第179話 閑話休題 みんなのオススメのマンガを聞く
映画鑑賞会の翌日は雨だった。雫は久しぶりに家に留まることにした。さくらへのメインプレゼントも決めたので心の余裕があったからというのもある。メインプレゼントは自転車用品にして、ズボンの裾止めにした。反射材がついているので夜の散歩の時にも重宝するはずだ。実は、ゆうきと悠紀にも用意した。なお、美月は腕に巻くLEDライトにした。これらのアイテムは、もう暗い朝のランの時間を少しでもさくらに安全に走って欲しいと思うからだ。
うん。よかったなと思っていると美月から連絡が来た。
〔今度、『あさきゆめみし』返してね〕
〔あぶない、あぶない、借りパクになりそうだった。半年以上借りてたね〕
〔別にいいんだけど、たまに読みたくなるから〕
〔みーちゃんのお気に入りのマンガなんだ?〕
〔もちろんそうだけど、1番は違うなあ〕
〔そうなんだ。じゃあなんなの?〕
〔『カードキャプターさくら』!〕
〔アニメは見たことあるなあ〕
〔マンガも面白いよ〕
〔みーちゃんの口調は知世ちゃんの影響だな〕
〔今頃お気づきになりましたか〕
なるほど。ちょっと他の人のオススメマンガを聞きたくなってきた雫だった。
繋がっている皆に唐突だが質問を投げてみる。
最初に返事があったのは意外にも羽海だった。
〔『スラムダンク』!〕
〔羽海ちゃんの世代じゃないから映画からか〕
〔正解~~ 『ハイキュー!!』 も好きだよ〕
〔ウチもアニメは見たよ〕
スポーツ好きの羽海らしい作品だった。次はさくらから来た。
〔好きって訳じゃないけど、やっぱり目が離せないのが『瞬きより迅く!!』っていう空手少女のマンガ。すっごくシンパシーなんだ〕
〔フルコンタクトなんだけどね〕
フルコンタクトというのが防具をつけて試合する形式のルールというのは雫も知っている。やっぱり好きなものに関連して興味を持つのは当然のことだと思う。
続々と返事が返ってくる。みんな暇しているらしい。
今度はつむぎだ。
〔最近は『2・5次元の誘惑』〕
〔エッチなコスプレマンガだ!〕
〔最近は軌道修正してあんまりエッチじゃない。しかもしっかりジャンプマンガしているのでオススメ〕
〔へえ。今度、読んでみようかな〕
〔るりりんからも回答がきたよ。『はいからさんがとおる』だって〕
〔知らんな〕
〔お母さんが持っていたらしい〕
るりりんのお母さんもマンガ好きなのだろうか。
ゆうきからも来た。
〔『宝石の国』!〕
〔知らん。解説よろしく〕
〔人類が滅んだ地球で、人類の魂を引き継ぐ3つの種族が――っていう始まりだけど、基本的には弱いキャラがどんどんむしばまれていく物語。長いよ〕
〔ゆうきちゃん、そんなの好きなんだ?〕
〔無料開放で一気読みしてはまった〕
〔なるほど~~〕
そして悠紀からも来た。
〔『イザック』。戦国時代が終わってすごい火縄銃を持って、戦乱のヨーロッパに渡る傭兵の狙撃手の話〕
〔歴史好きの悠紀くんらしいな。それはなんか静流と話が合いそう〕
〔とてもすごいし、ロマンがあるので静流さんにも読んで欲しい!!〕
〔伝えておこう〕
だいたい回答が揃ったところで、リビングにいる静流と澪に声を掛ける。
「みんなに好きなマンガを聞いてみたら意外とばらついて面白かった」
「ほうほう」
澪が乗り出してきて、雫は2人に話をした。
「私は好きなマンガっていうか、アニメだな『元気爆発ガンバルガー』」
「あ、元気爆発って、お母さんが流してた歌だったのか」
「私が雫より小さいときにやっていたアニメなんだけど、大好きだったらしくて、親がビデオに撮ってくれてて何度も何度も見たんだ。元気が出た。すっごい面白い」
交通事故で亡くなった祖父母の話はほとんど聞くことがないから、雫は貴重な話を聞けたと思う。
「どんな話?」
「宇宙人から合体変形ロボットに乗るヒーローになる力を貰うんだけど、正体がばれると犬になるから、クラスメイトにバレないようにギリギリで戦う話。あと悪の幹部と羽海みたいな担任の先生のラブロマンスもある」
「なんだそりゃ」
「それは今度、鑑賞会をしたいですねえ。サンライズチャンネルかな~~」
静流も乗り気になったが、アニメの話はまた今度、アンケートを採ろうと思う。雫は軌道修正する。
「静流が好きなマンガは?」
「今なら、『卑弥呼』かな。学説も新しい上に、古事記のエピソードになったんだろうなっていう事件を織り交ぜつつ、魏志倭人伝をやるというとっても……」
