女子小学生と大学生のコスプレイベントと新しいお友達
第58話 従姉妹がきましたよ
従姉のつむぎから久しぶりに連絡がきたのはGWが過ぎてしばらく経った水曜日の夜のことだった。前の連絡が、静流が来るタイミングだったから、もう2ヶ月くらいは経っている。なんだろうと思いつつ、画面を開けてみると画像だった。
その画像はコスプレの画像だったが、前に貰っていたものとは異なり、場所はコミケ会場ではなく、どこかの屋外ステージの上で、映っているのも前回とはマジカル・クリスタルは共通していたが、相方はシャイン・メタルではなく、マジカル・ジェダイトだった。
『2人は
《しずくちゃん、元気?》
少し遅れてメッセージが来た。
《元気だよ》
《静流さんは犯罪者になってない?》
《犯罪者にしたいのだが、ウチに手を出してこない》
《危ない。やめてあげてよ。静流さんがかわいそう》
《極秘裏に済ませれば誰も逮捕されない》
《小学生怖い》
《それでどうしたの? この写真、何?》
《それね、春にここからちょっと離れた駅前の屋外ステージでミニライブをやったときの写真。かわいいでしょう、2人とも》
《うん。前の人は同じだと分かった。もう片方のキャラ、つむぎちゃんじゃないよね?》
《分かる? 新しくできた友達なの》
《コスプレ友達が増えて良かったね》
《そうなんだ。それでね、もっと増やしたいなと思っているんだ》
《頑張ってください》
《スルーしないでよ! 雫ちゃんにコスプレして貰いたいの!》
数秒考えた後、意味を理解して雫は返信した。
《ウチ、衣装を作る才能もお金もないよ》
《そんなこと期待してないよ。全部、私に任せて! コスプレするなら頑張って作るから!》
《――つむぎちゃん、受験生だよね? そんなことしていて大丈夫?》
《だから、だから最後にしたいから、合わせたいの。コスプレイベントが近々あるの。そこで。あのね、2人は魔法少女の2シーズン目に小学生の女の子が変身するキャラがいるでしょう》
《つまり、それをウチが?》
《話が早い。そう。マジカル・オパールをやってほしいの》
マジカルオールスターズの映画で見た覚えがなんとなくある。黄色くて小さいキャラだ。
《それをやってウチに何のメリットがあるの》
《静流さんだってかわいいって言ってくれていっぱい写真撮ってくれるに決まってるじゃない》
そのメッセージを見た後コンマ数秒、無意識のうちに雫は返信していた。
《やる!》
そして送った後、しまったと思った。静流は別にアニメオタクではないので喜ぶとは限らない。しかしつむぎも静流の名前を出してくる辺り、策士ではないか。やるな。
《まかせて! 今、ベース衣装をポチるから!》
翻意を伝える間もなく、つむぎからの連絡が数秒、途絶えた。
《今、ポチった。金曜日には届く》
《やるけど、1回だけだよ》
《土曜日か日曜日、衣装合わせに行くから、よろしく! どっちが都合がいいか、教えてね!》
そして連絡は途絶えた。嵐のようなやりとりであった。
静流が風呂から上がってきて、リビングで呆然としている雫に聞いた。
「なんかあったの?」
どうやら動揺は顔に表れてしまっているらしい。
「つむぎちゃんから連絡が来た」
「へえ。そういえばこっちに来て会ってないな。受験のときはお世話になったから行かなきゃとは思っていたんだけど。なんだって?」
「土曜か日曜に家に来るって」
「遊びにきてくれるんだ? じゃあ菓子折でも買っておこう。持って帰って貰おう」
「そんな簡単な話じゃないんだ。前につむぎちゃんがコスプレ画像を送ってきたの、覚えてる?」
静流はなにか動揺していた。
「覚えてる――『2人は魔法少女』だよね」
「ウチにもやって欲しいって。静流、どう思う?」
雫は静流の顔色を窺った。ネガティブな反応が返ってこないことを祈るばかりだ。
「何やるの?」
「マジカル・オパールとか言っていた」
静流はスマホで調べ始めた。
「これか。かわいいじゃないか。あの画像の水準でコスプレできるんなら楽しみだね」
静流は真顔で言っていた。他意はないようだ。
