ!?

 

 スキンヘッド、入れ墨、サーベル、そして先ほどのぶっ殺すぞ発言。う~ん、たしかにこれは怪しい。見るからに悪者って感じだ。


「丁度良い。ここらでいっちょ、コイツの力を見せてもらうとしようか」


 俺は勇者の剣を強く握りしめ、全力で地面に叩き付けた。


 勇者の剣を台座もろとも貰ってきたのはこれが理由だ。

 要するに、勇者の剣を剣として扱えないのであれば、台座部分でブン殴ってしまえばいいのだ。


 差し詰め、勇者のハンマーといったところかな。ということで見せてもらおうか。勇者の鉄槌の一撃をッ!!


「おりゃあああああああああッ!!」


 バッゴォーーンッ!!


 勇者のハンマーの威力は絶大だった。

 大地は穿たれ、隆起し、岩の剣でも生えてきたのかと思わせる有り様だ。

 さらには砂塵や瓦礫の類が凄まじい勢いで宙を舞いあがっていき……。

 

 目眩ましにでもなればと思っての一撃だったけど、こりゃ気を付けねーと人殺しになっちまうな。


 それにしてもあの男、タダ者じゃない。

 とんでもない跳躍力で瓦礫を避けやがった。

 俺の目眩ましが完全に読まれていた。


「ヒャハッ、雑魚が! 殺気の感じられねー攻撃なんざ怖くもなんとも――」

「そこの旅人、よくやってくれました! おかげで私の魔法の射程範囲内です。……もう逃がしませんよ、ハゲ頭。我が必殺の究極魔法で葬って差し上げます。くらえっ、『エンドレス・ヴェル・フェルマータ』ッ!!」


 魔女っ娘の詠唱と同時に周囲一帯が明滅する。

 赤、緑、青、白……。

 あまりにも強力な光だ。

 てゆーかこれ、俺も魔法の範囲に入ってない?

 だいじょーぶか?

 心配になってきたわ……。


 やがて光が収まると――。

 魔女っ娘とハゲが睨めっこしている光景が飛び込んできた。互いに互いを睨みつけたまま一歩も動こうとしない。


 え? なにこれ。

 どうゆう状況??


「これが私の魔法【絶止の極光】――『エンドレス・ヴェル・フェルマータ』です」


 語呂は格好良いけど意味が分からん。


「……てめぇ、なにしやがった。ちくしょう、体が動かねぇ!」

「当然です。【絶止の極光】は効果対象の身動きを封じる魔法なのですから。しかし弱点もあります。それは、この魔法の効果対象に私自身も含まれてしまう、という点です」


 それ、わざわざ言わなくても良くない?


「ってことはつまり、お前も動けなくなるってことか?」


 魔女っ娘は舌を出してテヘッと笑った。


「そーゆーことです」

「とんだポンコツ魔法じゃねーーかっ!! んだよ【絶止の極光】――『エンドレス・ヴェル・フェルマータ』って! 名前だけ格好良くても意味ねーだろ!!」

「ポンコツぅ!? あなた失礼な人ですね。私がこの魔法を会得するためにどれだけ修行したか分かってて言っているんですか!? それに、私は黒魔法使いではなく白魔法使い……つまりはサポート特化型なんですよ? たしかに攻撃は得意じゃないですが、それだけでポンコツ扱いされるいわれはありませんね!」

「いやいや、どう考えてもポンコツやんけ! 俺が居なかったらどうやってそこのハゲ頭倒すつもりなんだよ!」


 すると魔女っ娘は待ってましたと言わんばかりに、フフンッと鼻を鳴らした。


「私には使役モンスターがいますからね。私の魔法で敵の動きを止める。そして使役モンスターを召喚して倒す。それが私の完全無欠の作戦なのですっ!!」


 ほほう、使役モンスターと来たか。

 モンスターを使役するのはそう簡単じゃないはずだが。


「お手並み拝見だな」

「ええ、そこで指くわえて見てるが良いですよ」


 ぐぬぬ、なんて生意気な奴なんだ!

 でも使役モンスターは見てみたいしな。

 仕方がないからここは黙っててやろう。


「出でよ、我が必殺の究極モンスター・コンペーちゃんっ!!」


 コンペーちゃん?

 ぷぷっ、弱そうな名前だな(笑)。

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