「すとーっぷ。そこまで、そこまで。あとは悠紀くんと話してくれ」
制止しないといつまでも話し続けそうな勢いだった。
「悠紀くんにも好きなマンガを聞いた?」
「うん。『イザック』だって言ってた」
「分かるわー」
静流は知っているらしい。
「面白いなあ。大人の方にも聞いてみるか」
静流も同じように流すと返信が続々ときた。
3人で静流のスマホを見る。桃華ちゃんのお父さんからはこうきた。
〔『暗殺教室』か『鬼滅の刃』か迷う。どっちも完璧!〕
〔意外と普通ですね〕
〔何を言っているんだい。この2作はすごい完成度だよ。ケチの付けようがない!〕
〔それは分かります。『逃げ上手の若君』も凄く面白いですもんね〕
〔あの作者は天才だ〕
桃華ちゃんのお父さんは相当入れ込んでいるようだ。
〔ちなみに桃華は普通に『ちびまる子ちゃん』が好き〕
〔ヒデキ感激とか、桃華ちゃんに70年代ネタが通じそうだ……〕
榊からも来た。
〔『ゴールデンカムイ』です〕
〔これまたケチの付けようがない大作を持ってきたな〕
〔土方さん、格好いいです。静流さんたちが歴史に興味を持ってるのも理解します。アイヌ理解にもいいらしいじゃないですか〕
〔ありがとう!〕
「空手センパイは意外と歴史系だったな。ギャグマンガかと思った」
「それは先入観というものだよ」
美月パパからも来た。
〔マンガ読まないなあ。でも昔は読んでた。『うしおととら』が大好きだったよ〕
〔超、王道少年マンガじゃないですか〕
〔読んだことある?〕
〔ちょっとだけ。TRPGの元ネタに〕
〔涙なしには読めないよね~~〕
〔ええ。泣けますよね〕
「静流。読んでみたいぞ、それ」
「館山にあったけど、読んでなかったのかあ。持っているの途中までだしね」
「『うしおととら』はお母さんも好きだったよ」
「そうなんだー」
澪も意外とマンガを読んでいたらしい。
すみれさんからも来た。
〔『夏子の酒』ですね〕
〔しぶい〕
〔やっぱり独立した女って意味で、あのマンガはいいマンガだったわ。日本酒ブームの立役者にもなったし。すごいよ〕
お茶の師範を務めるすみれさんとしては日本文化として思うところがあるに違いない。
「そういえば羽海は?」
「スラムダンクって言ってた」
「らしいわ」
「ふーん。羽海ちゃん、スラムダンク好きなんだ」
静流は意外そうに言った。確かに世代ではないが、学童でアニメを見ていたけれどとても面白いではないか。
「お、細野くんからきた」
〔僕は『まかない君』です。従姉妹3人の家に下宿することになった男の子が毎度毎度食事を作りつつ、うんちくを披露するマンガです〕
〔そ、それは僕の立場がマンガになったのでは……〕
〔従兄さんの場合はどちらかというと『いとこのこ』ですよ!〕
両方知らない雫としては何のことやらである。
〔『まかない君』はいいよね〕
〔ウチの場合、トイレに置きっぱなしでいつも読んでいます!〕
なるほど。好きなマンガと言うよりも愛読書らしい。
「まかない君って?」
「男の子が創作料理を披露する話でもある」
「あ、本当に静流だ! だから“まかない”か」
「今度、買おうね~~ で、『いとこのこ』ってどんなマンガ?」
「わすれなさい。すぐに、忘れるんだ」
静流はそう言ってスマホをしまった。仕方が無いので雫は自分のスマホで調べてみると、『いとこのこ』は田舎の従妹の家に来た都会の男の子の話で、従妹の女の子の一人称は『うち』だった。男の子は2歳年上で、小学生の従妹の女の子は男の子にタックルしたり、抱きついたり、男の子の膝の上でゲームしたりと、とにかく元気いっぱいのキャラクターだった。
「なんか、ウチに被るな……」
忘れろと静流が言った意味も分かった。今、読んでいるところでは男の子がちょっと従妹の子が気になりかけているところで、ハグとかもさせていた。
ふーん。
雫は面白くなってきたと思う。蒼は『いとこのこ』を自分たちの関係に重ねて見たのだ。そしてそれを静流も認識しているのだ。
静流がカウンターから離れて自分の部屋に行こうとしたのか、椅子から立ち上がった。そして背中を自分に向けた。いいタイミングだ。
「どっかーん!」
そう叫んで静流にタックルする。静流は背中を反らせて雫の体重を受ける。
雫は静流の背中に抱きつきつつ、言った。
「『いとこのこ』ごっこ!」
そう宣言する雫に対し、ははははは、と静流は苦笑するだけだった。
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