「本当に?」
「うん。僕はコスプレには興味がないけれど、海外ではコスプレしてTRPGをするイベントもあるくらいだから、とっても近い気がするよ。何事も勉強だよ」
「かわいい?」
「マジカル・オパール、かわいいよね?」
「ウチがやったら?」
「いっぱい写真撮ること間違いないよ」
「やるやるやるやる。コスプレやる!」
急にやる気が出てきた自分は現金だと心の片隅で雫は思うが、それは更にどこかに追いやる。静流がかわいいと言っているのにやらない選択肢はない。
「なんかすごいやる気出てるね」
「やるぞ~~!」
雫は拳を振り上げて己を鼓舞したのだった。
つむぎが来るのは土曜日の午後に決まり、雫の感覚時間ではあっという間にその約束の時間はやってきた。玄関に姿を現したつむぎは完全によそ行きの顔をして、出迎えた澪の応対をした。
「つむぎちゃん、よく来てくれたわね。久しぶり」
「澪おばさまも相変わらず美人ですね。ぜんぜん年齢を感じさせません」
「誉め言葉だと受け取っておくわ」
「もちろん誉めています。はい、これ、父からです」
菓子折を澪に手渡し、澪はにっこりと受け取り、リビングに通す。
「ゆっくりしていってね。市内なんだからもっと遊びに来てもいいのよ」
「あいにく高校受験なので、そんなには来られないと思います」
「そっか。そんな歳なんだ。早いなあ」
澪は遠い目をした。
「雫ちゃん、よく決心してくれたね。ほとんど二つ返事だったけど」
つむぎの目が雫に向き、雫は小さく頷いた。
「ウチはやるよ、つむぎちゃん」
「静流さんは?」
「お買い物に行ってるよ。つむぎちゃんが来るからスイーツを作るって言ってた」
「静流さん、気遣うなあ」
「さあ、始めよう。ウチの気が変わらないうちに」
「気が変わったら大変だ。すぐやろう」
「って、何をするの?」
澪にはつむぎが何をするか話しそびれていた雫だった。
「えーっと、完成してからのお楽しみ」
「完成?」
「じゃ、失礼しまーす」
つむぎは澪の質問をかわすため、雫の背中を押して雫の部屋まで行った。そしてバッグの中から、マジカル・オパールの市販衣装が入ったビニール袋を取り出し、意を決したように雫の両肩を押さえて顔を見た。
「うん。雫ちゃん、かわいいよ!」
「ど……どうも」
「澪おばさんが美人だから当然とは思うけど、本当にかわいい。コスプレ映えするよ」
「う、うん」
「まず着てみようか。素で」
雫は言われるがままに上着を脱ぎ、ジュニアブラとパンツだけになる。
「雫ちゃん、もうブラしているのね。その方がいいよ。スパッツあるかな。スパッツは衣装に入っていないの。あと白いスポーツインナーがあると尚よし」
「あるある。どっちも」
引き出しからスパッツとスポーツインナーを取り出す。確かスパッツはアニメでも普通に黒だったはずだ。先にスパッツを履き、次にスポーツインナーを着てから、マジカル・オパールの市販衣装を着る。マジカル・オパールはベースがイエローオパールなので、衣装も黄色だ。ふんわりしたスカートと背中の大きなリボンとツインテールにするための髪飾りのイエローオパールが印象的なキャラクターだ。
ものの5分で着終えて自分の姿を見てみると、とりあえずマジカル・オパールっぽくはなるが、いろいろサイズが合っていない。何よりマジカル・オパールはツインテールなので雫が再現するにはカツラが必要だった。それでも変身感は十二分に味わえた。
「うんうん。想定よりもずっといいよ。鏡で見てみようか」
そしてつむぎと一緒に洗面所に行って鏡を見るともうほとんどマジカル・オパールが鏡の中にいて雫は驚いた。
「どう思う?」
「いいと思う」
「良かった。続けていい?」
「ここまで来て逃げないよ」
「ありがとう。ちょっと手直しする部分にマチ針を刺したいから戻ろうか」
「うん」
そして洗面所を出たところで静流が帰ってきた。
「いらっしゃい、つむぎちゃん」
「お邪魔しています」
「雫ちゃん、早速着ているんだね。いつもかわいいけどコスプレもすごくかわいいよ」
