勇者の剣が抜けなかった俺が出会ったのはポンコツ魔女っ娘、中二剣士、爆発ヒーラーでした。全員美少女だけどクセが強すぎるんだが??

藤村

第1章 ポンコツ魔女と中二剣士

第1話 勇者の儀式

「これより【抜剣ばっけん】を始める! 勇者候補は一列に並びなさいっ!!」


 司教様の指示で、俺たちは身廊に並んだ。

 俺の前に並ぶのは九人の男女。

 そのほとんどが顔見知りだ。

 そしてその顔のなかに、緊張した面持ちは一つも無い。

 ……それも当然だ。

 だってコイツらは俺とは違うからな。


 この村では十五歳になると【抜剣の儀】というものが執り行われる。だが、この儀式はほとんどの村人にとっては形式上のもの。


 教会最奥部にはオリハルコンの台座が鎮座していて、そこに突き立てられているのが【勇者の剣】。


 ただの村人が抜けるわけがない。

 だから普通、この儀式を見に来る人間なんてのはいない。


 でも今日は違う。

 今日は村人の大半がこの儀式に注目している。

 なぜなら……。

 この俺が、勇者の末裔だからだ!

 だから村のみんながこの俺に羨望の眼差しを向けているというわけだな。


 まったく人気者は困るぜ。

 当然と言えば当然だけどな。


 いやーしかし実に良い気分だ。

 勇者の剣を引き抜いた暁には大歓声間違い無しでしょ!


 ぐふふふ、勇者ってサイコー!!


#


「やはりこの九人の中に勇者は居なかったか。残るはレイ・ハルグニア、お前だけだ。私はお前が真の勇者だと信じておる。さぁ、いまこそ勇者誕生の瞬間を拝ませてくれ」

「お任せください、司教様。このレイ・ハルグニア。きたる魔王復活の日に備え修行を怠ったことは一日たりともありません。……勇者の剣も、この私こそが勇者であると認めてくれるでしょう」

「期待しているぞ」


 かくして俺は勇者の剣を握った。

 そしてゆっくりと引き抜こうとした、そのときだった……。


 ガッッ!!!!!


「…………」

「……どうした? レイ・ハルグニア」

「いえ、なんでもありません。ただ、少々感極まってしまいまして。いよいよ私が勇者になるのだなと」

「ふふっ、そうだな」


 俺は気を取り直し、再び勇者の剣を握りしめた。

 そして今度は、さっきよりやや強めに引いた。




 …………かっっっってぇえ~~~~~~!!

 勇者の剣、かってぇ~~~!!

 え? なにこれ。

 ガッチガチやないかい。

 あっ、ひょっとして錆びてる感じ?

 錆びちゃってる感じ?

 それなら仕方ないね。

 錆びちゃってたらそりゃ抜けないよ~。

 一応、念のために刀身が錆びてないか確認しておくね?

 どれどれ~??


 いや、ピッカピカやん。

 傷一つないやん。

 なにこれすごい。

 まるで鏡みたい。

 うわあ、きれいだなぁ~~。


 って、感心してる場合じゃねえ!

 まずいまずいまずい、この状況はどう考えてもヤバい!


 えっ、どゆこと?

 もしかして俺、勇者じゃなかったの?

 でも俺、ハルグニアの名前ついてるんですケド!?


 まさか、この数十年の間に勇者の血が薄まっちゃったとか、そんな感じ?


 いや待て、狼狽えるな。

 混乱はなによりもの敵だ。

 パニックに陥った者に生存の道はない。

 

「…………はっ!」


 なるほど、そういうことか!!

 勇者の剣。

 その名を聞けば、誰もが【引き抜く】というイメージを抱いてしまう。

 だが本当は、勇者の剣は【押す】ことによって手に入る代物なのではないか?


 つまり、引いてダメなら押してみろ作戦!!


「うおおおおおおおおおっ!!」


 俺は渾身の力で勇者の剣を押してみた。

 けれども、勇者の剣はうんともすんとも言わなかった。


「おい、どうした。まさか貴様、勇者の剣が抜けないのか!?」


 司教様の驚きは瞬く間に周囲の村人に伝播していった。


 ヤバい!

 これは絶体絶命だ!

 

 くそ、こんなところで格好悪い姿を見られてたまるか!

 それに、もし勇者の剣を抜けなかったら俺のこれまでの努力はどうなる?


 たしかに俺は背が低いし小柄だ。

 筋肉だって付きにくい。

 みんなが思い描く勇者の姿とはちょっぴり違うかもしれない。


 それでも俺は死ぬ気で努力してきたんだ!

 他の奴らがヘラヘラ遊んでいるとき、必死の思いで剣を振ってきた。苦手な勉強だって頑張ってきた!


 だからこの俺が勇者の剣を抜けないなんてことはあり得ない。

 そんなことはあってはならない。

 

 俺は勇者の末裔、レイ・ハルグニアなんだ!

 誰がなんと言おうと、俺は勇者なんだぁぁああああああっ!!


 ガッッ!!!!!


「…………。スゥーーー。司教様、なにか勘違いをしておられるようですね?」

「なに? 勘違いだと?」

「えぇ。……勇者の剣を手にしたとき、ふと思ったんですよ。この剣を引き抜くということは、つまり勇者の誕生を意味する」

「それがどうしたのかね?」

「勇者が誕生したとなれば、その情報は瞬く間に拡散してゆくでしょう。そしていずれは魔物たちの耳にも入る。私が魔物の立場だったら、勇者が成長する前に殺してしまおうと、そう考えるでしょうね」

「ふむ、それで?」

「ですから私は、あえて・・・勇者の剣を引き抜かない、という選択をしようと思います。……この剣を握った瞬間、すぐに確信しました。私ならこの剣を引き抜けるなと。しかし本当にそれで良いのでしょうか? わざわざ敵である魔物に勇者誕生の情報を流すメリットは無いのでは? 逆に考えると分かりやすいでしょう。自分は復活したのに勇者は不在らしい。そんな状況になれば、いくら魔王といえど油断が生じるとは思いませんか?」


 いやあ、自分でも驚いたわ。

 なんだこの言い訳。

 よくもまぁツラツラとそれっぽい言葉が出てきたもんだ。

 俺って意外と口が回るタイプだったんだなぁ。


「なるほど。たしかにお前の言い分は一理あるな」


 一理ないけどね。


「しかし勇者の剣を引き抜かないとなると、武器はどうするつもりだ?」

「それなら心配には及びません。たとえ引き抜かずとも勇者の剣は勇者の剣ですから。というワケですのでコレは有難くもらっていきますよ。台座ごと、ね」

「ふむ。よく分からんが、まぁいいだろう。では勇者レイよ、お前にその剣を託したぞ!・・・・・

「は……ッ!!」


 ……クッ、クク、ァアーハッハッハッ!!

 これで勇者の剣は俺のものだぁぁあああああッ!!


 この先もし本物の勇者が現れようと、それを証明するための剣は俺の手中にある。つまり俺がニセモノだと暴くことは不可能!


 そもそもだ。

 勇者とはなにを以てして勇者なんだ?


 剣を抜ければ勇者なのか?

 抜けなかったら勇者じゃないのか?


 ンなもん関係ないね。

 答えはいつだってシンプルだ。

 勇者の剣を抜こうが抜くまいが、魔王を討伐したヤツこそが真の勇者なのさ……!

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