いつも静流の『かわいい』を聞いているはずなのに、雫は何故か照れてしまって、小走りで自分の部屋に逃げ込んでしまった。つむぎのからかう声が聞こえる。
「いろおとこ~」
「からかわないでよ。これからデザート作るから待っていてね」
「ありがとうございます」
そしてつむぎが部屋に戻ってきて、ピタリと引き戸を閉めた。
「雫ちゃん、あんなにかわいいを連発する男子は、気をつけないといけないんだからね」
「ウチ、変だ。いつも静流のかわいいを聞いているのに」
「今日はちょっと意味が違ったんじゃないかな。そのかわいいの中にはマジカル・オパールへのかわいいも含まれていて、やっぱり特別感があったんだよ」
「特別感?」
「そう。コスプレの魔法」
「コスプレの魔法……」
つむぎは意味ありげに笑った。
「女の子が主導権を握らないとね。いい感じだよ、雫ちゃん」
「うん」
不思議とつむぎの言葉を受け入れられた雫だった。
その後は雫の体形に合わせて直す部分の検討と、作りが甘くてクォリティーが下がっている部分をどう改善しようかの検討に入った。つむぎは今まで雫が見たことがない真剣な顔をして衣装のクォリティーアップに取り組んでいた。
どんな趣味であろうとも真剣に取り組めば、その人に何か返ってくるのだな、とその表情をみて雫は考えた。今まで自分はそんなに何か真剣に取り組んだことがあっただろうかと思う。今のつむぎの表情に1番近いのはさくらが試合の時にしていたそれだろうか。
自分も何かしら、つむぎがコスプレに、さくらが空手に打ち込むように真剣に取り組める何かが見つかるといいな、と思った。
「イエローオパールのところはもっと本物っぽいのにしたいな。クリア素材のプラスチックではね……まあ、なんとかしましょう」
つむぎは決意を固めたようだった。
マチ針を刺したままなので雫は気をつけて衣装を脱ぎ、検討会は終了した。
「けど雫ちゃん、お胸、大きくなってきたね。夏に一緒にお風呂に入ったときのことを思い出したけど、とっても女の子っぽくなった」
「そっか。それは嬉しいな」
久しぶりに会うつむぎだからこそ分かるのだろう。
2人が部屋から出ると静流がキッチンでスイーツを作っていた。
「もう少しでできるから待っていてね」
「はーい」
「ごちそうになります」
静流が作ってくれたのは白玉のこしあん掛けだった。白玉は手作りらしい。しっかり冷えていて上品な甘さが感じられた。
「静流さんは気遣いが上手ですね」
つむぎは笑顔で頷いた。
「そんなことはないよ。作るのが好きなだけさ」
「今度、なにかあったら相談に乗ってください」
「うん、いいよ」
静流はスイーツのつもりで応えたのだろうが、つむぎはコスプレの小道具を想定している気がした。
「静流くんがスイーツを作るの珍しいよね」
ご相伴にあずかっている澪が聞いた。
「この前、ポテトチップスをみんなで作ったでしょう。それでスイッチが入ったんです」
「静流さん、ポテトチップスも作るんですか?」
つむぎが驚いていたので静流は軽く解説し、納得していた。
結構遅い時間になったのでつむぎは帰宅することになった。
「今度は夕ご飯、食べてから帰ってね」
普通、澪がいうところだが、その発言は静流の発言だ。
「ええ、親に言っておいて、時間を調整します」
そしてつむぎは帰宅の途についた。
「あ、何をしていたのか私、見そびれた」
澪が少し間の抜けた発言をした。
「つむぎちゃん、完成したらって言っていたから見せなかったんだよ、たぶん」
「未完成なんだ?」
雫は大きく頷き、澪は妙な顔をした後に頷いた。
「ふむ。それでは完成を楽しみにしようか」
つむぎはイベントがあると言っていた。きちんとイベントのことやこれからのスケジュールを聞いておけば良かったと思いつつ、雫は静流に言った。
「もうちょっとつむぎちゃんに付き合おうと思う」
細かいことは連絡すれば教えて貰えるだろう。
「必要なら僕も協力するよ」
その静流の応えを聞き、雫は満面の笑みで頷いたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます